フジテレビ問題で注目される日枝相談役の進退

元SMAPのタレント、中居正弘氏の事案で揺れるフジテレビ。今月17日に1度、釈明会見を行ったが、日本を代表する民放局にもかかわらず、テレビカメラでの撮影を禁じ、質問にも明確に答えないという姿勢に批判が集中した。2度目となった27日の会見には大手メディアはもちろん、フリーランスの記者やユーチューバ―まで出席を認めたことで400人を超す参加者。10時間半に及ぶ会見は、ルールを無視した人物たちから怒号が飛び交う異常なものとなった。

この中で何度も聞かれたのがフジテレビの「天皇」と呼ばれる日枝久相談役について。そのため、会見参加者が視聴者や読者を無視して、所属媒体のためだけに同じ質問を繰り返すという下らない展開となった。なぜ日枝氏に注目が集まるのか――。改めて、同氏の経歴等について振り返っておきたい。

◆   ◆   ◆

「日枝氏はなぜ記者会見に出ないのか」「日枝氏は中居氏の性加害事件に関与はあるのか」――会見で繰り返された質問だ。普通なら、相談役に過ぎない日枝氏が会見に出ることなどあり得ない。しかし、日枝氏の足跡を知るメディア係関者は、彼がフジテレビで絶対的な権力を有してきた人物であることを熟知している。日枝氏こそ、1度目の会見で露呈したフジテレビの傲慢な社風の礎を築いた人物だとみられており、中居事案への関わりを聞くのは当然だったといえるだろう。

フジテレビ関連会社幹部のA氏は「日枝さんは、現在もフジテレビや関連会社の人事権に対する影響力を持っている」と話す。だが、嘉納修治フジテレビ会長と港浩一フジテレビ社長の辞任は発表されたが、日枝氏の進退については何も分かっていない。

「嘉納会長、港氏社長など記者会見で壇上にあがった人みんなが、日枝さんの『おもしろくなければテレビじゃない』というキャッチフレーズに乗って出世したイエスマンばかり。怖くて日枝さんの進退なんて口にできません。日枝さんがすごいのは、社内どころか経済界そして、政界のトップにまで人脈を張り巡らしていることです」と前出のA氏は指摘する。確かに、日枝氏が「政治と近い」ことは有名だ。とりわけ、安倍晋三元首相とは特別な関係だった。

朝日新聞の「首相動静」をチェックしてみると、日枝氏が在任中の安倍元首相と面会しているのは少なくとも23回。うちゴルフを一緒に楽しんでいるのが7回あった。

2016年8月17日、安倍首相の夏休みと思われる朝日新聞の首相動静。

《【午前】6時53分、山梨県富士河口湖町のゴルフ場「富士桜カントリー倶楽部」。塩崎恭久厚生労働相、山本有二農林水産相、加藤勝信1億総活躍担当相、茂木敏充自民党政調会長、日枝久フジテレビ会長らとゴルフ》

《【午後】2時34分、同県鳴沢村の別荘。5時、小林優鳴沢村長。50分、同県山中湖村のホテルマウント富士。宴会場「メヌエット」で加藤1億総活躍担当相、岸信夫外務副大臣、日枝フジテレビ会長らと会食。昭恵夫人、母親の洋子さん同席。8時56分、別荘》

日枝氏は午前中、安倍首相や加藤勝信現財務相らとともにゴルフ。夜は、昭恵夫人や母親の洋子氏まで交えて会食をしている。

2019年8月16日の朝日新聞の首相動静。

《【午後】4時38分、東京・有楽町の東宝日比谷ビル。東宝本社で映画「記憶にございません!」の試写会に出席し、鑑賞。日枝久フジサンケイグループ代表、遠藤龍之介フジテレビ社長、東宝の市川南常務取締役、池田隆之取締役、北村滋内閣情報官同席。6時55分、映画監督の三谷幸喜氏と懇談。7時28分、自宅》

映画「記憶にございません!」は、フジテレビ開局60周年記念で制作された作品で、安倍首相は情報官まで引き連れて映画鑑賞をしていた。安倍政権時代に報道記者だったというB氏は次のように振り返る。

「安倍政権時代、総理から『おたくの代表、お元気ですか』などとよく声をかけられました。日枝さんが安倍元総理と近かった。『くれぐれもよろしく言っておいてくれ』という意味合いです。安倍さんに森友学園・加計学園問題の疑惑が浮上した時も、官邸のお偉いさんから『フジさんはお手柔らかに頼むよ。総理どころか昭恵夫人まで渦中の人となっているんだから』と頼まれたこともありましたね。だから、石破政権になってからの報道スタンスを比較すると、安倍政権の頃は緩かったと思います。天皇である日枝さんが安倍総理と親しいとなれば、当然、出世がかかっている報道幹部は自制します。安倍さん関連で出した原稿が『キツイんじゃないか』としてマイルドになったこともありましたね。やっぱりビビるでしょう。日枝さんの影が頭をよぎりますから。日枝さんが天皇と言われた背景には、安倍元総理と直接モノが言える関係があったとみていいでしょうね」

朝日新聞の首相動静によれば、日枝氏は他の首相とも面会している。安倍元首相の次に面会の回数が多かったのは岸田文雄前首相で5回。小泉純一郎元首相は4回となっている。だが、日枝氏が岸田氏や小泉氏とゴルフを楽しむことはなかったようで、1度も記録されていない。やはり安倍元首相との関係だけが特別なものだったと言えそうだ。

27日の記者会見に先駆けて開催された社員説明会でも日枝氏に対する厳しい批判の声が上がったという。「もうこの場で(日枝氏との関係を)終わりにしませんか。会長・社長、はっきり言ってくださいよ」「フジテレビの収益が目減りしていくだけです。もう少しといっている時間は1秒もない。この決断ができるのは代表取締役しかいない。日枝さんにも相談する必要はない」として、27日の記者会見までに日枝氏を退陣させるように求める社員さえいた。

だが、嘉納氏は「今回の問題については非常に重く、当然受けとめてます。経営責任があると正直思ってます」と語るばかりで、日枝氏については一切触れなかった。

「嘉納会長と港社長は自ら退任したが、日枝さんを一緒に辞めさせることができなかった。何をやってんだよ、どうせ辞めるんなら道連れにしろよと言いたい」(前出・B氏)

「天皇」日枝氏が居座る限り、フジテレビに未来はないのかもしれない。

 

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