北海道警、巡査部長の現金窃盗を発表せず 当て逃げ疑いの交通事故は「注意」留まり

北海道警察で本年最初の四半期(1~3月)に処分・措置があった職員の不祥事のうち、報道発表を免れながらも法令違反として捜査の対象となっていた事案が複数あることがわかった。筆者の定期的な「2段階の公文書開示請求」により判明したもので、中には警察官が現金を盗んだ事件を不祥事の記録に明記していないケースなどもあった。

◆   ◆   ◆

筆者は本年4月、地元・北海道警の1~3月の不祥事の概要がわかる公文書を開示請求し、同時期の懲戒処分と監督上の措置(懲戒に到らない軽微な制裁)の記録を入手した。開示文書によると、その3カ月間に処分・措置があった不祥事は計31件。このうち何件が報道発表され、また何件が事件捜査の対象となったのかを確認するため、筆者は引き続き第2弾の開示請求を行なった。5月14日付の請求を受理した道警は同28日に対象文書の一部開示を決定、6月2日に計56枚の文書の写しが交付された。

文書によると、前記31件のうち公表の対象となったものは3件あり、いずれも報道大手がほぼ即日報じていた。各件の概要は、下記の通り。

(1)交通事故事案……警察署警部補、1月29日付「減給」

(2)拳銃不適切管理等事案……警察署巡査部長、2月13日付「減給」

(3)傷害事案……警察署巡査、3月7日付「訓戒」

同じく、法令違反として事件捜査の対象となっていた事案は31件中5件に上った。処分・措置の順に以下に記す。

〈1〉 交通事故事案……警察署警部補、1月29日付「減給」

〈2〉虚偽有印公文書作成・同行使事案……警察署巡査部長、2月6日付「訓戒」

〈3〉傷害事案……警察署巡査、3月7日付「訓戒」

〈4〉勤務規律違反等事案……警察署巡査部長、3月13日付「訓戒」

〈5〉交通違反事案……警察本部巡査部長、3月21日付「注意」

前掲の通り、このうち報道発表されたのは〈1〉の交通事故と〈3〉の傷害、計2件。ひいては、残る3件が公表を免がれたことになる。未発表3件のうち〈2〉の虚偽公文書作成と〈5〉の交通違反の2件がいずれも法令違反にあたるのは明白として、〈4〉の「勤務規律違反」が事件化されていたのは、どういうわけなのか。その答えは、開示された『犯罪事件受理簿』に記されていた。

被疑者は、同方内に保管中の財布内から現金3万1,000円を窃取したもの

こういうことだ。道警は、警察官による現金窃盗事件を報道発表せず、当事者への制裁を懲戒処分に到らない「訓戒」措置に留め、その概要を記録する公文書では「窃盗」の2文字を回避して抽象的な「勤務規律違反等」の7文字に変換していた――。

さらに〈5〉の交通違反事案。これが文字通り交通違反として捜査されていたのは当然として、同件の『事件指揮簿兼犯罪事件処理簿』には、いささか穏やかならぬ記述がある。やや長くなるが、事案の概要を記した一文を引いておく(※ 伏字は道警、誤記なども原文ママ)。

《被疑者は、令和7年2月15日午後0時35分頃、札幌市新川4条4丁目1番先路上において、自家用普通乗用車を運転中、同所に信号待ちのため停車していた■■■■運転の自家用普通乗用車の右前部バンパーに自車右後輪タイヤホールを接触させる交通事故を起こしたものの、最寄りの警察署などに届出をすることなく、現場から立ち去ったものである》

文書に記された事件名は「道路交通法違反(事故不申告・安全運転義務)」、罪名・罰条を記す欄には「道交法119条第1項第17号、同法第72条第1項後段など」とある(参考⇒ コチラ)。当事者の警察官が車をぶつけた相手に正しく救護措置をとったかどうかは文書からは確認できないが、少なくとも「警察署などに届出をすることなく、現場から立ち去った」ことは確かだ。これは、常識的に考えて「当て逃げ」あるいは「轢き逃げ」が疑われる事案なのではないか――。

これらの疑いは、繰り返しになるが「2段階の開示請求」を経ない限り確認できなかった。言い換えるならば、情報公開制度はこういう形で国民の知る権利を担保している、つまり同制度を幅広く活用することで当局の隠蔽行為に対抗できる、と言うことができる。さらに言えば――、

本サイトで飽かず報告してきた、鹿児島県警の公文書存否応答拒否問題(既報)。これがいかに国民の検証を妨げる不適切な対応だったか、今回の件と比較することで改めて浮き彫りにできると言えるだろう。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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