各種選挙では「選挙運動費用収支報告書」を、政治団体や政党(支部を含む)が行う政治活動については「政治資金収支報告書」を作成し、総務省や都道府県の選挙管理委員会に提出するのが決まりだ。政治資金収支を明らかにするのは、いわば政治家にとってのイロハのイ。怠った場合には当然ながら罰則の対象となり、選挙運動に関する事案なら公職選挙法、政治活動なら政治資金規正法の規定が適用されることになる。
ハンターは、定期的に福岡県内にある自治体を選んで首長や議長の政治資金を検証しており、法に抵触するケースがみつかることがしばしば。今回明らかになったのは、その「イロハのイ」が分かっていない例で、主役は福岡県南部にある「明るい選挙推進宣言」を行っている自治体の議長である。その議長の選挙運動費用収支報告書を精査する中、不適切な記載が確認されたため修正を勧めようとしたのだが……。
■不適切な記載、「炊き出し」の証拠も
下は、福岡県南部にある市の選挙管理委員会に情報公開請求して入手した「選挙運動費用収支報告書」の表紙。同報告書を提出したのは、当選6回を数える議員で、現在は市議会議長の要職に就いている。
13ページしかない報告書の中で最初に目についたのは、支出に関する記載のなかの次のページ。選挙の告示前であることを示す「立候補準備」という区分に、『料理作り』という支出目的で『校区各公民館』に11,000円が支出されたことになっている。
選挙の告示前に、なぜ「料理」を、しかも「公民館」で作る必要があるのか――。不思議に思って領収書を調べてみたところ、実際には告示後の別々の日付で、4か所の公民館が計4枚の領収書を発行していた。金額は2,000円が3件、5,000円が1件。合計するとたしかに報告書の11,000円になるが、記載方法としては間違い。公選法が報告するよう求めているのは1件ごとの収入・支出であって、支出目的でまとめていいというものではない。この報告書は不適切な状態ということになる。
そもそも公民館で料理を作って、いったい誰に提供したのか?地元スーパーのものとみられる食材のレシートなどを確認してみると、選挙期間中、毎日肉や野菜を購入しており、決して少ない量とは思えない。周辺を取材してみると、プレハブで建てられた市議の選挙事務所に訪れた客や選挙スタッフに、飲食の提供が行われていたという複数の証言を得た。都市部の選挙では死語となった「炊き出し」が、生きているということだ。捜査当局が事実関係を掴めば「供応」が成り立つ話だろう。
■あり得ない「リーフレット」の記載
どうもこの議長の選挙運動費用収支報告書は、“デタラメ”と言われてもおかしくない内容である。表紙から見直していた記者が次に注目したのは、次のページの記載だった。(*赤いアンダーラインはハンター編集部)
4月5日付けの支出の最後は「77,760」。支出の目的は「リーフレット」となっている。選挙期間中に作成可能な印刷物は、選挙用はがきやポスター、ビラ(自治体によって可否が異なる)などに限定されており、一般的に「後援会活動」で資料として使われるリーフレットは、選挙のための印刷物には含まれないのが普通だ。本当にリーフレットが作成されたのか?さらには、作成されたというリーフレットの現物が、いかなる内容だったのかという疑問が浮上した。
議長本人や周辺に直接取材したところ、たしかにリーフレットは存在していた。実物には「後援会討議資料」と明記されており、記載された住所と連絡先は「後援会事務所」のものだ。さらに「後援会規約」の一部も掲載されており、裏面には「後援会 会長」の挨拶まである。領収書の宛名も、たしかに「○○○○後援会」(*下の画像参照)。収支報告書にある「リーフレット」が、後援会活動用の印刷物であることは確認できた。
すると、問題のリーフレット印刷費を、選挙運動費用に算入することはできない。記載するなら、後援会の「政治活動費用収支報告書」でなければならない。明らかな記載ミスであり、このままでは違法だ。普通なら、選挙運動費用収支報告書に記載されたリーフレットの項目をすべて横線で抹消し、支出金額や残額を訂正することになる。違法な状態でなくなれば、それで一件落着。議長や「後援会」の関係者に結果を報告して終わる――はずだったが、ここから事態が「前代未聞の大きな疑惑」(県政界関係者)へと急展開する。
(以下、次稿)