自民党総裁選、高市氏勝利の舞台裏

10月4日、石破茂首相の退陣表明を受けて実施された自民党総裁選は決選投票に持ち込まれ、高市早苗氏が小泉進次郎氏を破って新総裁となった。自民党結党70年で女性総裁は初。15日に予定されている臨時国会で首班指名を受ければ女性初の総理大臣となる。いっときはご祝儀相場となる見込みだが、高市総裁誕生の裏では相変わらずのドロドロ劇が繰り広げられていた。

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「今回はピタリと作戦がはまった」とご満悦なのは、自民党唯一の派閥となっている麻生派所属の中堅代議士A氏だ。今回の総裁選は小泉氏が“本命”とされ、高市氏は2番手だった。総裁選前日までに林芳正官房長官が急激に追い上げていたため「決選投票は小泉VS林」という情報さえ流れていた。

分厚い報道の割にパッとしない総裁選の陰の主役は、キングメーカーの一人と目されていた麻生太郎氏だった。旧岸田派の議員B氏はこう振り返る。

「麻生さんと岸田さんは総裁選の直前に会談を持っていた。麻生さんは『お前が総理になれたのは俺が推したからだ』『なぜ旧岸田派は、まとまって林をやらないのか』などと苦言を呈したそうです。つまり、岸田側近の木原誠二さんらが小泉陣営を仕切っていることが気に食わなかった。その情報が駆け回り、麻生派は林支持でまとまるのではないかと思われていました」

だが麻生氏は、旧茂木派の茂木敏允元幹事長とも会談していた。総裁選前、茂木氏は麻生氏と会食をするたびに、マスコミに情報を流して、注目を集めようと必死だった。

しかし、ハンターが集めた情報では、茂木氏は40票に届かない程度で、小林鷹之氏よりも下だとみられていた。結果的には最下位に沈んだが、前出のA代議士によると「麻生さんは派閥のメンバーに対し、1回目は茂木氏に入れろと指示していました。ただ、茂木さんとソリが合わない議員もいるので、そこには小林でもいいと伝えたんです。小林さんのバックには麻生さんと昵懇の甘利明元幹事長がいますから、瞬く間に支援のメッセージが届きます。つまり、茂木さんの票が10票から20票に増えたのは麻生派のおかげ。小林陣営も同様に世話になった。麻生派にも小泉さんをひそかに推していた議員が10人弱いましたが、麻生さんの『鶴の一声』で議員票が食われていったということです」

1回目における茂木氏と小林氏への肩入れは、狡猾な麻生氏の決選投票に向けての布石だった。1回目の投票で茂木氏と小林氏に恩を売る、その代わり決選投票では意中の候補だった高市氏に投じさせるという作戦だ。麻生氏は投開票直前、「決選投票は、1回目の投票で党員票を多く集めた候補に集中させろ」と麻生派幹部に指示。党員票では、高市氏が小泉氏を上回るのが確実視されていたため、事実上の高市支持宣言だった。議員票でダントツに強いとされていた小泉氏に対し、議員の支持が課題となっていた高市氏を勝たせるよう動いたのだ。

ある旧茂木派の議員は、「1回目で49票もとれたことで、茂木さんも何らかのポジションが得られるはず。次の総裁選に、わずかであるが可能性も残した。当然、麻生氏には恩がありますから決選投票では高市支持となりました。麻生派の大半が高市さんだったはず。小林陣営でも、決選投票は保守的な姿勢が近い高市さんに投じたと聞いています」と話す。

旧岸田派は決選投票で小泉氏に票を集める戦略だったというが、最後になって大きな誤算が生じた。党員票で高市氏36票、小泉氏11票と大差がついてしまったのだ。さらに、麻生氏が茂木・小林両氏とウラで意を通じていたため、いくら旧岸田派がまとまっても勝てる状況ではなくなっていた。岸田派の議員は「麻生さんがそこまで仕掛けているとは思わなかった。完全に読み違い。高市政権では非主流派に転落し、冷や飯を食わされる」と嘆きながら、こうも言う。

「林さんは1回目に議員票70票を得て、高市氏の64票を上回った。林さんは高市政権でも重要ポストを担うはず。善戦したことで次の総裁の椅子が見えてきた」

キングメーカーの座に返り咲いた麻生氏に忖度せざるを得ない高市新総裁。早くも麻生氏の義弟で総務会長を務める鈴木俊一氏が幹事長、そして麻生氏自身は副総裁に就くとの情報が報じられる状況だ。

自民党は、昨年の衆議院選挙と今年の参議院選挙で惨敗し、衆参で与党の過半数割れという事態に追い込まれた。結党以来の危機を受け、「解党的出直し」を謳って行われた総裁選だったが、実につまらない見世物だった。

極右と麻生氏が高笑いし、これまで鳴りを潜めていた旧安倍派の裏金議員たちも祝杯をあげるというふざけた事態。自民党政権が続く限り、日本の未来は暗いと言わざるを得ない。

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