「赤木ファイル」が語る森友学園問題の真相

学校法人森友学園への国有地払い下げ問題を巡り、公文書改ざんの「実行役」を強要されて自殺した近畿財務局職員赤木俊夫さん(54当時)が改ざんの過程や上層部からの指示などを記録した、いわゆる「赤木ファイル」が6月22日に公開された。

赤木さんの妻・雅子さんが提起している国賠訴訟の過程で、国側が提出を迫られていたもの。開示された一連の文書から見えてきたのは、安倍晋三前首相と昭恵夫人に忖度し、部下たちに違法行為を押し付けた佐川宣寿理財局長(当時)をはじめとする財務省幹部らの暴走だった。

■明確になった佐川氏の“指示”

公開された「赤木ファイル」からは、財務省のキャリア官僚が上下関係を利用して改ざんせざるを得ない状況を作り出していた様子がよくわかる。裁判の当初、雅子さんが「赤木ファイル」を証拠として提出するように求めた際に「文書を特定しろ」、「あるかないか分からない」などと傲慢に振舞った態度そのものだ。

「赤木ファイル」は全部で518ページ。赤木さんが最初に改ざんを求められたのは、2017年2月26日(日曜日)。休日なのに、近畿財務局の上司・池田靖氏から呼び出しを受けて出勤していた。

15:48に赤木さんに送信されたメールには「近畿局の皆様 いつも大変お世話になっております」と丁寧な書き出しのあと、次のような文章が続く。

《本省内で保有している森友学園関係の書類(=行政文書)については、特例承認時の決裁(H27)だけなのですが、あらためて当該文書を確認していたところ本省で作成していた調書は勿論、近畿局からの申請に添付されている調書等(近畿作成)についても、今後開示請求があった際のことを踏まえると、現時点では削除した方がよいと思われる箇所があります。

当該箇所をマーキングしておきましたので、本省と近畿局内の間できちんと認識を共有させておくためにも近畿局の決裁文書につづられている調書等を修正、差し替えするとともに、当該修正後の文書を本省にメール送信いただけますでしょうか》(*下が赤木さんに送られてきたメール)

当時国会では、森友学園への国有地払下げ問題で安倍晋三首相(当時)や昭恵夫人の関与があったのではないかと追及が続いており、矢面に立っていた佐川理財局長(当時)は、払下げに関する文書は「一切残っていない」と明言していた。

メールの発信者は黒塗りで消されている。だが、中身は近畿財務局には何ら詳細を連絡することなく、いきなり「修正、削除だ」と強要しているのが明らかだ。とりわけ、政治家への記述には敏感だったようで、メールにはこうも記されている。
《1点、別添「森友学園の概要」というペーパーも本省内の決裁文書に綴られており、これも本省内で修正の必要があるのですが、本文書は近畿局内の決裁文書上にもあるのかあわせてご確認ください。あるようでしたら、調書等と同様に修正、差し替えを、無いようでしたら本省内の文書を修正します》

財務省が問題にしている、「森友学園の概要等」という文書がこれだ。(*網かけ部分がマーキングされた箇所

《理事長 籠池康博氏は「日本会議・運営委員」を始めとする諸団体に関与している》

《なお、国会においては、日本会議と連携する組織として、超党派による「日本会議国会議員懇談会」が平成9年5月に設立され、現在、役員に特別顧問として麻生太郎財務大臣、会長に平沼赳夫議員、副会長に安倍晋三総理らが就任》

《打合せの際、「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人から『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた。」との発言あり。(森友学園籠池理事長と夫人が現地の前で並んで写っている写真を提示)》

――つまり、安倍氏ら政治家に関連する記述を軒並み削除せよというわけだ。その安倍氏は、メールが発信される直前の同年2月24日、衆院予算委員会で野党から集中砲火を浴びる。

今井雅人(民進党・当時)「安倍昭恵さんという個人で名誉校長になられているのなら、それでも疑義はありますけれども、まだいいですが、ここに安倍晋三内閣総理大臣夫人と書いてあるわけです。この役職、ある意味肩書なわけですね、これが載っているということは、内閣総理大臣の夫人ですから、御夫婦ですから、一緒にやっているようにやはり見られる。戻ってホームページを見たら削除されていまして、早いなと思いましたけれども、また隠蔽するのかというふうに思いました」

これに対し、安倍氏は激怒して、次のように吠えたてた。「隠蔽というのは、では、私が隠蔽したんですか。私がホームページから、森友学園のホームページに対して私が隠蔽しようがないじゃないですか。そういうイメージ操作はやめるべきですよ」

強気だった安倍氏は、この後、矢継ぎ早の追及に防戦一方の展開となる。
「名誉校長の件については、いわば講演会に行ったときに、講演会の際に理事長に対してお断りをさせていただいたところ、その後講演をし、そこで、ぜひ名誉校長をお引き受けいただきたいと話し、どうですかといって、聴衆、父兄の方々もおられたんですが、ではよろしくお願いします、こう頼まれたわけであります。妻の記憶ではそこでも明確に答えずに笑っていたということでございますが、その後もやりとりがあった中において、最終的には確かにそういう形になったわけでございます」

この時の国会では佐川氏も、野党の質問に森友学園の特別扱いはないという趣旨の答弁を繰り返していた。だが「赤木ファイル」には、《売払決議書(売払調書)は佐川局長から国会答弁を踏まえた修正を行うように指示(調書の開示により新しい情報を与えないよう)があったとのこと》と佐川氏の関与があったことも記されていた。

財務省が、追い込まれた安倍政権を見えないところでサポートし、国会質疑や情報公開で資料請求があった場合に備えて公文書改ざんに走ったとみるべきだろう。だが、公文書改ざんという犯罪行為は、財務省の幹部だけで判断できることではない。政治の責任が問われているのは言うまでもない。

■記述に見える赤木さんの覚悟

赤木さんはなぜ一連の経緯を「赤木ファイル」として残すことを決めたのか――。彼は、こう綴っている。

現場の問題意識として既に決裁済の調書を修正することは問題があり行うべきではないと、本省審理室担当補佐に強く抗議した

佐川理財局長への説明過程や、同局長からの指示等の詳細が当局に還元(説明なし)されず、詳細が不明確のまま、本省審理室(担当補佐)からその都度メールで投げ込まれてくるのが実態。本件の備忘として、修正等の作業過程を下記の通り記録しておく」(*下の文書参照)

ファイルの記述からは、赤木さんが公務員としての良心をもって、公文書改ざんはあってはならないとしながら、圧力でやむなく応じざるをえなかったつらさがみてとれる。

6月24日、雅子さんは日本外国特派員協会で記者会見し「夫が苦しい立場で、赤木ファイルを残してくれたのだと思うと涙が出ます」「麻生さんは部下の夫が死に追い詰められたが、今も仏前に手を合わせにきたことや再調査もしない。まだ財務大臣を続けています。部下のことを思う心があるのか」と訴えた。

雅子さんは今後「赤木ファイル」が本物なのか、ないとしていたものがなぜ発見されたのか、特定の人物が黒塗りで秘匿されているのは問題だと、さらに裁判で訴えていくという。

 

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