大阪府咲州庁舎の地下駐車場に2億円の美術品

2025年に大阪・関西万博が開催される予定の「夢洲」の南、「咲州」にそびえるのは、大阪府咲州庁舎(さきしまコスモスクエア―)。1995年3月に竣工した際にはアメリカ・ニューヨークをはじめ、世界各地にあるワールド・トレード・センター(世界貿易センター)の一つとされていた。総事業費は1,193億円、高さは256.0mと最先端のタワービルディングだ。

その咲州庁舎の地下3階駐車場に降りると、“最先端”にそぐわない光景に出くわす。立ち入り禁止となっている黄色のフェンスで囲われた一角に、ブルーシートにくるまれたものが無造作に置かれているのだ。ブルーシートの中にあるのは、大阪府が所蔵する総額2億円相当の美術品105点というから驚きである。

◇   ◇   ◇

咲州は、夢洲と同様に大阪湾のゴミを捨てるための埋め立て地に建てられたビルだけに、地下3階の駐車場に入るとまとわりつくような湿気を感じる。2億円もの美術品が放置されているのは、そうした場所だ。

かつて大阪府は『大阪府20世紀美術コレクション』と銘打った美術館構想を打ち出した。実際に世界から絵画や彫刻、オブジェなどの美術品購入を開始したのが1980年代後半から1990年代にかけて。同時に『大阪トリエンナーレ』という美術コンクールも開催していた。しかし、バブル崩壊で税収減少となり構想はとん挫。買い集めるなどした7,900点の美術品だけが残った。大阪府の幹部が、一連の経緯をこう説明する。
「当初は民間の倉庫などに収蔵していました。その後、大阪府の施設ができたのでそちらにも移転。しかし、入りきれないものが出て咲州庁舎の部屋に置くようになったのが2015年頃。その後、咲州庁舎の一部に民間のホテル業者が入居するとなって地下3階の駐車場に移動させたのが2017年のことです」

以来、美術品収蔵物として整備されていない問題の105点が、地下3階の駐車場に置かれたままになったということだ。

「絵画など湿度、温度に影響を受けやすいものは大半が別のところで収蔵されています。駐車場には、大型の彫刻、金属や鋼材でつくられたオブジェなどが置かれており、地下3階の駐車場でも影響は受けにくいと考えています」(前出の大阪府幹部)

確かに写真にある通り、ブルーシートにくるまれ、養生テープのようなもので見えないようにされただけの美術品はかなり大型のものが多いようだ。大阪府の幹部は楽観的な見方を示したが、地下3階の駐車場である以上、車が入ってくるたびに駐車場には排気ガスが充満する。これでも、作品は影響を受けないというのかだろうか。

 写真にある通り、ブルーシートの中には高さが2mくらいありそうな作品が、コンクリートの床や、木製のパレットに積まれている。その中には、芸術家の中ハシ克シゲ氏が「大阪トリエンナーレ」に出展し彫刻部門銀賞を受賞、その後大阪府が買い上げた『BO-BO-BO』という作品や。立体作品の美術家・森口宏一氏(故人)の大型彫刻などが含まれているという。

この問題について吉村洋文知事は記者会見で、「管理方法は不適切だ」「6年間保管していて1回、水漏れもあった」と認めた上で、「美術品を作られた方がいらっしゃる。リスペクトが必要だ。あの保管方法ではそれを感じ取ることができません」と問題があることにも言及。「美術作品を民間活用しようと移転先を探していた。それが決まるまで当面ということで学芸員が指導して駐車場での保管となった。月2回、見回りもしていた」などと釈明した。

だが、知事が述べた「民間活用」の計画は進展しておらず、一部の作品が咲州庁舎の1階ロビーなどに展示されている程度。そこで吉村知事は「美術館は作らないが、何か知恵はないか伺いたい」として専門家チーム「アート作品活用・保全検討チーム」を設置。メンバーには座長の山梨俊夫・前国立国際美術館館長の他、2人の専門家と大阪府特別顧問で美術には「専門外」の上山信一氏を入れ、今月18日に初会合を開いた。

毎日新聞の報道によれば、この会合で上山氏は「デジタルで見られる状況にしておけば、物理的な部品(作品の現物)は処分してもいいというのはありえると思う」」と発言したという。大阪府で「デジタルミュージアム」の計画があり、それを前提にした発言のようだが、公費で買った作品を処分してデジタルだけがあればいいという「乱暴」な意見にしか聞こえない。

デジタルミュージアムであっても、現物が存在し、いつでも見ることができるのようにすることが大切ではないのかだろうか。現に専門家チームの他のメンバーからは、「裏付けとして現物を持っていることは必要だ」との発言があったとされる。

上山氏は維新の会の創設メンバーである橋下徹氏が大阪府知事に就いた時に、大阪府特別顧問に就任。橋下氏が大阪市長に転身すると、大阪市でも顧問を兼ねるようになった。維新政治塾の講師も務め、「維新応援団」的な著作もある。専門家チームでの上山発言を報じた毎日新聞が気に入らないのか《毎日新聞は悪事のたくらみという点ですごい。会議の発言の断片を無理に組み立てて嘘の見出しをつくりまき散らす。ネット民を扇動して個人攻撃をする》と批判している。

吉村知事は上山氏を通じて、身を切る改革ならぬ、美術品を切る改革を目指すのか?

 

 

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