関西電力の汚れた原発利権に検審が「起訴相当」議決

関西電力の元会長や元社長ら幹部9人が原発が立地する福井県高浜町の元助役(故人)から多額の現金などを受領していた事件で、大阪地検が会社法違反、特別背任、業務上横領で告発された全員を不起訴(嫌疑不十分)とした処分について、大阪第二検察審査会がそのうちの3人を「起訴相当」、10人を「不起訴不当」と議決した。

「起訴相当」となったのは、森詳介元会長、八木誠元会長、岩根茂樹元社長の3人。大阪地検特捜部は再捜査か、起訴するかの判断を求められることになる。

◇   ◇   ◇

「大阪地検特捜部は、刑事告発した時に『しっかり捜査すれば起訴できる』と話していた。それを不起訴にしたので本当に驚いた。検察審査会がまともな判断をしてくれた」と検察審査会への申し立て代理人の弁護士は話す。

事件が発覚したのは、2019年9月。関西電力に金沢国税局が問題を指摘していたことが公になった。20年3月、関西電力は、設置した第三者委員会の調査結果を明らかにした。調査報告書によれば八木氏は、商品券30万円、金貨・小を62枚、金貨・大1枚、金杯セット7つ、スーツの仕立券2着分を受領。岩根氏は、金貨・小を10枚もらっていた。鈴木聡元役員は現金だけで7,831万円、豊松秀己元役員は4,100万円、森中郁雄元役員は2,060万円も受け取っていた。

検察審査会では、3人とも「起訴相当」の次に重い、検察の再捜査が必要な「不起訴不当」の判断が下されている。

第三者委員会は総額で約3億7千万円もの金品が元助役から関西電力幹部に渡っていたとした。それでも、不起訴とした大阪地検特捜部――。当然、元助役は関西電力発注工事の受注などで、有利な取り計らいを得ようとしていたが、第三者委員会でも一連の経緯を認定している。

検察審査会の「議決書」によれば《特別背任罪が成立する疑いが濃厚である》《収賄罪が成立すると考える余地は十分ある》と明記した上で、次のように指摘している。

・《(関西電力は)公益性の高い企業であり、その一部が地元有力者(会社社長)に関連会社への不適正な工事発注に関与。それによって関連会社に発生した利益に一部を還流を受けていた。電気料金を支払う電気利用者や株主及び一般従業員への裏切り行為であって強い非難に値する》

・《電力利用者らからの電気料金を一部の役職員が懐に入れていたに等しい。それは通常の市民感覚からすれば考えられないような金額》

・《(会社社長は関西電力で)被疑者らが大きな影響力を有していたと考えたからこそ金品を提供した。被疑者の職務に関して行われたもの》

・《国税局の税務調査が入った後に直ちに(受け取った金品を)返却していることからすると、これらが不正の請託に伴って提供された金品であったことを認識》

大阪地検特捜部の捜査についても《本件に関し、検察官は強制捜査を行っていないこと、被疑者に対する事情聴取も十分であったか疑問》と批判し、最後に《強制捜査や関係者からの再度の事情聴取や独自のデジタル・フォレンジック(コンピュータなどの電子機器の記録を復元、収集、分析し証拠とする)の実施など更なる捜査を十分に行って事実を明らかにしてほしいと期待》と加えている。

河井克行受刑者と案里夫人の公職選挙法違反における被買収側の地方議員、黒川弘務元東京高検検事長の賭けマージャン、さらには菅原一秀元経産相の有権者買収――いずれも検察が不起訴にし、その後検察審査会が「起訴相当」と議決した事案だ。結局、どのケースも検察が起訴せざるを得ない状況に追い込まれている。安倍晋三元首相の「桜を見る会」の刑事告発も、公設秘書らが「不起訴不当」とされたことで、検察は起訴を余儀なくされ、有罪が確定している。

検察審査会への申し立て代理人弁護士が結成している「関電不正マネー還流事件刑事告発弁護団」は、大阪地検特捜部が不起訴とした背景について、「関西の検察OBと関西電力の密接な関係が取り沙汰されている」とズバリ指摘。「検察は、自らの判断が市民感覚と甚だしくずれていることを猛省すべき」と訴えている。「関西電力の不正で還流した金品は、3億6千万円にのぼる。起訴相当となった件だけなく、不起訴不当の人もすべて起訴するように徹底的にやるべきだ」(弁護団の一人、加納雄二弁護士)

関西電力でかつて原子力部門を担当したOBは「元助役は地元でドンと呼ばれた人。カネを配りまくっていたのは、仕事欲しさと関西電力を牛耳るほどの力があると見せつけたいからだった。八木氏以下、みんなそれをわかりながら平然と金品をもらってニコニコ。コンプライアンスなど、どこにもなかった。関西電力は、検察審査会でも不起訴相当になるものと信じていたそうで、社内は大騒ぎだ。起訴されて当然なのに、どうなっているのか。国税局に言われて金品は返したというが、泥棒がとったカネを返せば罪に問われないというわけではない」

最近の傾向で、検察審査会で「起訴相当」が出されると、再捜査の上で起訴していることが多い。関西電力の「原発マネー還流」は、断罪される可能性が高くなった。

 

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