「安倍辞めろ」ヤジ排除に賛否の意見900件超|与党支持者らも道警を批判

2019年7月に安倍晋三首相(当時)の街頭演説会場で「安倍辞めろ」「増税反対」などと発しただけの市民を、北海道警察の警察官が暴力的に身体を拘束して現場から排除した、いわゆる「ヤジ排除事件」。政権批判を実力で封殺した警察の行為について、地元警察に寄せられた賛否の意見が2年間で900件超に上ることがわかった。意見はすべて公文書に記録されており、その多くが排除行為に否定的な声だった。

■意見の8割以上がヤジ排除に否定的

ヤジ排除事件は、参議院議員選挙期間中の札幌で発生。与党系候補の応援演説で札幌を訪れていた安倍元首相に「やめろ」などとヤジを飛ばした人や批判的なメッセージを示そうとした人など少なくとも10人が、現場の警備にあたっていた北海道警察の警察官らに“排除”された。

政権を批判する自由を公然と侵害した警察の対応に、排除された当事者らは市民集会やデモ行動などで抗議の声を上げ、事件は地元報道や議会でもたびたび追及の的となった。「適正な職務執行」と言い募る警察に対し、当事者のうち2人が国家賠償請求訴訟を提起する動きもあり、同裁判は本年3月に一審判決を迎えることになっている。

事件発生後、北海道警には一般市民から賛否の意見が相継いで寄せられ、それらの声は大量の公文書に残されることになった。筆者が情報公開制度に基づいてその記録を開示請求したところ、排除事件が発生した19年7月から昨年7月までの2年間で作成された文書は6,518枚に上り、うち6,510枚に計931件の意見が記録されていたことがわかった。

当該文書は『要望・意見受理カード』と『警察安全相談受理カード』で、いずれも一般市民から道警に届いた意見を記録しておく書類。これらすべてに目を通した結果、あきらかにヤジ排除に否定的と受け取れる意見は756件を数え、全体の8割以上を占めていた。

逆に排除に肯定的な声は73件と、1割にも満たない(残る102件は、評価を伴わない意見や主張不明のものなど)。先の国賠訴訟で、被告の道警は排除に肯定的な市民の声として約80件の「ヤフーコメント」を証拠提出していたが、ほかならぬ警察自身が受理した意見はむしろ圧倒的に排除行為を批難していたのだ。

■自民支持者からも厳しい批判

開示された公文書に反映された民意は、必ずしも当時の安倍政権に批判的なものばかりではない。安倍政権を支持しつつ、同時に警察に抗議する意見も少なからず届いていた。電話やメール、郵便などで寄せられたそれらの声を、ここにいくつか採録しておきたい。

 

警察は寛容の精神が必要ではなかろうか。日々の警察の態様をお考えください。総理もお気の毒だ》(19年7月17日受理)

俺は、自民党に投票しようと思っていた。安倍さんがわざわざ北海道まで行っているのにこんなことがあれば、逆に選挙妨害だ。自民党に投票しづらくなるだろう》(同)

困ります。自民党の人だって総理だって困るじゃないですか。おかしいですよ》(7月18日受理)

首相の評判を落とすためにやったんだろ。パチンコ屋にでも安定就職して、あぶく銭稼いで下さい。この国賊が》(同)

僕は、自分の信条は自民党だけど、警察のこの措置はおかしい》(同)

一般人相手に情けないやろ。しかも国民に与える無意識下の心理的作用を考えたら、国益を損なっていくやろう。この国賊が一丁前に愛国者ヅラしてんじゃねぇ!》(7月19日受理)

安倍政権に批判的で、かつ排除に否定的な意見も、もちろん多く寄せられている。だが上に掲げた声は、各自の思想・信条に関わりなく言論の自由の意義を訴えるもので、そういう意味では極めて真っ当な排除批判となっている。

先の『カード』に残る全931件のうち、6割を超える582件が排除直後の19年7月に受理されていた。一日100件以上の声が届いた日もあり、これだけで先のヤフーコメントの総数(証拠提出された数)を軽く超えている。道警は900超の貴重な意見をすべて記録し、保管しているにもかかわらず、裁判ではこれらに一切目を向けず、インターネットの匿名投稿を引き合いに出していたわけだ。警察に直接届いた声は、公文書開示請求という手段を使って入手しない限り、永久に陽の目を見ぬまま埋もれていくことになる。

国賠訴訟の一審判決は3月25日、札幌地裁で言い渡される予定。司法の判断が先の民意に適うものになるかどうかは、まもなくあきらかになる。

(小笠原淳)

※ 道警が2年間で受理した市民意見については、2月15日発売の月刊誌「北方ジャーナル」で詳しく報道されます。(ハンター編集部)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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