自殺問題で北海道が「のり弁」開示|江差看護学院パワハラ、遺族対応方針など藪の中

北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメントで在学生が自殺した問題で、遺族対応方針などを記録した公文書の開示請求に対し、北海道(鈴木直道知事)が1月下旬、庁内協議の経緯をほぼすべて墨塗りした「のり弁当」状態で当該文書を開示した。文書によっては協議の日時なども伏せられ、また全体の9割以上が「のり」で覆い尽くされた記録もあるなど、情報公開の適正性に小さからぬ疑問を生む対応となった。

第三者調査委員会「調査書」⇒PDF

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江差の自殺事案について筆者が道に関係文書の開示を請求したのは、昨年12月中旬。同事案で第三者調査委員会の調査結果が伝わった同年4月以降にあった道の対応一切に伴って作成・取得された公文書すべてを請求したところ、対象文書が多量なため開示決定の延長を余儀なくされたものの、2週間ほどを経た本年1月19日には全文書の「一部開示」が決まるに到った。

請求の目的は、第三者調査報告後に道が遺族対応の方針を固める経緯などを検証することなどにある。道は昨年5月、ハラスメントと自殺との相当因果関係を事実上認めて遺族に謝罪したが、同10月には謝罪時と180度異なる認識を示し、遺族の不信を招くこととなった( 既報 )。この「手のひら返し」は地元議会や知事記者会見などで問題となり、12月下旬には江差の被害学生の保護者らで作る「父母の会」が知事へ先の方針の撤回を申し入れるなど、関係者間に疑問の声が拡がり続けている。

道はそもそもなぜ、わずか半年間で態度を変えることになったのか。今回の開示請求ではその背景が一定程度あきらかになることが期待されたが、結果としてそれは叶わなかった。開示文書は計140枚あり、このうち遺族対応の方針を決める協議に関連しているとみられる文書は49枚。その多くがほぼ墨塗り状態で、協議の内容のみならず日時や場所、文書の標題の一部までが隠されているものがほとんどだった。「手のひら返し」にお墨付きを与えたと思われる顧問弁護士の氏名も伏せられ、同弁護士への相談の結果を報告する計11枚の文書では、うち9枚が全面墨塗りとなっていた。文書の中には、先の第三者調査報告から『自死との相当因果関係は認められる』との記載を引用している報告も複数あり、道はその結論を把握していながら正反対の方針へ舵を切っていたことになる。

本サイト既報の通り、北海道の鈴木直道知事は上述の方針転換に僅か15分間で了解を与えていた。その後の「父母の会」申し入れには姿を現わさず、記者会見でその理由を問われては「引き続き誠意をもって対応」と抽象的な回答を繰り返した。亡くなった学生の遺族は「自死とパワハラとの因果関係を認めないなら、私としては『誠意』は感じられません」とした上で、道の対応の変化に僅かな期待を寄せていたが、事態は動かないまま新たな年を迎えることとなった。

問題をめぐっては遺族の代理人が昨年11月、改めて書面で道に再考を求めたところだが、2カ月が過ぎた現時点で具体的な対応は伝わっていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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