警察管理の自主性ゼロ|「鹿児島県公安委員会」のお寒い実態|問われる報道機関の監視能力

 他の大手メディアの質問取材には答えておきながら、同じ内容について確認を求めたハンターには「組織的な判断」で「お答えいたしかねる」と突っぱねてきた鹿児島県警。公平性を欠く対応について県公安委員会に見解を求めたところ、8カ月もかけて出してきたのは、「不適切な点は認められませんでした」という木で鼻を括ったような結論(⇒既報)。具体的な理由の説明がなかったため、県公安委員会が結論を出すに至るまでに取得した関係資料や県警の主張を示した文書を開示請求したところ、当該事案に関係する警察官への聴取など直接的な調べは何も行わず、県警の言い分を丸のみして決裁文書に印鑑を捺すという、無責任な経緯が浮き彫りとなった。

■これまでの経緯

 ハンターは昨年9月、鹿児島県警に対し2021年に起きた鹿児島県医師会の男性職員(22年10月に退職)による強制性交事件に関する以下の質問書を送付した。

・鹿児島県警中央警察署が、被害女性の告訴状提出を事実上の門前払いにしたのは事実か?

・男性職員が、県警の元警部補だった父親と中央警察署を訪れ、当該事件について相談したのは事実か?また、その際、父親の元警部補は同席していたか?

・男性職員が被害女性の雇用主を訴えた件の取調べで、男性職員の父親が同席したことはあるか?

・鹿児島県医師会の幹部(当時)が、当該強制性交事件について鹿児島県警の警察官より「刑事事件には該当しない」、「暴行と恐喝で負けることはない」などと申し向けられた旨を発言しているが、県警側がこうした発言を行った事実はあるか?

 この取材に対する県警の対応は「組織的な判断として、お答えをいたしかねる」という理不尽なもの。同様の質問を行った他のメディアには回答しており、県警の腐敗を厳しく追及してきた本サイトだけを不当な扱いで排除するのは不当として昨年11月、県公安委員会に以下の抗議文を送付し、見解を求めていた。

 質問内容は、何らかの形で事実であることが明らかになったものばかりで、県警はすでに県議会総務警察委員会での質疑の中で「門前払い」を「受け渋り」という言葉で認めていました。また、男性職員と元警察官の父親が、2021年の12月に中央署に行って事前の相談を行っていたことも、8月6日の県議会質疑で県警側が認めています。

 事前相談とその時の「事件性なし」という結果については、県医師会が6月27日に開いた記者会見の席上、同会の顧問弁護士である新倉哲朗弁護士が「男性職員からそう報告を受け、(池田)会長に伝えた」などと明言しており、県警が、門前払いや事前相談の実態を隠さなければならない理由は見当たりません。

 そもそも、ハンターが質問書を送付した8月27日、週刊金曜日のウェブ版が「鹿児島県警、強制性交事件もみ消し疑い 元警察官の父親が相談後、警察署が女性の告訴状受理拒否」という見出しで、強制性交事件に関する記事をウェブ上で記事を配信。その記事は、2021年12月に男性職員が相談のため中央署に出向いた際、同席者が元警察官の父親と弁護士だったことを県警が初めて認めたと報じるものでした。元警察官の父親が同席したという事実が、開示された情報だったことは明らかです。

 さらに県警は、同様の質問を行った新聞社にも回答しており、具体的な理由も述べずに、「組織の判断」などという曖昧な表現をもって、弊社の質問取材にのみ取材拒否をすることは、著しく公平性を欠くものと思料いたします。また、当然に説明責任を果たすべき事案について報道機関ごとに対応姿勢を変えることは、形を変えた不当な言論弾圧だと言っても過言ではないと考えます。

 以上の点について苦情を申し立てると同時に、県公安委員会の見解をおうかがい致します。

 待てど暮らせど連絡なし。二度催促して、ようやく下の「苦情処理結果通知書」が送られてきたのは8カ月経った今年7月だった。

 何をどう検討したのかについて具体的な記述はなく、「回答しないとの県警察の判断に不適切な点は認められませんでした」という結論だけ。8カ月も待たせて、人をばかにしているとしか思えない回答だった。しかも、ハンターの苦情申し立てを受けて“調査”したのは、苦情の対象となった県警。公安委自体は、何もやっていないに等しい。

 県警のお手盛り調査に期待する方が無理というものだったが、納得できない。そもそも、3人の公安委員が判断を下すに至った材料は何か――。疑問を抱いた記者は8月、「回答しないとの県警察の判断に不適切な点は認められませんでした」という結論を出した公安委が、県警から取得した関係資料や県警側の主張を示した文書などを確認するため同委に対し、保有個人情報開示請求を行った。

■機能不全

 請求に応じて開示された資料によれば、県警が公安委員会に示した文書のうち、昨年分がハンターの「苦情申し立て」と、県警が事案の概要を記して公安委に決裁を求めた令和6年12月5日付「苦情事案受理報告書」など数点。今年7月には「苦情に対する調査結果及び苦情処理結果通知書の送付」と調査結果を記して添付した「苦情に対する調査結果等」(*下の画像。クリックで拡大)が提出されていた。

 上掲の文書から、県警の最終的な「判断」だけを以下に抜粋する。

 県警が取材対応する際に判断基準としているのは、「公表することによって得られる公益」「関係者のプライバシー等の権利・利益」「公表が捜査に与える影響」の3点。情報提供する場合に勘案するのが「提供の必要性」「地方公務員の守秘義務」「不開示情報の有無」の3点だとする。取材に対しては、こうした基準をもとに個別具体的に判断するとの主張である。

 その上で、「ある社に対して回答した事実があることだけをもって、別の社に対しても一律的に回答すというもの(ママ)」ではなく、「質問に対して回答をする、しないについては、県警察側において、個別具体的な検討を行い判断する」「公平性を欠いた判断であるとはいえない」と結論付けている。記者の頭が悪いのか、支離滅裂の言い分にしかみえない。(*ちなみに、「別の社に対しても一律的に回答すというものではなく」という一節の「回答す」のあとには「る」と入るはず。県警の文書に誤りがあったのは明らかだが、3人の公安委員は何の指摘もせずにこの報告を了解していたわけで、杜撰な対応には呆れるしかない)

 繰り返すが、ハンターが問うた《鹿児島県警中央警察署が、被害女性の告訴状提出を事実上の門前払いにしたのは事実か?》《男性職員が、県警の元警部補だった父親と中央警察署を訪れ、当該事件について相談したのは事実か?また、その際、父親の元警部補は同席していたか?》《男性職員が被害女性の雇用主を訴えた件の取調べで、男性職員の父親が同席したことはあるか?》《鹿児島県医師会の幹部(当時)が、当該強制性交事件について鹿児島県警の警察官より「刑事事件には該当しない」、「暴行と恐喝で負けることはない」などと申し向けられた旨を発言しているが、県警側がこうした発言を行った事実はあるか?》という三つの内容は、ハンターが質問取材を行った時点で、県警が複数の報道機関に回答済みのもの。その内容が記事として配信されていたことから、隠す必要のない情報ばかりだった。

 公益だの関係者のプライバシーだのと言っているが、不都合が生じる情報は伏せれば済む。捜査への影響について考えるなら、当該事案の対象となった強制性交事件の捜査はとうに終結している。守秘義務等に関しても、出せる情報だけを開示すればいい話であって取材拒否の理由にはならない。自らの判断で他に開示した情報を、相手によって隠すというのは明らかに公平性を欠く行為だろう。県警の「判断」は、“なぜ取材拒否なのか”という疑問に対する答えになっておらず、これを“了”とした県公安委員会の見識を疑わざるを得ない。

 開示された資料から浮き彫りになったのは、不適切だと指摘された県警の行為について、関係する警察官への聴取など最低限の調査さえ行わず、腐敗が明らかとなっている警察組織の言い分だけを判断材料にした公安委員会の姿勢だ。警察の追認機関と化した公安委員会に存在意義はあるまい。

 鹿児島県公安委員会を巡っては昨年、野川明輝前県警本部長による警官不祥事の隠ぺいが問題視されたことについて、ろくに調べもせずに「本部長が隠蔽を指示したと判断する事実は認められない」とのコメントを発表。クリーニング店に勤務していた20代の女性に対する霧島署巡査部長によるストーカー事件では、同署が被害相談初日の「苦情・相談等事案処理票」のデータを削除し、動かぬ証拠となるはずの防犯カメラ映像まで消去していたにもかかわらず、被害女性の苦情申し立てに「客観的証拠はなかった」などとする県警の虚偽報告を基に、被害女性に「苦情処理結果通知書」を送り付けていたことが分かっている。

 続発する警官の不祥事を受け、再発防止に取り組んでいると強調する鹿児島県警。しかし、その腐敗組織を管理・監督する公安委員会が機能不全である以上、重い責任を負っているのは“報道機関”ということになる。

(中願寺純則)

 

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