脅迫の冤罪事件で違法捜査の被害に遭った男性が地元警察を訴えていた裁判で、1月下旬の高裁判決で実質敗訴した警察側が上告を断念し、賠償命令が確定したことがわかった。訴えを起こした男性(35)は「警察にはもはや上告する理由がなかったのだと思う」と受け止めており、捜査にあたった警察官の適切な処罰を求めている。
■冤罪事件の経緯
問われる違法捜査があったのは、今から5年ほど前の2016年11月。北海道・帯広市に住む男性が身に覚えのない脅迫事件の容疑をかけられ、任意同行を拒否したところ道警北見警察署の捜査員から約2時間にわたるつきまとい被害を受けた。公然と男性を尾行し続けた捜査員らはこの間、男性の行く手に立ち塞がったり、目の前に回り込んで顔を無断撮影したり、男性の拾ったタクシーに強引に同乗するなどした(本サイト既報⇒「冤罪つくった北海道警・違法捜査の一部始終|怒りの被害者が提訴」)。
結果的に男性は逮捕・起訴されたが、刑事裁判では当時の捜査の杜撰さが浮き彫りとなり、またあきらかに別の真犯人が存在する証拠なども示され、男性に無罪が言い渡された。検察側もこれに控訴することなく、19年3月に無罪判決が確定している。
■高裁が違法捜査認め逆転判決
男性は同年9月、一連の捜査被害への賠償を求めて道警を相手どる裁判を釧路地裁帯広支部に起こしたが、同支部(新海寿加子裁判長)は昨年3月、捜査の違法性を認めず男性の訴えを棄却する判決を出す。これを不服とした男性が控訴を申し立てたところ、札幌高裁(長谷川恭弘裁判長)は本年1月28日、男性実質勝訴の逆転判決を言い渡すに到った。一審判決を覆した高裁は、当時の捜査の違法性を次のように指弾している。
《捜査の必要性、緊急性及び相当性があるとも認められず、警察官らが職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と職務行為をしたものとして、国家賠償法上違法と言わざるを得ない》
とりわけ男性の拾ったタクシーへの無断乗車について、警察官らは一審の証人尋問で「男性が『いいですよ』と言ったので同乗した」と虚偽の発言をしており、高裁はこれを「ずけずけと」などの厳しい言い回しを使って否定することになった。
《(男性は)自主的に後部座席の運転席側へ移動して着座したのではなく、伊藤警部補がタクシーの後部座席にずけずけと乗り込んでくるという通常予測できない事態が起きたために、押し返すなどの抵抗等もできず、やむなく後部座席の運転席側に着座したものである》
男性の代理人は「事実認定に基づいた真っ当な判決」と二審判決を評価。男性自身も「これで警察の暴走を止めることができれば」と、捜査にあたった警察官らへの適正な処罰が必要なことを指摘した。被告(被控訴人)の道警は判決後「内容を精査し、対応を検討する」としていたが、期限までに上告を断念する結果となり、2月11日に高裁判決が確定した。
被害を受けた男性が指摘する通り、確定判決では当時の警察官らの虚偽公文書作成や偽証などが事実上認められており、男性は「警察がまっとうな組織ならば、当事者の警察官たちを捜査して証拠偽造などを立件すべきではないか」と話している。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |