鹿児島県警・不祥事捜査記録一部開示(上)|ほぼ“のり弁”、容疑罪名伏せた文書も

 鹿児島県警による不祥事の捜査記録が「存否応答拒否」の形で長く開示されなかった問題で、第三者機関の答申により改めて開示されることになった公文書が3月上旬、初めて一部開示に到った。もとの請求から3年越しの対応となった決定では、開示の対象となった計100枚の文書の多くがいわゆる“海苔弁当”状態で、中には当事者の警察官にかけられた容疑がまったく読み取れなくなっているものもある。県警が身内の不祥事を適切に捜査していたかどうかを第三者が検証しにくくなっており、ここに来てなお組織の隠蔽体質が垣間見える対応となった。

■3年越しでようやく開示

 本サイト既報の通り、鹿児島県警が改めて上の文書の一部開示を決定したのは本年2月26日。請求人の筆者のもとには同28日に『公文書一部開示決定通知書』が届き、その案内に従って県警の指定金融機関に開示手数料を納付したところ、1週間ほどが過ぎた3月8日に対象文書の写し計100枚が届いた。もとの開示請求は一昨年3月13日付だったので、請求からほぼ丸2年、つまり3年越しでようやく求める文書の一部開示が叶ったことになる。

 請求していたのは、県警で過去5年間に記録された不祥事のうち事件捜査の対象となった事案の捜査の記録など。ここでいう「過去5年間」は請求時の2023年初頭を基点としており、実際には2019年1月から23年1月までの4年強の期間を指す。この間に処分などがあった不祥事は、県警の処分台帳によれば以下の124件だ。

2019年……18件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒7、注意11)

2020年……35件(免職1、停職0、減給1、戒告1)(訓戒4、注意28)

2021年……30件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒4、注意25)

2022年……38件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒10、注意27)

2023年(1月のみ)……3件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒2、注意1)

 これらのうち何件が法令違反として捜査の対象となっていたか。今回鹿児島県警があきらかにした開示対象の事案は、先の台帳と突き合わせることで以下の13件だったことが確認できる(※ 各処分事由は『台帳』記載の文言を採録)。

(1)2019年10月15日付「本部長訓戒」…職員は、平成30年8月26日、知人に対し、不適切な行為をしたものである(巡査)

(2)2020年1月10日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をしたものである(警部)

(3)2020年1月10日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をするなどしたものである(警部補)

(4)2020年1月10日付「所属長注意」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をするなどしたものである(巡査長)

(5)2020年1月10日付「所属長注意」…職員は、令和元年11月27日、交通事故を起こしたものである(巡査長)

(6)2020年1月27日付「戒告」…職員は、令和30年2月21日、交通整理を行うにあたり、必要な注意義務を怠った過失により、死傷者を伴う交通事故を惹起させたものである(巡査部長)

(7)2020年2月21日付「所属長注意」…職員は、令和2年1月14日、交通事故を起こしたものである(巡査)

(8)2020年3月19日付「免職」…職員は、令和元年12月14日、児童買春をしたものである(巡査部長)

(9)2021年7月30日付「所属長訓戒」…職員は、令和3年4月29日及び同年5月6日に、鹿児島市内において、知人に対し、腕を掴むなどして傷害を負わせたものである(巡査)

(10)2021 年8月6日付8月6日付「免職」…職員は、令和元年6月9日から令和3年4月2日までの間、住居侵入等の法令違反及び情報セキュリティに関する訓令違反等の各種規律違反をしたものである(巡査部長)

(11)2021年10月29日付「本部長注意」…職員は、令和3年10月7日、みだりに家庭用ゴミ1袋を捨て、もって、警察の信用を失墜したものである(巡査)

(12)2022年3月24日付「免職」…職員は、令和3年12月3日、業務上横領等をしたものである(巡査長)

(13)2022年3月24日付「本部長注意」…職員は、担当業務を懈怠する等したものである(巡査部長)

 124件中13件。全体のざっと1割ほどの不祥事が事件として捜査の対象となり、それら各件の捜査の記録が今回新たに開示されることになったわけだ。筆者の手元に届いたコピーは、先述の通り計100枚。これを順に紐解いていくと――。

