強制不妊 国賠請求棄却 「闘い続ける」原告男性は控訴へ

各地の裁判所に旧優生保護法の強制不妊被害者たちが起こした訴訟で15日、国内4例目となる判決言い渡しがあり、札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)が原告の訴えを棄却した。判決には旧法の憲法違反を認める判断が新たに追加され、原告にとっては「一歩前進」となったが、国の賠償責任を認めるまでには到らなかった。

■国の違法性認めた判事が“釈明”

「主文。原告の請求を棄却する」――言い渡しの瞬間、札幌地裁の法廷は静まり返った。訴えを起こした札幌市の小島喜久夫さん(79)が、車椅子の上から裁判長をじっと見つめる。2018年5月に全国で初めて実名を明かして提訴に踏み切り、以来3年弱にわたって「裁判のことを一日も忘れたことはなかった」が、司法に期待する思いはついに届かなかった。

強い視線を受けながら言い渡しを続けた廣瀬裁判長は、旧優生保護法が憲法13条(個人の尊厳と幸福追求権)、14条1項(法の下の平等)、及び24条2項(家族をつくる権利)に違反すると指摘し、さらに同法の制定自体が国賠法上違法だったと断じた。その上で、小島さんの不妊手術被害からすでに20年以上が過ぎていることから、国の主張する除斥期間(刑事事件でいう時効のような規定)により賠償請求権が消滅したと言わざるを得ない、との判断を示した。

国の不作為を強く批判しつつ、結論としては原告の求めを退ける決定。5分間ほどで言い渡しを終えた廣瀬判事は、憮然とする小島さんに顔を向けて次のように釈明することになる。
「この法廷で原告ご本人の供述に耳を傾け、その苦痛、辛さ、被害の重大さ、これまで苦労されてきた人生、そういったものを、本当にわれわれは肌身に感じ、請求棄却でよいのか、認容する余地はないのかと、判決言い渡し直前まで議論に議論を重ねてきたところでございます」

一呼吸置き「しかしながら」と言葉を継ぐ。
「…法律の壁は厚く、また60年という時間はあまりにも長かった。そう言わざるを得ず、このような判断になった次第でございます」

優生法違憲訴訟はこれまで、札幌を含む9カ所の地裁・支部に提起されている。今回の判決は国内4例目となり、先行する3例とともにすべて請求棄却となった。とはいえ違憲判断は一歩進んだ形となり、先述のように3つの憲法違反が指摘されている。4地裁の判断をそれぞれ示すと、次のようになる。

・仙台地裁(19年5月判決=請求棄却)…13条違反

・東京地裁(20年6月判決=請求棄却)…憲法判断なし

・大阪地裁(20年11月判決=請求棄却)…13条、14条違反

・札幌地裁(21年1月判決=請求棄却)…13条、14条、24条違反

原告の小島さんはこれに「ならば、なぜ勝たせてくれなかったのか」と憤る。
「憲法違反と言ってくれたのは、嬉しかったです。でも、そこまで言うならなんで訴えを認めてくれなかったのか。ただ『法律』『法律』と言うんじゃなくて、もう少し人間として考えて欲しかった…」

■憤り隠せぬ弁護団

弁論後の報告集会には仙台訴訟で原告代理人を務めた新里宏二弁護士(仙台弁護士会)も駈けつけ、さらなる憤りを表明することになった。
「判決を聞いていて『こんちくしょう』と思いました。『なに言ってるんだ』と。裁判所が悩みに悩んだっていうのなら、その悩んだ結果をなぜ判決に反映できなかったのか、なぜ『除斥期間』に踏み込まなかったのか。あれだけ被害に向き合ったんだったら、もうちょっとじゃないかと」

その「除斥期間」の適用について、札幌の弁護団で事務局長を務める小野寺信勝弁護士(札幌)は次のように批判している。
「今回の判決では除斥の起算点を非常に機械的に判断し、小島さんが手術を受けた1960年ごろとしています。そうすると20年経った80年ごろには損害賠償請求権がなくなることになる。実は80年当時は優生法がまだ生きていて、不妊手術は適法だったんです。適法な手術について賠償を請求するのは、不可能なんです」

小島さんが賠償請求権を知ったのは、仙台で訴訟が提起された2018年。常識的に考えて除斥の起算点は同年に設定されるべきだが、札幌地裁は「法律の壁」を引き合いに出して先例3地裁の判断を追認した。司法は救済に手を延べず、国会に任せる――。そう逃げを打ったと言わざるを得ない姿勢だ。

■闘いは続く

19歳のころに不妊手術を強制された小島さんは、その被害を誰にも打ち明けることができず、長いこと苦しんだ。妻・麗子さん(78)さんとの間に子をもうけることはできず、理由を問われては「小さいころにおたふく風邪をやったからじゃないか」と言葉を濁し続けた。18年1月に報道で仙台訴訟の提起を知り、同じ被害に遭った人が声を上げたことに心を動かされた。「おれもあの手術、受けたんだ」。初めて事実を打ち明けられた麗子さんは「闘わないと駄目」と夫の背中を押し、被害から57年を経て国を相手に裁判を起こすことを決意した。すでに述べた通り、顔と名前を晒して原告に名乗りを挙げたのは小島さんが全国で初めて。実名で闘うことを選んだのは「同じ被害に遭った人に、おれの顔を見て悔やしさを思い出して欲しい」との思いからだった。その思いに応え、札幌ではさらに2人の優生手術被害者が訴えを起こすに到っている。

「まだまだ、元気なうちは闘っていきます」――足かけ4年の裁判を闘った生き証人は、まもなく80歳。一審の棄却判決にも闘志をそがれることなく、すでに控訴の準備を始めている。

※ 旧優生保護法…優生学上の見地から「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に1948年成立。障害のある人などに任意の不妊手術を奨励するほか、特定の疾患・障害の当事者について強制手術を行なうことを認めた法律。96年に母体保護法として改正されるまでの間、全国で約84万5000人が不妊手術を受けた。うち強制手術は1万6475件に上り、最も多くの被害を出した北海道では2593件を記録している。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

 

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