昨年7月に札幌市で起きた「首相演説ヤジ排除事件(*)」を巡り、北海道警察は3月30日、この問題について公文書の開示を求めていた筆者に対し、事実確認の結果や法的根拠などを記録したとされる文書を「一部開示」した。一部開示とはいえ、実態はほとんど黒塗り非開示。98枚中95枚が“のり弁”で、道警の隠蔽姿勢が露わになる結果となった。
【※…参議院銀選挙期間中の昨年7月15日、与党系候補者の応援演説で札幌を訪れていた安倍晋三総理大臣にヤジやプラカードで意見表明しようとした市民少なくとも9人が、多数の警察官によって演説の場から排除された事件】
北海道の情報公開条例では通常、請求から2週間以内に開示の可否が決まることになっているが、道警は今回さらに2週間延長し、当初の請求から1カ月を経てようやく3種、計98枚の一部開示決定に到った。
開示された文書は、大部分がいわゆる“のり弁当”状態となっており、条例に基づく請求に対しても事実の開示を拒む姿勢が改めて浮き彫りとなった。
今回「開示」された98枚のうち、墨塗り処理が1カ所もなかった文書は1種3枚に留まった(『警護現場における警護措置について』)。いずれも道警が初めて事実確認結果を報告した2月26日の北海道議会で配布された資料で、これらは公知の事実として非開示とする必要がなかったことが窺える。
一方、初めて存在が明かされた2種95枚の文書(『取扱状況の確認結果』『法的根拠の考察結果』)では、内容の大部分もしくは全文が墨塗りで隠されることになった。95枚のうち、わずかでも内容の一部が開示された文書は9枚、また文書のタイトルや項目のみが塗り残されたものが37枚あったが、残る49枚は全面が真っ黒の“のりだけの弁当”となっていた。
道警の『一部開示決定通知書』では、担当部署の警備部公安二課が「開示しない部分」と判断した項目を以下のように示している。
・文書『取扱状況の確認結果』の非開示部分…「取扱者」欄、「取扱日時」欄、「取扱場所」欄、「対象者」欄、「取扱状況」欄、図面、警察官と相手との会話内容。
・文書『法的根拠の考察結果』の非開示部分…「事案概要」欄、「警察官の職務執行状況」欄、「法的根拠の考察」欄、「補足資料」欄、図面。
同通知書の「開示しない理由」を見ると、いわゆる個人情報に配慮した(とされる)箇所を除いては、道警がテロ対策を引き合いに出して墨塗りの理由としていることがわかる。上に示した12項目のうち9項目に共通する非開示理由の全文を、下に引いておこう。
《これらの情報を開示することにより、警護警備における個別の事象に対応した警察の具体的な体制、措置等が明らかとなり、テロ等の不法行為を実行しようとする勢力に有意な情報を与え、これに応じた対抗措置を講じられるなど、今後の警護警備に支障が生ずるおそれがあると認められるため》
テロのような犯罪を未然に防ぐ取り組みの重要なことは、もとより論を俟たない。だが今回の事案では、犯罪を取り締まる警察自身の違法行為が疑われているのだ。公文書を通じて職務執行のあり方を検証される側が、テロ対策を理由にその検証を拒む姿勢は、捜査機関として適切な対応と言えるのか。
筆者はこれまでにも、取材の一環で警察や検察、裁判所などに文書開示請求を行なってきた。隠蔽が疑われた陸上自衛隊南スーダンPKOの『日誌』なども同じ手続きで入手しており、墨塗り箇所の多いことに呆れ返った憶えがある。役所のそういう体質を知る者の1人として、最後にひとつ言っておこう。「これほどの墨塗りは、今まで見たことがない」――。
(小笠原 淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 北方ジャーナル→こちらから |