9日、統一地方選前半戦で最も注目されていた大阪府知事選と大阪市長選のダブル選挙が行われ、即日開票の結果、大阪府は維新現職の吉村洋文氏が、大阪市長には新人の横山英幸氏が圧倒的な強さを見せつけ当選した。
これまで維新が過半数を獲得できなかった、大阪市議会でも過半数を奪取。吉村氏が「過半数をとれなければ、維新の代表を辞任する」とハッパをかけた効果が表れた格好だ。
◇ ◇ ◇
維新の国会議員が笑顔で語る。
「大阪府、市とも維新が自由自在にやれる環境が整った。国政でも安心して勝負ができる」。
対照的なのは惨敗した自民党だ。これまで、橋下徹氏と松井一郎氏が創設した維新に負け続けきた経緯から、今回は政治団体「アップデートおおさか」を前面に出し、政党カラーを出さない戦略で挑んだ。知事選には大学教授でコメンテーターの谷口真由美氏、市長選には自民党市議の北野妙子氏を擁立したが、維新の勢いに飲み込まれた。「ダブル選挙は正直、厳しいと思っていた。府議選、市議選でもここまで維新に負けるとは想定していなかった」と自民党大阪府連の幹部は肩を落とす。
維新の政策といえば、これまでは「大阪都構想」を繰り返すばかりだった。しかし、今回はIR・カジノ構想の是非が最大の争点。自民党は徹底したカジノ批判を展開した。
「カジノにNOを突き付けないと、維新との対立軸にはなりませんから徹底しました。ただし、自民党が政権与党でもる以上、代案も必要です。あわてて、これをやったのですがあまりに現実味がなく、維新からは反撃にあって大失敗に終わりました。SNS上でも炎上しましたから、大敗した理由の一つになるでしょう」と先の府連幹部が指差したのは1枚のポスター。『夢洲にディズニーリゾートを! 自民党』と大きな文字が躍る。カジノ予定地である大阪市此花区の埋め立て地「夢洲」にディズニーリゾートを誘致するというのだ。確かに、ごく一部で語られていた案だが、大阪府民はほぼ知らない絵空事。唐突に出てきた公約だった。
府議選の自民党候補だった人物によれば、中山泰秀元衆議院議員らが検討して出されたものだったという。
「夢洲に近接するところにUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)があります。カジノではなくディズニーリゾートをというのは、誰もが思い浮かぶ代案。中山氏は以前からディズニーの関係者とコネクションがあるということで検討はされました。しかしそれが公約、代案というほどきちんと自民党の府連で論議されたわけではありません。ディズニーというブランドありきで中途半端な格好で表に出してしまった」(府連の幹部)
さっそく反応したのが引退する大阪市の松井一郎市長。過去の経緯を踏まえて手厳しく批判した。
「維新批判だけで政策が見えない。ディズニーはできません。USJを誘致する際に、大阪市としては大規模テーマパークは誘致しないと覚書を結んでいます。USJを誘致した時は自民党が中心でした。
そのことを知った上でやっているんでしょう。知らんというなら、まったくの勉強不足。ディズニーも関係ないところで巻き込まれて申し訳ない話」
ディズニー案は、日本維新の会の藤田文武幹事長からもボロクソにけなされた。
「大阪の自民党のポスターに、がディズニーリゾートやるから、カジノやめてくれと書いてある。さまざまな議論がされて、万博でありカジノとなった。それが大々的に広報されてきた。大阪の自民党にガバナンスはない。むちゃくちゃ。中山氏は、かかわっていないとはしごをはずしている。これだけ大々的になっているのだから、尻拭いしてやれよと。矢面に立ったらいいのに俺は関係ないと言い出している」
ディズニーリゾート誘致話の中心とも報じられている中山氏は、この件を報じたネットメディアに、弁護士を通じて抗議の書面を送るなど「逃げ」の体制だ。その中山氏の地盤は、大阪市内に位置する大阪4区。同区内から出馬した自民党の府議候補らは、選挙公報に『カジノより大阪にディズニーリゾートを』と堂々と掲載していた。
落選した自民党の府議候補の一人が恨み節を口にする。
「維新に劣勢なうえに、ディズニーリゾートというありえない公約までぶち上げてよけいに支持を落として、本来の自民党票まで維新に流れた。ディズニーリゾートと選挙公報に出していた一人は、中山氏の元秘書ですから誰が中心だったのかよくわかるでしょう。維新の藤田幹事長が言ったように、選挙戦真っ最中の我々に代わって中山さんご自身が戦ってくれればいいものを、弁護士まで使って我関せずの態度。中山さんは父が大臣まで務めた典型的な二世。言動には問題も多く、地元の人からは『あほぼん』と揶揄されることもあります。まさに、今回のディズニーリゾート騒動は『あほぼんやな』と笑いのネタになっています。中山さんは国政で副大臣まで経験しているのですよ。惨敗は投票前から見えていた」
自民党は、負けるべくして維新に負けたということだ。