二階元幹事長の憂鬱

「わかっていたことだが、選挙区が減ることが現実となってきた。やばい……」――そう漏らしたのは、自民党の元幹事長・二階俊博衆議院議員の側近だ。

6月16日に公表された衆院小選挙区の新たな区割り改定案「10増10減」によれば、これまで3つの小選挙区だった和歌山県は1減となり、2つの小選挙区となる。

◇   ◇   ◇

現在、和歌山1区は岸本周平衆議院議員(無)、2区は石田真敏衆議院議員、そして二階氏は3区が地元だ。1区が県庁所在地の和歌山市と隣接する紀の川市と岩出市。残った市町村が2区という区割り案になっている。

1区の岸本氏は、官僚出身で5回当選を誇り、その実績をひっさげて今年12月の和歌山県知事選挙に挑戦する予定だ。

「時期がくれば、衆議院議員を辞職する。当面は国民民主党から離党し無所属で活動します」(岸本氏)

二階氏が「10増10減」を見越して、岸本氏を知事に転出させたのではないかという舞台裏の見立ては、すでに本サイトで報じた。(参照記事⇒野党議員も政争の「駒」|二階氏が支配する和歌山県政界の裏事情

2区の石田氏は、総務相も経験した大物。新しい和歌山1区には紀の川市と岩出市が含まれ、そちらに石田氏、新しい2区には二階氏ということで話がまとまるとみられていた。しかし、別に名乗りをあげる大物が出てきた。自民党の世耕弘成参議院幹事長である。

民放テレビの番組に出演した世耕氏は、「政治家となった以上は、トップの立場をやってみたい」、「法律で禁止されていないが、参議院からもトップ(総理)にはなれるが、過去に前例がない。林さん(林芳正外相)は参議院から衆議院へ移ってトップを目指すという。チャンスがあればという思いだ」などと語っており、参議院から衆議院への鞍替えを視野に入れているのは確かだ。

世耕氏の伯父で元自治大臣の世耕政隆氏、大叔父の元経済企画庁長官、世耕弘一氏の地盤は和歌山県南部、つまり現在の和歌山3区である。和歌山県のある自民党県議が、次のように解説する。
「近畿大学系列の学校や関連施設が和歌山県南部に多いのは、世耕氏一族の出身がその地域だからです。昨年10月の衆議院選挙でも、当初、世耕氏は鞍替えすべくポスターまでデザインして備えていた。しかし、その時は二階氏が首を縦にふらずに断念。林芳正外相と世耕氏は参議院選挙では常に圧勝しており、注目は得票率というほど選挙に強い。林氏が衆議院に転出したことで、世耕氏は『先を越された』という思いが強い。次に狙っているのが、世耕一族の出身地を含む新しい和歌山2区、つまり二階氏の地元であることは間違いない」

その二階氏は昨年、菅義偉氏から岸田文雄首相に政権が代わった時点で幹事長を退任。政界引退も噂されていたが、同年の総選挙に出馬して圧勝した。簡単に地盤を譲るとは思えない。二階氏の支援者が、こう語る。
「二階先生はまだまだやると言っています。5月にも二階派のパーティーを開催して存在感を示したしました。今は非主流派ですが、菅前首相のグループと合流して大きな派閥に衣替えする計画も着々と進んでいる。二階氏は世耕氏にだけは譲りたくないとの思いが強い。長男か三男を後継指名するという話は、以前からあります。しかし、長男は昨年10月の衆議院選挙で、マスコミを前に大声で『時間がないんだぞ』とスタッフを叱責するような人物。2016年に行われた地元の御坊市長選挙でも大敗しています。三男とは仲が悪く、目も合わせない。跡継ぎの適任者がいないのは事実でしょう。石田氏もそういう二階家の事情を知っているので、本音では、地盤の大半が含まれる新しい和歌山2区で出馬したいはずです。今年になって岸田派入りしたのは、そうした背景があるからです。話がこじれれば、世耕氏を交えた3人の争いにもなりかねません」

二階派のある議員の話。
「週刊誌に“ボケた”と書かれたようですが、二階先生はボケてなんかいませんよ。ちゃんと計算してしゃべっている。ボケたと書かれて怒るのは周囲のとりまきで、二階先生は豪快に笑っていました。それだけ余裕がある。しかし、定数削減についてはかなりイライラが募っている。今回の参議院選挙でも地元に入り、派閥の一員でもある鶴保庸介氏の応援に余念がありません。まだまだやるつもりなので、暑い中を駆け回っています。引退なんかしませんよ」

派閥をバトンタッチできそうな大物は育っておらず、選挙区で勝てる見込みがある後継者も不在――。引退したくてもできない二階氏の、憂鬱な日々が続く。

 

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