菅政権を揺さぶる元法相・河井被告の「議員辞職」

昨年6月、公職選挙法違反(買収)で逮捕・起訴され被告の身となった元法相の河井克行衆院議員。同じ罪を犯した妻の河井案里元参院議員には、懲役1年6か月・執行猶予5年の有罪判決が下され、確定している。

有罪判決を受けた案里氏が辞職したため参院広島選挙区は再選挙となり、4月25日に投開票が行われる予定だ。菅義偉内閣の支持率が下がり続ける中、自民党にはかつてない逆風が吹きつける。

■逆風うける広島自民

一部で、広島出身の経産省官僚を推す動きがあるが、自民党宏池会に所属する中堅議員は「参院広島選挙区の候補?経産省の官僚?とてもそんなタマでは勝てないよ」と言って肩を落とした。

広島は宏池会のトップ、岸田文雄元外相の地元だ。岸田氏が主導して候補者を選定すれば、当選させることも難しくはない。しかし、一昨年7月の参院選で河井夫妻が引き起こした2,900万円ものカネをばらまくという前代未聞の買収事件に広島の県議、市議など政界関係者50人以上が関与したことで、県民、市民の自民党への支持は「地に落ちた」と言われている。実力者の岸田氏がどう頑張っても、参議院の補選には勝てない状況なのだ。

参院補選だけではなく、次の総選挙にも影響が及んでいる。いち早く動いたのは公明党。党勢に陰りが見える同党にとっては、議席数を増やすことが支持母体・創価学会からの至上命令。普通なら勝てない小選挙区で勝ちを得る絶好のチャンスとみて、克行被告の衆院広島3区に、副代表を務める斉藤鉄夫衆院議員を擁立することを決めた。

連立を組む公明党の強硬姿勢に、自民党本部も同調。後手に回った岸田氏は、地方議員の中から新たに選んだ3区の支部長を比例単独で出馬させるという形で矛を収めざるを得なくなった。

自民党のある広島県議は、苦虫を嚙み潰したような表情でこう語る。
「衆院広島3区は、岸田氏が克行被告に辞職を迫って、自前候補を出さねばならない選挙区です。中選挙区時代は岸田氏の地盤ですからね。それを、公明党にとられても、平然としている。決断力のなさにあきれるばかりです」

■現実味帯びる克行被告の議員辞職

一方、広島自民を奈落の底に突き落とした克行被告の公判は、今も東京地裁で続いている。公判では、「克行被告からカネの入った封筒を強引にスーツの内ポケットへ突っ込まれた」、「不法なカネだと思った」などと、カネをもらった大半の地方議員が買収目的を認める証言をしている。

否認を続ける克行被告だが、案里氏の裁判では克行被告との“共謀”が認定済み。戦況はますます苦しくなるばかりだ。案里氏の判決内容からみて、「主犯格」の克行被告に実刑判決が下される可能性もある。そうなれば、政界復帰は絶望的。そこで囁かれ出したのが、克行被告の「議員辞職」である。

今も衆院議員として歳費をもらい続ける克行被告に対する批判は日増しに強まっており、裁判所の心証も最悪だという。実刑判決なら、一定期間“塀の中”となるわけだが、法務大臣を務めた克之被告にとって、それは最大の屈辱。なんとしても回避したい。「だから」と、自民党の幹部は次のように解説する。
「裁判では否認を続けるとして、バッジを外す形で反省の態度を示せば、実刑判決を回避できるのではと考えているようだ」

克行被告が3月15日までに議員辞職すれば、衆院広島3区の補欠選挙は4月25日投開票となる。公明党の斉藤氏で勝てるのかどうか、広島3区の地方議員に聞いたところ、予想はこうだった。
「この選挙区で公明党の基礎票は3万票もない。当選には8万票は必要。河井夫妻の事件で自民党はほとんど動かない。それにもともと、克行被告自身が選挙に強いタイプではなかった。4月25日に補欠選挙となれば、公明党でも勝てないでしょう」

■国政選挙4敗の可能性も

贈収賄事件で立件された元農相・吉川貴盛被告の衆院北海道2区は、自民党が候補者擁立を断念。羽田雄一郎参院議員の急逝にともなう参院長野選挙区は野党候補が強く、自民党に勝ち目がないとされる。参院広島選挙区は、今も候補者が決まっていない状況だ。国政選挙3敗は確定的で、そこに衆院広島3区が加わると、最悪4敗ということになる。

「国政選挙で4つとも負けるとなれば、菅政権の存亡にかかわるというか、それで終わるかもしれない。菅首相にとっては、克行被告はなんとか議員辞職せずにいてほしいと思っているはずだ。ただ、2019年の参院選で何度も広島まで行って、案里氏とパンケーキまで食って応援したのは菅さん本人。自民党から1億5千万円もの選挙資金をつぎ込んだ責任の一端も菅さんにある。自業自得だよ」(前出・自民党幹部)

世論は克行被告に「早く辞めるべき」と迫る。しかし、議員辞職にともなう補選で与党候補が敗れれば、時期によっては国政選挙4敗で政権が窮地に陥る。首相にとっては、まさに痛し痒し。かつての側近に、とどめを刺される格好になるかもしれない。

(山本吉文)

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