故意か怠慢か ― 重要証言見落とし|鹿児島・強制性交事件の民事訴訟判決に重大な瑕疵(中)

鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)から性被害を受けたとして女性看護師が損害賠償を求め鹿児島地方裁判所に提起した訴訟は、今年7月、前原栄智裁判長による「請求棄却」のひとことで一審の幕を閉じた。理由も告げられずコロコロと変わった裁判官、原告と被告を取り違えたまま下された判決――。これまで報じてきた通り、“告訴状の受け取り拒否”に始まった不当捜査で鹿児島県警にもみ消された可能性が高い刑事事件は、検察の不作為が加わって不起訴。被害女性が真相究明への望みをつないだ民事訴訟の一審でも、裁判官がありもしない話をでっち上げて訴えを退けた。

問題の判決を検証する中、故意か怠慢か、審理に関わった裁判官たちが、被害女性の法廷での証言を聞き漏らした上、その後に作成された尋問調書の記述も見落とすという信じられない誤りを犯していたことが分かった。

■「警察一家」の不当捜査

まず、事件経過を下の表で振り返っておく。2021年の秋に発生した強制性交事件は、告訴状の受け取りを拒否するなど県警の不当な捜査によって不起訴に。女性が鹿児島中央署に被害申告する直前、後に民事訴訟の被告となった男性が、父親の元警部補とともに同署を訪れていたことが分かっている。その際「合意の上での性行為」を主張したことで、「警察一家」が事件の矮小化を図った疑いが持たれている。

■鹿児島地裁の不当判決

正義の実現から逃げた民事法廷における“不当判決”の問題部分を下に示す(*赤い書き込みはハンター編集部)。原告女性が性被害を受けたことの根拠の一つとしているのは、2021年9月30日に被害を打ち明けた同僚(「D」と表記)に送ったメール。この日、最後となった性被害を受けた原告は、現場となった施設内にいたDさんに対し「戻ってきてほしい」とメールを打ったが叶えられなかった。そして被告男性による卑劣な犯行――。直後に原告女性はDさんに、「帰ってきてくれたらよかったのに」と記したメールを送信していた。その翌日の10月1日、原告女性のメールに気付いたDさんが原告女性に状況を尋ね、事件が発覚する。

この「帰ってきてくれたらよかったのに」というメールの文言について鹿児島地裁は、以下の赤いラインで示したように《原告がいかなる理由でDに「帰ってきてくれたらよかったのに」と送信したかは不明》と断定。強制性交を推認することはできないとの判断を下している。

女性の主張をあたまから否定し、「合意があった」と決めつけた判決にとって、《原告がいかなる理由でDに「帰ってきてくれたらよかったのに」と送信したかは不明》の部分は、最重要の拠り所だ。しかし、この『不明』が大きな間違い。原告女性は、法廷における代理人弁護士とのやりとりの中で、メールを送った理由を明確に述べていた。

――時期としては令和3年10月初句のようですけれども、最初の確認として、まず、これはあなたから積極的にDさんに対して、実はこういうことがあったん だ、聞いてほしいということで伝えたことだったんでしょうか 。
原告:(略)Dが私の所に来て、何があったのって言ってくれたときに 今まで蓋をしていた感情がー気にあふれ出しました。積極的にというよりはDの、何かあったの?っていうその一言がある種きっかけ で、被害に遭ったことを言いました。

――もともと言えないなと思っていたところが、止められなかったというふうに伺っていいですか。
原告:はい。

――このときには、先ほど話された全ての性被害について話をされましたか。
原告:いいえ、9月30日のことだけです。

――それはなぜだったんでしょう。

原告女性は、「帰ってきてくれたらよかったのに」というメールの文言が、《戻ってきてくれたらきっと被害に遭わなかったのにという思い》から発したものだとハッキリ証言していた。判決に関わった裁判官たちは、法廷での生の声も、反訳が記された調書の記述も把握せず、一方的に理由を《不明》と断じたのだ。原告女性の主張には目を向けず、はなから「合意に基づく性行為」だと決めつけていた証拠だろう。予断と偏見に満ちた判決を、決して許してはなるまい。

裁判官を激しく入れ替え、誤りだらけの判決文で間違った判断を下した鹿児島地裁民事二部。じつは、新たに確認した裁判記録から、これまで報じてきた「でっち上げ判決」の詳細が明らかになってきている。以下、次の配信記事で。

(中願寺純則)

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