岸田文雄首相は10日、自民党の党役員人事と内閣改造に着手。党の骨格や主要閣僚は残留させたが、旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)の関係が疑われる人物は排除し、政権安定を目論むシフトを敷いた。
当初、人事は9月初旬とみられていたが、岸田首相は8月に入ってすぐ、広島や長崎の原爆式典で多忙な時期にもかかわらず動いた。ある自民党幹部は、こう話す。
「旧統一教会の問題が尾を引きそうだと判断したからだろう。安倍晋三元首相の国葬を決めて政権浮揚の一手にと考えていたが、そちらにも影響しそうになった。支持率も下がったし、人心一新で目先を変えようということ。野党に付け入る隙を与えないようにという思惑もある」
不可解だったのは、このタイミング(8月10日)で、旧統一教会側が記者会見を開いたことだ。自民党と裏で蜜月が続いてきたせいか、まさに「阿吽の呼吸」とも思える。
だが、これで旧統一教会と自民党の疑いが晴れるわけではない。急場をしのいだと言えるかどうかも疑問だ。旧統一教会は7月の記者会見で「2009年以降、コンプライアンスを見直して(霊感商法などの)被害はない」としていたが、全国霊感商法対策弁護士連絡会では、それ以降も被害が続いていたことを明かし、教団側の主張を真っ向から否定している。
そうした中ハンターは、かつて旧統一教会が使用していた「霊感商法マニュアル」を入手した。元信者は「このマニュアルは広島の幹部信者が作成して、中国地方や九州地方でよく使われました」と説明しており、自身も実際にマニュアル通りの霊感商法をやっていた時代があるという。
■「水子」「色情」「事故」― 脅しで始まる商売の手口
マニュアルを見てみると、あくどい手口に唖然となる。結論から述べれば、これは詐欺の指南書だ。
まず、信者が勧誘の際に言葉巧みに「ご先祖様が霊界で苦しんでいるのかもしれない」「いい先生がいるので供養をしてもらいましょう」などと言いくるめて「家系図」「Invitation Crad」を書かせる。一族の人間の生年月日、名前、生死、体調から経済状況まで把握するのだ。
「Invitation Crad」には『経済力』という欄があり、 多宝塔を買う経済力などについて、詳細な確認をするようになっている。
・(540以上・1000以上)
・300以上動かせる
・100~200以上動かせる
・100以下を動かせる
・自営業である
・経営者である
・会社務めである(役職名 勤年)
・売れる土地を持っている
・退職金あり
・保険解約ができる
・貸家経営(アパート・マンション)
・借金したことがある
・現在借金している
・動産をもっている(株券・証券・国債)
この確認項目をみれば、旧統一教会の狙いがターゲットの「財産」であることがよく分かる。
《多宝塔を買える(540以上・1000以上)》というのは、540万円以上、あるいは1,000万円以上の多宝塔、もしくは壺、本など高額な霊感商法の商品を購入できる財力があるかどうかという意味だ。《売れる土地を持っている》、《退職金あり》、《保険解約ができる》というチェック項目には、他人の財産を搾り取るだけ搾り取るという、この教団の意思が明確に示されているというべきだろう。『決定権』、『関心度』、『公聴心』というチェック項目の内容にしても、まともな宗教団体が聞くようなことではない。
そして『トークのポイント』という欄には、勧誘する人がどのような問題に悩み、困っているのか、どこに付け入ると関心をひくのかなどについて書き、申し送りしていた。
子どもが亡くなっていれば「水子」、離婚経験があれば「色情」、家族などで事故死した人がいれば「事故」などという項目まである。
「勧誘した人を別の信者にバトンタッチし、マニュアルにしたがって多宝塔、壺などを売り付け、最後は信者にして、献金までさせるのです」(元信者)
■宗教を隠れ蓑にした“商売”の手口
マニュアルの『販売・契約時』には(*下の画像参照)、《広島トークで大方の経済力把握。☆霊界を変える み言を入れる 心情交流を深める アフター》とある。これについて、元信者がこう説明する。
「霊界を変えるというのは、旧統一教会がよく使う因縁トークというもの。例えば子供さんが小さい時に亡くなっていたら『霊界で子供さんが苦しんでいるのが見える。助けてあげましょう』とささやく。夫が先に旅立たれている未亡人には、『ご主人が霊界の下層にいることで、あなたの病気も治らない。ご主人を救いましょう』とありもしないウソを並べるのです。み言(みことば)というのは『神からこんな声が聞こえる』などといかにも、神様の言葉のようにいい加減な話をして、何人もの信者が話に加わって、信じさせる。そして、多宝塔、壺、ペンダントを売り付けるのです」
一度買わせた段階が、終わりというわけではない。商品を買わせた翌日には、返品させないようにする動きまで指示されている。
『翌日』
《早朝抜き打ち、初水コップを持参訪問。(担当者)返品・クレームの防止の為の心情交流になる。玄関で“じゃあ”と言って立ち去る》
「初水」というのは、購入者の代わりに、先生と呼ばれる旧統一教会側の霊能者が「水行」をしたその時の水だという設定になっている。
「水行なんてしていませんよ。水道の水を入れて持参して、演技しているだけ。いかにも、あなたのことを心配していますよというポーズです。そうやって相手の懐に入り込んで、カネがなくなるまで、借金させてまでもむしり取ります」(元信者)
だが、何千万円という単位でカネが消えるとだれもが不審、不満に思う。そういう時に登場する「道具」の一つが政治家だという。元信者は、次のように打ち明ける。
「国政選挙をはじめ様々な選挙がある。そういう時に旧統一教会は無償で選挙を応援して『うちにはこんな立派な先生がついている』と信者の引き留めに使うのです。私も衆議院選挙、市長選挙、市議会選挙と7、8回、応援にいきました。旧統一教会の信者の応援は熱心にやりますから、とても褒められる。『また次も手伝って』と握手されたのは、後に大臣になった衆議院議員の先生でした。もちろん、先生は私たちが旧統一教会だということも知っています。(教団の)幹部が『霊感商法で鍛えられているから、選挙なんてちょろい』と笑っていたこともありましたね」
旧統一教会の被害者救済を手掛けてきた弁護士は、「弁護団から、何度も旧統一教会は反社会的なのでかかわるなと国会議員にも要請し、文書も出している。しかし、安倍晋三元首相の事件で、自民党をはじめとする政治家が取り込まれていることがわかった。大臣までが『選挙を手伝ってもらった。何か悪いのか』と堂々と言う状況だ。今の日本の政治に最も大切なことは、旧統一教会の排除ではないのか」と訴える。
自民党は本当に旧統一教会と手を切ることができるのか――マスコミや国民による監視が求められているのは言うまでもない。