鹿児島県警「情報漏洩」の真相(3)|隠蔽された警視の公金詐取と改変された「刑事企画課だより」

鹿児島県警の未発表不祥事報告、3回目となる本稿では県警が2年ほど前に把握していたとされる幹部警察官の不正請求疑いを採り上げる。

■現職警視が超過勤務手当を詐取

筆者に送られてきた告発文とハンターの確認取材によれば、事件の主役は鹿児島中央署に勤務する50歳代の男性警視。同警視は2021年3月に現在の階級に昇任後、きっかり1年おきに鹿児島南署→中央署→西署→中央署と異動を重ねてきていた。22年の中央署所属時、実際の退庁時刻よりも遅い時間に退庁したように装う申告をし、超過勤務手当を不正に取得していたという。

不正が発覚したきっかけは不明だが、現時点で発覚から2年が過ぎており、事実ならば県警ぐるみで幹部の不正請求を隠し続けていることになる。内部では「立派な詐欺罪」と批判する声があり、事件化を見送った県警上層部の判断は悪質な隠蔽行為にあたるとの指摘もある。

さらに、上述した1年おきの異動が事件の隠蔽と無関係ではないとする見方もあり、組織はいわばそのような頻繁な異動をもって当人への制裁としている――、そんな可能性が囁かれているようだ。

本件に関するこれ以上の詳細はわかっていないが、筆者とハンターが情報を把握した時点で「しかるべき制裁」を求める告発の声が伝わっていることをつけ加えておく。

■「刑事企画課だより」

結びに、今回の不正請求の情報とほぼ同時に入ってきた県警の奇妙な動きを報告しておきたい。ハンターは昨年11月、鹿児島県警が職員向けの文書で事件記録の「積極的な廃棄」を指示していた事実を報じた(既報)。文書は昨年10月2日付の『刑事企画課だより NO.20』(*下の画像)で、「適正捜査の更なる推進について」と題した特集で捜査資料などの扱いについて呼びかけたもの。詳しい内容については先行記事に譲るとして、全体として資料の積極的な廃棄などを推奨する不適切な文言が並んでいた。

これを紹介したハンター記事の配信直後――具体的には昨年11月21日、県警はなぜか再び「適正捜査の更なる推進について」と題した『刑事企画課だより NO.23』を作成、10月の『NO.20』に見られた不適切な表現を事実上訂正し、あるいは慎重な言い回しに改めていたことが分かる文書が、今回送られてきた郵便物に封入されていた。たとえば、以下のごとし。

・《被害者が秘匿録音していることもありますので、対応等の言動には十分注意してください》→ 全文削除

・《「警察にとって都合の悪い書類だったので送致しなかったのではないか」と疑われかねないため、未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄する必要があります》→《必要なものは検察庁に確実に送致するほか、その写し等については、犯罪捜査規範施行細則等に基づき、適切に保管管理し、保管管理が不要と判断したものは、関係者のプライバシー保護の観点等からも、確実に廃棄する必要があります

・《再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!》→《国賠請求や再審請求等が提起された場合には、その対応に必要なものは引き続き廃棄せずに保管管理する必要があります》

ハンターの指摘がなければ、県警はこれらの修正を行わなかったはずだ。一連の対応の適正性は、鹿児島県民を含む読者の評価に任せたい。

最後に重ねて述べておく。筆者に郵送されてきたのは、紛れもなく「内部告発」。公益通報であることを明確にしておきたい。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

 

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