【女性教師暴行事件】「100条委」設置を否決|問われる指宿市議会の存在意義

昨年9月に鹿児島県指宿市で起きた女性教師への暴行事件。20代の女性教師に襲いかかったのは、教務主任という重要な立場にある30代の男性教師(懲戒処分後に辞職)だった。

部屋の鍵をかけて事実上の監禁状態にし、相手が拒むのを無視して身体に触るなど“性的暴行”に及ぼうとした卑劣な加害男性に、鹿児島県教育委員会が下したのは「免職」ではなく「停職1カ月」という軽い処分。県教委はハンターの取材に対し、「猥褻行為ではなくセクハラ」と強弁して理不尽な処分の正当性を主張した。

処分過程を知られるのが怖いのか、当該事案に関する情報公開請求には、隠蔽姿勢を剥き出しにして開示決定期間を2か月間延長。“加害者保護”に余念がない。

被害者軽視の流れを作ったのは、両教師が勤務していた小学校の校長が事件発生の5日後に作成した「事項報告書」だ。校長は、加害者が《仕事上のアドバイスをしたい》として引き留め、被害女性が《仕事上のアドバイスなら聞きたいと思った》などとする虚偽の内容を報告書に記載し、被害女性の母親から事実関係について追及されると『感じたことを書いた』、『そう捉えた』、『そういうふうに感じた』、『ニュアンスで(書いた)』などと述べていた。

■否決された百条委

でっち上げの報告書は、事件を矮小化し、加害者への処分を軽くしようと図った証拠。同報告書は指宿市教委を通じて県教委に送られたものであったことから、12月下旬、複数の市議らが一連の行政行為について強い権限を持った調査が必要として、議会最終日に、地方自治法に基づく「百条委員会」の設置を求める議案を提出していた。

同月23日の採決では、賛成討論に立った市議が『偏った校長の事故報告書が、(加害者に)退職金が支払われるという県教委の甘い処分に繋がった。校長動は、事故報告書に客観的事実を記載するのではなく、私見を述べ、印象操作し、事件を矮小化しようとした』として学校長の虚偽報告を批判。『議会の矜持を示そう』と百条委設置を訴えたが、採決の結果、設置に賛成する者が8名であったのに対し、反対が10名 (棄権1名)。指宿市議会は、噂されてきた豊留悦男市長や教育長の関与といった不可解な事件処理の背景を解明する機会を潰してしまった。

■噴飯ものの反対討論

念のため何人かの反対討論を確認してみたが、「酷すぎる」というのが結論。ほとんどが「司直」という言葉を使って、議会の責任を放棄する内容だった。

要約すると、『事件は司直の手に移っている。議会で捜査をする必要はない』、「司直が捜査している。我々が警察、検察の2番煎じをやるべきではない』、『司直の捜査を静かに待つべき』といったもの。百条委は事件捜査のためではなく、事件後の校長や市教委が行った“行政事務”の正当性を調査するため設置されるもので“捜査”を展開する場ではないが、反対討論に立った議員らはそんな議会のイロハが理解できていなかった。どこの自治体でも同じだろうが、県議会レベルでこんな発言を行えば、笑いものになるだけだろう。どこからか「税金泥棒」との罵声が聞こえてきてもおかしくない、お粗末な主張ばかりだった。(*採決に際しての各議員の賛否について問い合わせが複数あったため、取材結果を下にまとめた)

反対に回った10人は、なぜか全員“市長派”といわれる議員たち。百条委設置で困るのが誰か、この結果が示しているとしか思えない。

■「停職1カ月」― 軽さの証明

議会をはじめとする指宿市の関係者及び県教委に警告しておきたい。ハンターは加害男性への処分内容が判明して以来、「停職1カ月」を“軽い”として厳しく批判してきた。判断の基準としたのは、これまで多くの自治体で取材を重ねてきた懲戒処分や措置の内容だ。どの事案と比較しても指宿のケースは“軽い”と言わざるを得ない。そうした意味で、年末に非常に分かりやすい事例が報道発表されている。下は、12月25日に福岡市が公表した職員の処分に関する文書である。

自宅のパソコンを使って入手した児童ポルノ動画を不特定多数の者が閲覧できるような状態にした20代の男性職員が、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」に違反(児童ポルノ公然陳列)した疑いで警視庁から書類送検されたことを受けて「停職3カ月」の懲戒処分。別の30代男性職員は、市内のプール施設で水泳中に、女児や他の女性の臀部を触る痴漢行為を行っていたとして「懲戒免職」になっている。

身体や心に傷を負わされるという具体的な被害者のいない児童ポルノ公然陳列でさえ「停職3カ月」。女性の臀部を触ったという痴漢行為の場合には、送検もされていない段階で「懲戒免職」だ。一方、部屋に鍵をかけて性的暴行に及ぼうとし、ケガまでさせた卑劣漢が「停職1カ月」というのが鹿児島県教委の下した結論。いかに指宿事件の処分が軽いものかが分かるだろう。犯行が明らかになった直後に作成された学校長の「事故報告書」が関係者に間違った予断を与え、事件を矮小化するための道具になった可能性は否定できない。

これでも百条委員会の必要がないというなら、指宿市議会に存在意義はない。

 

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