検事正の着任挨拶、2代続けてパクリだった

山形地方検察庁の友添太郎検事正が今年7月に地検の公式サイトにアップした着任挨拶文は、前任の松下裕子(ひろこ)氏の挨拶文を名前以外すべて盗用したものだ、との記事を11月11日の朝、ハンターに掲載した(参照記事⇒「山形地検検事正、着任挨拶を全文盗用」)。すると、ほどなく投稿欄を通して「松下氏のも前任者のコピペでした」との情報が寄せられた。

仰天した。2代続けての盗用など考えてもいなかった。投稿にはhttps://web.archive.org/というアドレスのサイトに残された「証拠」も添付されていた(カッコ内の在任期間は筆者が補足)。

◎松下裕子検事正(2020年1月~2021年7月)→こちら

◎伊藤栄二検事正(2019年7月~2020年1月)→こちら

◎吉田久検事正(2018年7月~2019年7月)→こちら

クリックすると、その検事正の紹介画面が出てくる。略歴と顔写真の下に着任の挨拶がそれぞれ掲載されていた。読んでみると、松下裕子氏の着任挨拶文も前任の伊藤栄二氏(現静岡地検検事正)の文章をほぼそのままなぞったものであることが分かる。伊藤氏の挨拶文は次の通りである。

この度、山形地方検察庁検事正に就任しました伊藤栄二です。山形県をはじめ東北で勤務するのは今回が初めてですが、山形県は豊かな自然と歴史・文化があり、人は温和で情に厚く、とても良い所だと聞いており、これからの生活を楽しみにしているところです。

近年の当県内における犯罪の情勢を見ますと、一人暮らしの高齢者や幼児・児童などの弱い立場にある方が被害に遭い、キャッシュカードや現金をだまし取られるなどの特殊詐欺や児童虐待に当たる事件が増え続けています。

当山形地方検察庁は、これら一つ一つの事件と真摯かつ誠実に向き合い、警察等関係機関とも連携し、罰すべき者が適切に罰されるよう対処することを通じ、山形県民の皆様の期待に応え、その安心・安全の確保に力を尽くして参ります。どうぞよろしくお願いいたします。

松下氏は仙台地検に勤務したことがあるので「山形県をはじめ東北で勤務するのは今回が初めて」とは言えない。そこで「山形県で勤務するのは今回が初めて」と直してある。が、その後にある「山形県の犯罪情勢」と「検察官としての決意」の部分は、伊藤氏の文章をほぼそのままなぞっていた。

「被害に遭い」を「被害に遭われ」、「事件が増え続けています」を「事件が、連続的に発生しています」と手を入れている程度だ。伊藤氏の挨拶文343文字のうち、松下氏が変えたのは名前を含めて18文字のみ。文章の盗用率は95%である(ちなみに、伊藤氏の挨拶文は前任の吉田氏のものとはまるで異なる)。

この松下氏の着任挨拶文を、次の友添太郎検事正は名前の4文字を入れ替えただけで全文盗用したわけだ。伊藤氏の着任挨拶文を2代続けてパクッていたのである。

検察内での盗用なので、「論文の盗用」とは意味合いが異なる。著作権法などの法律に触れるわけではない。だが、こんな行為は「法律以前の人としての道義の問題」として許されるものではない。何よりも、地元山形の人たちに対して失礼きわまる。着任の挨拶を盗用しておきながら「一つ一つの事件と真摯かつ誠実に向き合う」などと言われても、誰が信用すると言うのか。

情報提供の詳細を知った時、筆者は「それにしても、とうの昔に検察庁の公式サイトから消えた挨拶文がなぜあるのか」と、素朴な疑問を抱いた。手がかりはURL(インターネット上の位置情報)にある、と考え、冒頭の「https://web.archive.org/」の意味をネットに強い知人に尋ねた。以下は知人の解説である。

アメリカのカリフォルニアに「インターネットアーカイブ Internet Archive 」というNPO(非営利団体)がある。ここがネット上にある世界中のサイトをほぼすべて収集して保管し、検索できるサービスを提供している。「インターネットの国際図書館」のようなものだ。1996年に設立され、運営はすべて寄付金でまかなっている。もちろん、世界にはものすごい数のサイトがあるので、すべてを毎日収集するわけにはいかない。定期的に巡回して自動的にダウンロードするプログラムを使っている。保管しているサイトのページ数は5,880億ページに及ぶ。

筆者のようなアナログ人間には想像もできなかった。そんなサービスがあるとは。ウェブサイト制作会社のエンジニアたちの間では広く知られており、さまざまな目的で使われているという。利用の仕方を教わり、さっそく検索を始めた。

着任挨拶文の使い回しは山形地検だけなのか。ほかの地検にはないのか。東北を皮切りに全国の地検の公式サイトを手当たり次第に調べてみた。これまで調べた範囲では、挨拶文の盗用をしているような検事正は山形以外にはいなかった。

東日本大震災の被災地である福島、仙台、盛岡の各地検検事正は、復興状況を織り交ぜながら、被災地の人たちに寄り添う言葉を綴っていた。鳥取の検事正は自ら歩んできた道をたどりながら犯罪に立ち向かう決意を語り、佐賀の検事正は「薩長土肥の一翼を担った歴史」に触れつつ支援と協力を呼びかけていた。それぞれ、「自分の言葉」と分かる内容だった(紋切型の文章を載せている地検はある。また、そもそも検事正の着任挨拶を載せていない地検もある)。

なぜ、山形地検でこのようなことが起きたのか。検察関係者はこんな風に言う。「山形県は大きな事件もないし、落ち着いている。激務に追われた人を『しばし、リフレッシュしておいで』と送り出すところなのだ」

松下氏は千葉や横浜など主に首都圏の地検で現場を踏み、東京地検特捜部の副部長を務めた。法務省の国際課長や刑事課長も歴任している。「検察の本流」を経てきた検察官で、激務の連続だったことは間違いない。

山形県はソバと日本酒がうまい。果物も牛肉もブランドものがそろっている。温泉もいたる所にある。リフレッシュには最適の土地の一つだろう。要するに、山形県は「検察の湯治場」のようなもの、ということのようだ。

その松下氏も友添氏も「地検のサイトの挨拶文をじっくり読む人などいない」とでも思ったのか。あまりと言えばあまりの見下しようである。この問題の第一報をアップした後、筆者は山形地検を訪ね、見解を問おうとした。だが、広報を担当する大林潤・次席検事は会おうともせず、事務官を通して「ノーコメント」と伝えてきた。見下しぶりは徹底している。

2代続けて盗用された着任挨拶文にあるように、山形県民の多くは「温和で情に厚い」。だが、その温和さにも限度がある、と知るべきである。

長岡 昇:NPO「ブナの森」代表)

長岡 昇(ながおか のぼる)
山形県の地域おこしNPO「ブナの森」代表。市民オンブズマン山形県会議会員。朝日新聞記者として30年余り、主にアジアを取材した。論説委員を務めた後、2009年に早期退職して山形に帰郷、民間人校長として働く。2013年から3年間、山形大学プロジェクト教授。1953年生まれ、山形県朝日町在住。

【追記】この記事が「ハンター」にアップされた11月22日に、山形地検の公式サイトにある検事正挨拶は全面的に更新されました。ようやく、自分で書く気になったようです。

*山形地検・友添太郎検事正の着任挨拶(11月22日に更新)→こちら
 *インターネットアーカイブの利用方法(筆者作成)→こちら

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