鹿児島県警が3年越しで一部開示した、不祥事の捜査記録。本年3月にようやく開示された100枚の公文書は、しかしながらその多くが墨塗り処理され、事実関係を充分に読み取れない体裁になっていた。前稿に続き、こうした文書開示が情報公開のあり方として適切だったといえるかどうか、読者の検証を助ける報告を続けたい。
■報道事案は黒塗り減少
筆者が一昨年3月に鹿児島県警に開示を求めた公文書は、以下の県警不祥事のうち法令違反が疑われる事案の捜査記録などだ。
2019年……18件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒7、注意11)
2020年……35件(免職1、停職0、減給1、戒告1)(訓戒4、注意28)
2021年……30件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒4、注意25)
2022年……38件(免職1、停職0、減給0、戒告0)(訓戒10、注意27)
2023年(1月のみ)……3件(免職0、停職0、減給0、戒告0)(訓戒2、注意1)
これら124件のうち事件捜査の対象となっていたのは、前稿で既報の通り全体の1割強を占める以下の13件だった(※ 各処分事由は『台帳』記載の文言を採録)。
(1)2019年10月15日付「本部長訓戒」…職員は、平成30年8月26日、知人に対し、不適切な行為をしたものである(巡査)
(2)2020年1月10日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をしたものである(警部)
(3)2020年1月10日付「所属長訓戒」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をするなどしたものである(警部補)
(4)2020年1月10日付「所属長注意」…職員は、令和元年6月28日、不適切な書類作成をするなどしたものである(巡査長)
(5)2020年1月10日付「所属長注意」…職員は、令和元年11月27日、交通事故を起こしたものである(巡査長)
(6)2020年1月27日付「戒告」…職員は、令和30年2月21日、交通整理を行うにあたり、必要な注意義務を怠った過失により、死傷者を伴う交通事故を惹起させたものである(巡査部長)
(7)2020年2月21日付「所属長注意」…職員は、令和2年1月14日、交通事故を起こしたものである(巡査)
(8)2020年3月19日付「免職」…職員は、令和元年12月14日、児童買春をしたものである(巡査部長)
(9)2021年7月30日付「所属長訓戒」…職員は、令和3年4月29日及び同年5月6日に、鹿児島市内において、知人に対し、腕を掴むなどして傷害を負わせたものである(巡査)
(10)2021年8月6日付「免職」…職員は、令和元年6月9日から令和3年4月2日までの間、住居侵入等の法令違反及び情報セキュリティに関する訓令違反等の各種規律違反をしたものである(巡査部長)
(11)2021年10月29日付「本部長注意」…職員は、令和3年10月7日、みだりに家庭用ゴミ1袋を捨て、もって、警察の信用を失墜したものである(巡査)
(12)2022年3月24日付「免職」…職員は、令和3年12月3日、業務上横領等をしたものである(巡査長)
(13)2022年3月24日付「本部長注意」…職員は、担当業務を懈怠する等したものである(巡査部長)
前稿では上記(1)から(5)までの事案について、県警の情報開示が適切だったかどうかを検証したところだ。結果的にはおよそ充分とはいえない実態をあきらかにすることになったが、では(6)以降の事案はどうだったか。
懲戒処分の台帳に「職務執行不適切」と標題がつけられていた(6)の事案では、戒告処分となった巡査部長が業務上過失致死傷の容疑で交通指導課に調べられていた。今回開示された公文書は『本部長指揮事件指揮簿』など3種19枚。同指揮簿では「霧島市国分野口北における業務上過失致死傷被疑事件」の事件名で事案が記録されることになり、以下のような概要が開示された(※ 一部墨塗り処理は県警。以下では当該部分の文字量にかかわらず「■■■」で表記)。
《平成30年2月21日午後零時45分頃、霧島市国分野口北5番1号先の四差路信号交差点において、県下一周市郡対抗駅伝競走大会の交通整理に従事していた警察官が、信号機の主道側を青色灯火、従道側を赤色灯火に固定した後、従道側に滞留した車両■■■手信号により交差点内に誘導する際、■■■交差点の安全に注意して誘導すべき注意義務があるのにこれを怠り、■■■交差点内に直進させたため、折から左方道路から青色信号灯火に従い直進してきた上記被害者■■■の被害車両と出合い頭に衝突、横転させ、■■■同人を死亡させ、ほか関係者■■■名を負傷させたものである》
前稿で報告したケースに較べ、墨塗り部分がかなり少ない印象だ。理由は定かでないが、考えられる事情はこの件が大きく報道されるに到ったこと。地元では事故発生時からその後の裁判の経過までが都度ニュースになり、県警が発表するまでもなく一連の事実が一般に広く知れ渡る結果となった。下世話な言い回しになるが、「今さら隠しても仕方がない」といえる状況になっていたわけだ。
■余罪が見逃された可能性も
続く(7)の交通事故事案は、先の過失致死傷とは対照的に開示文書が僅か2枚に留まり、その多くが黒く塗り潰されたみごとな“海苔弁当”となっていた。辛うじてわかるのは「令和2年1月14日」という事故発生日や「過失運転致傷」という容疑など。おそらく一般市民が被害に遭ったとみられる事故の状況は一切あきらかにされず、事件送致や起訴の有無も不明。前稿でも指摘しておいたが、警察官がからむ事故に伴って作成される筈の『重要特異交通事故発生報告書』はここでも開示の対象とならず、開示しても差し支えない筈の情報の数々はほとんど藪の中となった。
深刻な事案ながらもやはり開示情報が充分とはいえなかったのが(8)の児童買春事案。事件を捜査した鹿児島南署の『本部長指揮事件指揮簿』には、こうある。
《容疑者は、令和元年12月14日頃、鹿児島県内■■■において、被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら、同児童に対し、■■■児童買春したものである》
確認できる概要は、この簡潔な事実関係のみ。対象となった指揮簿は計6枚あるが、2枚目以降はほぼ全面が墨塗り処理され、事実上非開示の状態で“開示”された。
当事者の巡査部長は、この件で免職処分を受けている。これ自体は妥当な処分と言ってよいが、当時の処分台帳には上の買春事案のみが記録されるに留まり、重要な“余罪”にはまったく言及がなかった。今回の開示請求で得られた数少ない成果の1つに、この余罪を確認できる文書を入手できたということがある。どういうことか。
県警は今回、先の指揮簿とは別の容疑事実を記した『署長指揮事件指揮簿』という文書も開示の対象としたのだ。同文書の「概要」欄には「■■■鹿児島県内■■■において、性交したものである」と抽象的な文言が見られるのみだが、注目すべきは事件の発生年月日。それは「令和元年11月下旬」、つまり先の事件の1カ月ほど前に別の児童買春事件が発生していたということだ。その容疑者を記す欄に誰の名が書かれていたかというと――、
《不詳》(*上掲の画像参照)
つまり、県警はこの時点では容疑者を特定できず、1カ月後にもう1件の被害が発生して初めて現職警察官の関与を疑うに到ったのだ。文書から確認できる容疑はこの2件のみだが、ほかにまったく余罪がないと考えるのはいささか不自然だろう。巡査部長の犯行は常習の可能性が高く、ひいては知られざる被害児童が泣き寝入りを強いられている疑いが残る。だがそれも、今となっては確認困難だ。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |