那珂川市の「グリーンピアなかがわ」が臨時休園した本当の理由

福岡県那珂川市が、実際には施設利用に影響のない「新型コロナ」を理由に、市営の屋外レジャー施設「グリーンピアなかがわ」の一部を休園していることが関係者への取材で明らかとなった。」

市は「新型コロナの影響を受け、維持管理が困難」として9月1日から施設を臨時休園としているが、実際は市の直営となった今年4月以降、維持管理が行き届かず場内がイノシシ被害などで荒れ果てて、開放できない状態にあるという。

■園内に無数のイノシシ被害

長年、同施設の管理に携わっていた関係者は、愛着のあった園の悲惨な状態に「市が管理を怠っただけ。情けない」と唇を噛む。取材の過程で判明したのは、指定管理者の撤退と管理体制の不備、老朽化した施設の現状など多くの課題だ。民間の指定管理者から市の直営に切り替わって、わずか半年の間に何が起こったのか、取材した。

9月某日の園内。イノシシによって、えぐられたままの地面が痛々しく広がっている(下の写真)。イノシシがミミズなど小動物を捕食する際に、掘り返したものだ。「(指定管理者が常駐していた)今年3月末までには、ありえなかった」と関係者は憤る。

場所は、福岡市都心部から車で約1時間のところにある屋外レジャー施設「グリーンピアなかがわ」(那珂川市五ケ山・総面積約21ha)。開業したのは今から30年前で、数度の施設変更を経て、現在はバンガローや屋外バーベキュー場、水遊び場などを備えた「キャンプ村」と四季折々の植物を眺めながら散策できる自然公園「スキップ広場」で構成される。キャンプシーズンの週末には家族連れでにぎわう有名スポットだ。この中で、9月1日から臨時休園しているのは後者のスキップ広場。前掲の写真はその園内の芝生広場を撮影したものだ。

福岡県と佐賀県の県境、那珂川市の最南端に位置する五ケ山ダム周辺に昨年3月、キャンプやアウトドアスポーツなど複合型レジャースポットが「五ケ山クロス」としてオープンした。

那珂川町から市制(那珂川市)に移行したことを受けての目玉事業で、市がレジャー用品大手「モンベル」とタッグを組んだ事業として、注目を集めてきた。既設で実績のあるグリーンピアなかがわも、五ケ山クロスを構成する一施設として位置付けられており、市は来訪者の回遊性を高める有効な施設として利用を促していた――はずだったが……。

■業者撤退、今年4月から市の直営に

なぜ、これほどまでに園内が荒れてしまったのか――。取材過程で判明したのは、指定管理者の撤退と市による維持管理の限界だ。

今年3月末まで、長年、施設の維持管理や運営を手掛けていた福岡市内の指定管理業者が、採算が合わないことを理由に事実上の撤退。他に手を挙げる業者もおらず、今年4月から市の直営に切り替わった。

折しも4月は新型コロナの感染拡大が深刻化した時期で、4月から約2か月間、休園を余儀なくされる。ただし、休園しているとはいえ野生動物の活動や草木の成長を止めることはできない。風雨にもさらされるため、樹木の剪定、草刈りなど定期的な手入れは欠かせない。しかし、関係者の証言によれば、施設はなかば放置された状態だったという。市の担当者も、閉園中の維持管理について「職員による見回り程度だった」ことを認めている。

コロナが収まりつつあった7月に入園が再開されたが、人の寄り付かなかった園内にはイノシシが侵入し、荒らし放題。草木は伸び放題で、一部は枯れ果て見るも無残な状態となっていた。再開前、市から管理を委託された臨時職員が手入れを始めたが、前年度までの指定管理者による対応には程遠く、特に園内に侵入したイノシシ被害は深刻化するばかりだった。

窮状を見かねた臨時職員が一部の市議に相談。来訪した市議が荒れ放題の園内を確認し、市議会の委員会で複数名での視察が提案された。8月末、園内を視察した市議団が、一様に「開園できる状況ではない」と判断し同市地域づくり課との協議の上、休園を決めたという。

長年、公園の維持管理に携わってきたという男性は、「前年度までは、指定管理者が月に20日程度手入れしていたが、休園中は手付かず。再開後も半分以下の日数となり、数えるほどしか入っていない。公園の維持管理を甘く見た結果だ。こうなってしまったら、元に戻すのは何倍も手間がかかる。業者が見つからないなら、他に手段を講じるしかないはずだが……」と肩を落とす。

■施設再開阻む厳しい経営状況

ただ、那珂川市にも事情はある。収入源である有料キャンプ村の施設は老朽化し、利用者は減少傾向。加えてコロナの影響でさらに減収になることを考えれば、益々経営が厳しくなる。赤字覚悟で事業を引き受ける民間業者はいない。「これまでの指定管理者に引き続き業務を依頼したかったが……」という市担当者の話は、決して言い訳ではないようだ。

市は指定管理者への応募がなかったため、前の指定管理者に、植栽の管理業務に限って委託交渉したという。しかし、金額面が折り合わなかったため断念。やむなく市は、1年間限定で“市直営”に踏み切った。とはいえ、限られる市の予算と人員で、21haもの広大な自然公園を管理するのは到底不可能。直営となった時点で、こうなることは予測できていたはずだ。市有財産の管理義務という点では、最善を尽くしたとは言えないだろう。

市は公式ホームページで、休園理由を「新型コロナの影響を受け、維持管理が困難」と説明している。だが、述べてきたように、「管理体制が整わない」というのが実態だ。改めて休園理由について市の担当者に尋ねたところ、「コロナの影響もあるが、維持管理ができなくなってきたため。広大な敷地で手入れが行き届かなかった」と認め、再開については「民間事業者にヒアリングをして、今後の方向性を早期に示したい」と答えている。

休園からすでに1か月が経過しているが、市はいまだに民間業者へのヒアリングを行っておらず、再開のめどはたっていない。救いは、「完全閉鎖は今のところ、検討されていない」という再開に前向きな市側の姿勢。例年、12月から2月までは休園することになっており、その間に事業の立て直しが求められる。

(東城洋平)

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