派閥政治の復権|“変わらぬ自民党”を象徴する総裁選
「難しい人事になるね」と話すのは、ある自民党の大臣経験者。女性初の高市早苗新総裁を選んだ自民党内で、早くも党幹部や閣僚の人事をめぐる激しい争いが起きている。
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高市氏を総裁に押し上げたのは、麻生派を率いる麻生太郎党最高顧問だ。決選投票では、麻生氏が総裁選に立候補していた茂木敏充氏と小林鷹之氏に対して「高市氏推し」を指示。小泉進次郎農相が優勢とされていた議員票でも高市氏が上回った。高市氏は総裁選終了直後とその翌日、満面の笑顔で「麻生詣で」を行っている。
石破茂首相誕生の際は、岸田文雄元首相の旧岸田派、菅義偉元首相のグループであるガネーシャの会が主流派となり、権力を握った。しかし高市氏に総裁が代わり、主流派は麻生派、旧茂木派、旧安倍派、小林氏の陣営となるのが確実だ。前出の大臣経験者は、次のように懸念を示す。
「麻生さんはズバリ作戦を的中させ、高市氏を総裁に押し上げたことで復権。副総裁に返り咲く見通しだ。高市新総裁の周辺を麻生さんの息のかかった人物でがっちりと固めるはずで、そこに旧安倍派が加わると、せっかく誕生した女性初の総理・総裁が“麻生傀儡”だと批判され、『解党的出直し』という言葉も虚しいものとなる」
旧安倍派の代議士は、「高市さんが勝った後、麻生さんとその側近にはすさまじい数の電話やメールが来ているそうです。ポスト欲しさの売り込みですね。麻生さんは総理になった気分ではないでしょうか」と苦笑する。
いち早く幹事長には鈴木俊一総務会長の就任が決定的となったが、同氏は麻生氏の義弟で、父は鈴木善幸元首相。「露骨過ぎる。まるで麻生政権だ」(旧二階派の議員)との声も上がる。
総裁選で戦ったメンバーのうち、小泉氏は農相から別の閣僚に横滑り、小林氏は経済関連の閣僚か党役員に起用される見込みだ。外相には茂木氏、官房長官には旧茂木派の木原稔前防衛相が充てられるという。
一方、旧安倍派内でもポスト争いが熾烈だ。手を挙げているのが、萩生田光一元政調会長と西村康稔元経産相という裏金議員コンビ。旧安倍派の関係者が冷めた表情でこう話す。
「萩生田さんは高市さんが勝ったとわかると、飛び跳ねんばかりの喜びようでした。西村さんも『こちらに風が吹いてきた』と復権に意欲的です。ただ、裏金議員ですから野党から国会で追及される可能性が高い。党役員などで処遇するしかないでしょうね」
幹事長代理への就任が決まったとされる萩生田氏の政策秘書・牛久保敏文氏は今年8月、裏金事件の政治資金規正法違反で略式起訴され、有罪が確定した。認定された萩生田氏側の収入不記載額は約1,950万円。しかし、旧安倍派の政治資金パーティーに絡むキックバックの金額は2,728万円に上っていたことが分かっている。
萩生田氏の政党支部「自由民主党東京都第24選挙区支部」の政治資金収支報告書を確認すると、令和5年分は、いったん「不明」とされていた収入、支出の総額などを含む多くの部分を訂正。政治資金規正法に従って正しく作成しなければならない政治資金収支報告書の宣誓書には《収支の一部に記載項目が不明なものがありますが、判明次第訂正します》と手書きされていた。令和6年分には《使途不明金 35,925円》が記載されたままだ。
政治資金は、課税されないという“特権”がある。自分の政治資金収支報告すら満足にできない裏金議員の萩生田氏が、新政権で処遇されるということに賛意を示す国民は少数だろう。同氏が、旧統一教会と密接な関係にあったことも忘れてはなるまい。
決めるのが難しいとみられているのが林芳正官房長官のポスト。総裁選では、議員票が小泉氏に次ぐ2位で高市氏よりも6票多かったことから、ポスト高市の最有力候補に躍り出た。しかし、ある旧岸田派の衆院議員は顔を曇らせる。
「林さんはこれまで、外相、防衛相、官房長官など重要閣僚を歴任してきた。今度は党幹部を経験したいようで、政調会長か幹事長が狙いだったと思う。ただ、幹事長は鈴木氏で決まり。政調会長には小林氏を充てるという。無役も覚悟しているんじゃないか。麻生さんと岸田さんの関係は微妙だ。それ以上に林氏のバックに旧岸田派の元会長である古賀誠さんがいたことがマイナスになる。麻生さんと古賀さんは犬猿の仲。それが微妙に影響し、林氏がはじき出される可能性もある。林さんにはメンツが立つポストが与えられ、旧岸田派が徹底的に干されないよう願うばかりだ」
自民党は危機を迎えるたびに総裁を交代させて“表紙を変え”、延命してきた過去がある。今回は衆参で過半数割れとなり「解党的出直し」を訴えているのだが、経緯を見ると、やはり「表紙を変えた」だけだ。派閥政治復活を露呈した総裁選が、変わらぬ自民党の実相を映し出す結果となった。















