【熱海土石流百条委】「知らない」で責任回避図る土地所有者

昨年7月に発生し、死者27人、今も1人が行方不明という大惨事になった静岡県熱海市の土石流災害。同市は「伊豆山土石流災害に関する調査特別委員会」(以下百条委員会)を設置して原因究明にあたっているが、関係者から聞こえてくるのは不信や不満の声だ。

■「知らない」「わからない」――とぼける土地所有者

土石流は、熱海市赤井谷付近で発生、盛り土や不法投棄が大惨事を引き起こした一因であると静岡県などが認めている。

今月12日、百条委員会が熱海市議会で開催され、現在の土地所有者であるZENホールディングスのトップ・麦島善光氏と元の土地所有者で新幹線ビルディングの代表・天野二三男氏が呼ばれ証言した。

これまで、謝罪会見もせず、マスコミの前にもほとんど姿を見せなかった麦島氏。午後1時からの証人尋問ということで、マスコミが熱海市役所周辺に集まり彼の姿を探し求めたが確認できず、音声のみをマスコミに公表する方式で尋問がはじまった。

最初に百条委員会の稲村千尋委員長が、主尋問として麦島氏に問い、同氏が答えた。

――1点目 土地購入 前土地所有者(新幹線ビルディングの天野氏)の盛り土届け出書では盛り土の最下部に土堰堤(つちえんてい)沈砂池(ちんさち)を設置することになっていた。届け出書通りに施工されていないこと、承知していましたか?
麦島:それは……施工されているという事実は、わからなく、知らなかった。

――(天野氏が)沈砂池が、施工していないことを承知していた?それでよろしいですか?
麦島:施工していないことも、仮にしていたとしても自分では確認していない。

――次に盛り土の高さ。静岡県の土採取規制条例の規定では15m以下。前土地所有者(天野氏)の盛り土の高さは15m以上をはるかに超えて県条例に違反していた?
麦島:承知しておりません。

――前土地所有者(新幹線ビルディングの天野氏)との契約は
麦島:わたしが直接やっていない、仲介人の○○さんにすべてお任せしていた。細かなことわかりません。

――(土地を)購入後、盛り土が崩落した周辺に土砂を搬入されたか?土砂搬入を承諾したことはありますか?
麦島:搬入したことはない、頼まれたこともありません。

――熱海市から盛り土の危険性を指摘とか、何か指導は?
麦島:具体的にはなかった。

■証言と矛盾する事実

要するに、現在の土地所有者である麦島氏が主張したかったのは、“何も知らなかった、悪いことは何もしていない”という責任回避だ。しかし、麦島氏が土石流の起点となった熱海市赤井谷所在の35万坪の土地を購入したのは2011年2月。今年3月、百条委員会にに参考人招致された麦島氏の元代理人は「崩落現場の土地は、最初35億円でしたが、3億円で(麦島氏が)買った。問題、瑕疵があることを知っていたのではないか」と証言している。

さらに、静岡県が公開した麦島氏の2013年1月9日付『静岡県東部健康福祉センター長』宛ての書面には、「熱海市伊豆山赤井谷地内産廃処理について」として、天野氏から購入した土地に産廃が埋められていること、盛り土をしている部分が以前にも崩落したことを把握していると明かした上で、こう約束している。

この2件の問題案件処理に善意を持って解決する覚悟であります。問題解決に当たり当然静岡県庁及び熱海市役所の担当部門との調整と関係法令を遵守した施工を致します》

書面には、個別具体的な工事計画と概要も記されている。

前土地所有者が熱海市建築指導課を無視して放置した伊豆山漁港及び逢初川下流水域への土砂崩壊による二次災害防止の安全対策工事を施工する》

産廃は建築解体廃棄物と岩石、その他投棄物と区分け》

詳細な書き込みで、細かな図面や産業廃棄物の分量まで計算されていたが、それでも麦島氏は別の市議の質問に対し、「赤井谷の崩落現場には、恥ずかしいが行ったことがない」ととぼけてみせた。

2011年11月、熱海市が麦島氏の代理人と協議して工期を2012年1月末までと決め、崩落現場の土地について法面の整地、排水溝の幅の拡大、全体の緑化といった盛り土崩壊を防ぐ工事を確認しておきながら実際には行われていないことを問われても、「盛り土あったこと、なんかしなければならないこと、私には認識ありませんでした」と関わり合いを否定した。

だが、麦島氏は「あそこについて私がやったことは一つ。それは、だんだんになっている敷地(崩落現場)に木を植えた。これだけはよくわかっている」と発言。「崩落現場のところをきれいにしてほしい」と業者に語っていたとも証言した。『行ったことがない。知らない』はずなのに、なぜか木を植えたことを覚えているのだろうか。明らかな矛盾だ。

おまけに、百条委員会に麦島氏の代理人となっている河合弘之氏ら5人の弁護士が連名で上申書を送付していたことも判明。“(その内容が)ストップがかかるような、プレッシャーがかかる書面で面食らった”と質問されると「覚えがない、なんでしょう」と訝しがる麦島氏。百条委員会が設置されたのは昨年11月だが、それも知らないというのだ。

その一方で、気になる証言があった。熱海市の齊藤栄市長や県議会議員に会ったことがあるかという麦島氏への質問に対して「市長には会った。3回あっている、1回は市長室で会いました」と明確に答えたのだ。この証言について、ある熱海市議会関係者が次のように話す。
「静岡県や熱海市から是正措置を求められながら、何もしてこなかった麦島氏が齊藤市長と3回も会ったと聞いて驚いた。問題を10年以上もほったらかしにできたのは、そういう背景があったからではないかと疑念を持つ声が市役所の中ではあがっています」

尋問は終わったが、麦島氏はマスコミの前には姿を見せず。代わって、マスコミ対応した河合弁護士は自信ありげに、「麦島さんの言った通り、盛り土があることも知らなかった。(天野氏との)契約書、重要事項説明書などに盛り土という文字もない。法的な責任はないと考えている」と語った。

なぜか、百条委員会はマスコミ限定で音声だけが公開されている。証人や参考人の「追跡取材をする行為はおやめください」と制限までかけている。一連の動きについて被災者の一人は、憤りを語っている。
「土石流災害の真相究明のため開催されている百条委員会を被災者、市民が傍聴できないというのはどうなっているのか。現在の土地所有者、麦島氏には重大な責任があるはず。知らないとばかり話す対応には、怒りを通り越して呆れるばかりです」

 

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