21日、自民党の高市早苗総裁が首班指名で憲政史上初の女性総理に選ばれた。高市氏はさっそく組閣に着手。党幹部人事で裏金議員の萩生田光一氏を幹事長代行に起用して批判を浴びたこともあってか、閣僚への裏金議員起用はなかった。だが、新政権の前途には暗雲が漂う。
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事前に「女性閣僚を6人起用」との報道もあったが、ふたを開けてみれば、片山さつき財務大臣と小野田紀美経済安全保障担当大臣の2人だけ。9月の総裁選で推薦人になった議員からは、小野田氏の他、沖縄及び北方対策大臣の黄川田仁志氏、デジタル大臣として松本尚氏の3人が抜擢されている。官房副長官の尾崎正直衆議院議員も高市氏の推薦人。論功行賞型の、まさに「お友達内閣」である。
党役員人事で「影の総理」と揶揄される麻生太郎副総裁の影響力が目立ったため、閣僚人事には苦心した様子が見える。ある自民党の大臣経験者がこう話す。
「裏金議員のボス格である萩生田(光一)さんを幹事長代理にするなど、役員人事があまりに酷く、公明党からも愛想尽かしされた。閣僚人事は麻生カラーが出ないようにと高市さんが差配したのでしょう。ただ、(高市氏には)友達が少ないので、論功行賞で推薦人3人を入れたってことでしょう。ここで麻生さんの意向に沿った閣僚人事やったら、高市内閣は吹っ飛びますよ。それでなくとも首班指名で『造反が出る』と党内では最後まで噂になっていたほど。慎重にならざるを得ない。ただ、石破政権の閣僚が4人、担当を代えて横滑りしたのが意外でした。麻生氏はムッとしているそうです」
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一連の人事に怒りが収まらないのが山口壮衆議院議員だという。旧民主党時代に外務副大臣などを経験して自民党に移り、旧二階派に所属して環境大臣を務めた。旧二階派が解散すると、唯一残った麻生派へ。総裁選では、これまでほとんどつながりがなかった高市氏の推薦人となった。
地元の支援者によると「山口さんは『小泉進次郎についても大臣にはなれない。推薦人集めが厳しい高市さんがもし勝てば、大臣になれる。麻生派に入ったのも、もう一度大臣をやりたいからだ』と言っていた。高市さんが総裁選で勝った後は、『次は大臣なので地元に帰る回数が減るかもしれない』とあちこちで吹きまくっていた」
しかし、山口氏の名前は閣僚名簿にはなかった。旧二階派は 裏金事件で会計責任者が起訴され、すでに有罪判決が確定。山口氏は同派の事務総長だったことで、ある意味裏金議員の一味とみられても仕方ない。
もう一人、有力な大臣候補とされたのが同じく推薦人だった松島みどり衆議院議員。「選ばれたら、どんな服で(官邸に)行こうか」などと同僚議員に相談していたという松島氏。首相補佐官となったが、大臣にはなれなかった。
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高市首相はこれまで、裏金事件は「決着済み」と明言してきた。批判を避け閣僚には登用しなかったが、副大臣と政務官には7人の裏金議員を抜擢している。裏金最高額は、高市首相の地元である奈良県選出の堀井巌参議院議員の876万円だ。政治とカネの問題、とりわけ企業団体献金の廃止などを巡って連立を組んだ維新と対立することも想定される。
今月14日には、高市氏と近い旧安倍派の加田裕之参議院議員が、不起訴となっていた政治資金規正法違反事件で、検察審査会から「不起訴不当」と議決された。加田氏のパーティー券キックバック額は648万円。東京地検特捜部は、不記載金額3,000万円超を立件ラインとしていたことや、会計責任者との共謀関係がないことなどから不起訴にしていたとみられる。だが、検察審査会の議決を見ると加田氏に加えて2人の事務所関係者も不起訴不当とされている。
加田氏を告発したのは神戸学院大学の上脇博之教授。加田氏はキックバックがばれた後に政治資金収支報告書を訂正していたが、該当分を「不明」としたことが咎められた。告発状によれば、《収支報告書不記載・虚偽記入が行われた原因としては、とりわけ、「清和政策研究会」のキックバックにおける受領日が「不明」として訂正されたことから判断すると、当該受領が「県参議院選挙区第三支部」の会計帳簿に記載されなかったからだろう(政治資金規正法第9条違反)。つまり、初めから以上の政治資金規正法違反を行なう強い意思(故意)があったからだろう》と指摘、故意に記載をしなかった疑いがあるとしている。
検察審査会は、《被疑者加田に対しては、政治資金規正法の目的、基本理念を踏まえれば代表者たる議員として、収支報告書の記載について監督義務があると考える》として、検察の「過失」についても《検察官は、一般的に考えられる被疑者らの供述内容を裏付ける捜査をしておらず、積極的な捜査をしたとはいえない》と言及した。要は、自民党への配慮あるいは忖度があったのか、検察が捜査を尽くしていないということだ。
「今、旧安倍派、旧二階派、旧茂木派、旧岸田派に関連するキックバックについても検察審査会に申し立てている。検察審査会が特捜部の捜査を手抜き捜査だったと批判しているに等しいですね」と上脇教授は語る。事実、萩生田氏の元政策秘書・牛久保敏文氏は今年8月、裏金事件の政治資金規正法違反で略式起訴され有罪が確定。まさに“手抜き捜査”の象徴となっている(既報)。
今後、再燃する可能性がある裏金事件。高市首相は、これからも「決着済み」と言い張るのだろうか。















