破産した経済人側から政治献金を受け取っていた麻生太郎副総理兼財務相。長年にわたり麻生氏に政治資金を提供してきたのは、広島県呉市の呉商工会議所元会頭・奥原征一郎氏である。
奥原氏が経営に携わっていた「寿工業」(呉市)や「アジア特殊製鋼」(福岡県北九州市)は、多額の負債を抱えて2012年に倒産。奥原氏自身も、自己破産していた。
ところが、その4年後の2016年、広島の地元紙「中国新聞」の元日号に、大きく『浮体式風力発電 実用化へ着々 グローカル・奥原征一郎氏新春トップインタビュー』という見出しが躍り、同氏のインタビュー記事が掲載される。
■倒産で消えた8億円の補助金
記事の内容は、奥原氏が洋上風力発電事業に進出するという内容だ。会社を破綻させながら、麻生氏に多額の政治献金をしていた征一郎氏が、なぜか地元紙のトップインタビューで、新事業について語っていた。
奥原氏は、《「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」の委託を受けた実証研究に、丸紅や東京大、日立造船などで構成する企業グループの一員として参加しています》として、研究段階から参加すると明言。事実、2019年5月から、北九市沖でNEDOと共同の実証実験がスタートしていた。
前稿で指摘した通り、征一郎氏が社長だったアジア特殊製鋼が経営破綻したのは2012年4月。債務保証をしていた征一郎氏の中核会社、寿工業(後のKK資産管理会社)の特別清算が終結したのが2017年6月。こうしたゴタゴタの真っ最中ともいうべき16年11月に、グローカルはNEDOの実証実験の委託事業者に正式決定していたのである。会社を倒産させて多くの債権者に迷惑をかけた人物が関わる法人が、公的な事業に参加するなど、一般的にはあり得ない話だ。
しかも、アジア特殊製鋼が設立された2009年、福岡県は企業誘致促進のために3億円、北九州市は5億円の補助金を出しており、同社の経営破綻で合計8億円の補助金(つまり税金)は、事実上消えてなくなっている。それが同じ北九州市で、同社を破綻させた奥原氏の会社が大きな事業に参加するというのだから、誰もが驚く展開だった。
2012年6月の福岡県議会では、アジア特殊製鋼に渡った3億円の企業立地交付金が問題となり、次のような質問が出ていた。
「資金的には福岡県から企業立地交付金として実に3億円もの交付金が支出されたと聞いております。(中略)多額の交付金を受けながらも、操業後わずかな期間で倒産や県外に撤退するという事態が、今後も発生することが懸念されるところです。そこでお尋ねをします。本県における現在の交付金制度では、企業が撤退する際に、交付金の返還を求める規定がないと聞きます。ちなみに、北九州市では交付金の返還規定が要綱の中に明記され、今回のアジア特殊製鋼にも返還を求めていくそうです」
当時を振り返ったある北九州市議会議員は、こう憤る。
「奥原氏が経営に参画していたアジア特殊製鋼は、福岡県と北九州市で8億円もの税金を踏み倒し、総額200億円を超す負債を抱えて倒産した。それが、突然、北九州市でNEDOと実証実験をやるというのだから、びっくりだよ。税金も返さず、地元雇用を無茶苦茶にして出て行った人間が、なんでまた舞い戻って商売するのか理解できません。グローカルですよね。そんなことができるのは、麻生氏の力があるからじゃないですか」
■レストラン・居酒屋の経営会社が洋上風力?
2013年以降、グローカルは麻生氏が代表を務める「自由民主党福岡県第八選挙区支部」に毎年のように献金しており、確認できただけで2013年から5年連続で毎年30万円、総額150万円を寄附。また、奥原氏が代表である麻生氏の支援団体「中国素淮会」は、前稿で報じたように2015年から18年までの3年間で総額5千万円の寄附を、麻生氏の資金管理団体「素淮会」に上納していた。
北九州市沖での実証研究に参加した企業は、丸紅、日立造船、九州電力グループの九電みらいエナジーなど大手がズラリ。そこに、東京大学が加わる。グローカルの登記をみると、当初の設立目的は『レストランの経営 居酒屋の経営』など、自然再生エネルギーとは全く関係のないものばかりだったが、2017年5月になって『大型風力発電機の製造、販売、設置及びメンテナンス浮体式洋上風力発電システムの製造、販売、設置及びメンテナンス風力等による発電及び電気の供給、販売に関する事業』といった内容に変更されていた。
つまり、前出・2016年の中国新聞のインタビュー記事が掲載された頃は、グローカルはまだ『レストランの経営 居酒屋の経営』などをやるの会社だったということになる。
現在の売上高は年間10億円で従業員数が40人。たった数年で、丸紅、日立造船などと共同事業を行う会社になっており、驚異的(不自然というべきか)というしかない。
■背景に麻生氏の力?
「麻生氏と奥原さんは、日本青年会議所(JC)時代からの付き合い。奥原さんが、麻生氏以外にも岸田前政調会長など、たくさんの議員を資金面でバックアップしていることは知られるところだ。破産して間もない人の会社が、国の資金が投じられる実証実験の参加企業に選ばれるというのは、普通はあり得ない。不自然?私もそう思うね。それが、麻生氏の力なのかどうかは知りません。だが、よほど大きな力が働いたと考えていいのではないか」(自民党のベテラン議員)
脅威的な復活劇を演じてきた奥原氏は、今年の元日、再度中国新聞のインタビューに応えて「売電事業を開始」「風車のメンテナンス事業も手掛ける」と語っていた。
その記事を読んだ前出の北九州市議の話。
「また北九州を舞台に金儲けするなら、前に踏み倒したアジア特殊製鋼の5億円をしっかり返してほしい」――うなずく市民は少なくあるまい。