■事件内容、黒塗りで隠ぺい

 まず(1)の不適切行為事案。この件ではのっけからひときわ墨塗りの多い文書が“開示”された。結論を言うと、肝心の不適切行為が具体的にどういう法令違反だったのかがまったくわからなくなっている。(*下の画像参照)

 5枚の文書にべったり貼られた“海苔”の隙間から辛うじて読み取れるのは、事件が起きたのが2018年8月26日で、捜査にあたったのが鹿児島中央署刑事一課だった事実。当事者の巡査の容疑はわからないものの、5枚のうち1枚に「強行」という名詞が登場することから、刑事一課強行犯係が担当する暴行や傷害、強盗などの悪質な犯罪だった可能性が高い。文書からわかるのはここまでで、巡査が逮捕されたのか、あるいは在宅捜査だったのか、また送検されたのか、起訴されたのか、などはことごとく藪の中だ。

 続く(2)から(4)までの3事案は、警察官3人が容疑者となった1件の虚偽有印公文書作成・同行使・公用文書毀棄事件として処理され、捜査記録もまとめて開示された。事件発生は2019年6月28日。その概要を記録した『犯罪事件処理簿』の記述はあちこちが“海苔”だらけで、およそ情報開示の体をなしていない。その滑稽さを実感してもらうには、原文をそのまま引用するしかないだろう(※ 下の画像の通り実際の文書では墨塗り部分の文字量は一定していないが、以下では一律「■■■」で示す)。

 被疑者■■■は、鹿児島県■■■に所在する鹿児島県■■■として、■■■同■■■は、■■■前記■■■同■■■は、■■■前記3名は■■■作成を企図し、同月28日■■■をして、行使の目的をもって、ほしいままに、■■■と署名し、■■■もって、その職務に関し、虚偽の有印公文書を作成した上、■■■において、■■■が真正なもののように装い、■■■に提示して行使し

 被疑者■■■令和元年6月28日■■■において、前記虚偽有印公文書の作成に伴い、■■■もって公務所の用に供する文書を毀棄したものである

 この件も最終的な刑事処分はあきらかでないが、少なくとも3人の警察官が関与した事案で、かつ彼らの上司にあたる警視も3人と同時に「本部長注意」を受けており、ほとんど組織的な犯行だったことが疑われる。

■問われる「非開示」の妥当性

 やはり詳細不明なのが(5)の交通事故事案。開示されたのは『交通事故事件簿』計3枚で、その3枚に貼られた海苔は実に60枚を超える。数少ない開示部分からわかるのは、その事故が令和元年(2019年)11月27日に発生したこと、車2台が絡んでいるらしいこと、現場は鹿児島西署管内だった可能性が高いこと、加害者の容疑が過失運転致傷だったこと――、などだ。

 こうした開示のあり方が適切かどうかは、本サイトで先般報告した北海道警のケース( ⇒既報)と比較することで検証できる。すぐに指摘できるのは、警察官が当事者となった交通事故で作成される筈の『重要特異交通事故発生報告書』が今回まったく開示されなかったこと。海を隔てた道警では同文書が適切に開示され、事故の概要が平面図つきで示されていた。これに対し鹿児島県警は、そもそも同報告書を開示の対象としなかったのみならず、開示した交通事故事件簿では丁寧に60カ所以上を墨塗り処理し、発生日や容疑罪名などを除く多くの事実をあきらかにしなかった。

 残る8件の「開示」がどうだったかは、推して知るべし。とはいえ、それがどれほど不充分だったのかは可能な限り記録しておくべきだろう。(6)以降の文書の概要については、次稿で報告したい。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

この記事をSNSでシェアする

関連記事

最近の記事一覧

  1.  2021年秋に新型コロナウイルス感染者の療養施設で起きた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月…
  2. 本サイトなどで随時報告を続けている、北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題。一連の被害の中…
  3. 刑務所や拘置所などの刑事施設で、外部の面会人が日用品や軽食・嗜好品などの差し入れ物品を購入する窓口の…
  4. 降りしきる雨、風も強くなってくる。最大のセールスポイント大屋根の「リング」。雨除けの効果があるとされ…
  5. 「昨年に続く第2次紀州戦争。二階王国の土壇場だ」と話すのは自民党旧二階派の幹部。昨年10月の衆議院選…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る