河井元法相買収事件「第二幕」に怯える広島の地方議員たち

河井案里元被告が参議院議員に初当選した2019年夏の広島選挙区における買収事件で逮捕、起訴された元法相・河井克行被告の公判が東京地裁で続いている。これまで、買収容疑を否認していた克行被告は、3月23日からはじまった被告人質問で態度一変。公訴事実を事実上認めた上で、進退についても「衆院議員を辞する考えです」と明言し、25日午後には衆議院に議員辞職願を提出した。

実刑逃れを目論み、“けじめ”をつけたつもりだろうが、河井被告をとりまく状況の厳しさは変わらない。すでに、案里元被告は有罪判決が確定し議員辞職。案里元被告との共謀については「天地天命に誓ってありません」と否認しているが、これを信じる国民は皆無だろう。河井被告にも有罪判決が下される可能性が高いが、前代未聞の巨額買収事件には「第二幕」が待っている。

■被買収側不処分に批判の声

これまで、参院広島選挙区の買収事件で立件されたのは、カネを渡した側の河井夫妻だけ。もう一方の当事者――計2,900万円のカネをもらった50人以上の地方議員を含む県内の約100人については、処分が下っていない。

公職選挙法の買収事件は、渡した側ともらった側の、どちらも立件されるのが一般的。広島で買収の主な対象となった地方議員50人は、ほとんどが自民党広島県連に所属するの県議・市議だ。

例えば、2015年に判決が下った青森県の平川市長選挙を巡る買収事件では、当選する目的でカネを渡したとして前市長らが買収で逮捕・起訴され、市議15人が被買収で立件された。前市長は実刑判決。前市長側から20万円をもらった3人の市議(当時)には罰金刑プラス公民権停止という判決が確定している。これが一般的な、公職選挙法違反事件への捜査当局の対応なのだ。

ところが、河井夫妻の事件では、被買収側の県議・市議の大半が「買収目的でカネをもらった」と法廷で罪を認める証言をしていながら、立件されたケースは無し。刑事処分は誰にも下されていない。これでは、公平・公正な法の執行とは言えまい。

元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士は自身のブログに《(参議院広島選挙区の)再選挙に関しては、「選挙の公正」の前提に関して重大な問題がある》と問題提起。次のように述べている。
《案里氏が4人の広島県内の首長・議員に現金を供与した公選法違反の事実について有罪が確定し、また、克行氏の現金買収についても、40人もの首長・議員らの大半が克行氏から現金を受領し、それが選挙買収の金であったことを認める証言をしており、本来、これらの被買収者についても公選法違反で起訴され、公民権停止となり、一定期間選挙権もないし、選挙運動を行うことが禁じられるはずであるのに、検察は、いまだに、被買収者について公選法違反での刑事処分を行っておらず、起訴も処罰も行われていない》

■広島自民を待ち受ける運命

郷原氏の指摘は当然のことで、他の多くの司法関係者からも、被買収側が立件されていないことを批判する声が上がる状況となっていた。だが、検察は甘くない。特に、国民注視となった広島の事件で、犯罪行為を見逃すわけにはいかないからだ。ある捜査関係者が、こう明かす。
「これまでは、否認していた河井被告の公判の流れを見てから次の動きに、という感じだった。だが、克行氏が買収を認めたので、被買収側の処分にも手をつけやすくなった」

こうした動きを感じ取った広島の政界は、「とんでもないことになる」「参議院の補選どころではない」(自民党県議)と頭を抱える。中には、「正直に言うてくれたら、不問にするけぇと検事は説明した。だから、本当にことを言うたんじゃけ、刑事処分なんてないはずだ」(広島市議)と話すお人好しもいるが、まったくの見当違いだ。

元広島県議会議長の大物・奥原信也広島県議は200万円、三原市の天満祥典元市長は150万円と桁違いのカネをもらっている。他の政界関係者のうち買収額が最低の10万円だったのはほんの数名で、残りはすべて20万円以上。30万、50万がゾロゾロいるといった現状がある。

前述した青森県平川市長選のケースでは、20万円をもらった市議らが罰金もしくは執行猶予付きの有罪判決、さらに公民権停止5年が付いており、この事例が買収事件における処分の相場だという。すると、河井夫妻の事件では、地方議員の大半に同様の処分が下されるということになる。

前出の捜査関係者は、こう解説する。
「不起訴にした場合、当然、検察審査会に申し立てらが行われます。そこで起訴相当の議決でもされたら、検察のメンツは丸つぶれです。そうならないためには、もらった金額で線引きして、起訴するしかないでしょう」

起訴と不起訴を分かつラインは、20万円あたりではないかとみられており、そうなれば広島の県議、市議が職を追われ、補欠選挙が一斉に行われることになる。

「10人、20人と議員が失職して、公民権停止となったら、いったいどうなるんじゃ。公民権停止だから、現職は選挙に出馬できないし大混乱だ。自民党批判が一層強まり、市政、県政もえらいことだ。広島の自民党は壊滅じゃ」(前出の広島市議)

河井夫妻が引き起こした前代未聞の買収事件は、新たな問題に発展しそうだ。

(山本吉文)

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