鹿児島県教育界への警鐘(5)|「事故報告書」が示す腐敗の実情

鹿児島市内の公立小・中学校で起きた「重大事態」にあたる3件のいじめが、学校と教育委員会によって隠蔽されていた。ハンターが問題視したのは、いじめが認知された初動の段階において、学校の内部だけで処理し、教育委員会への報告を先送りしようとする教育現場の間違った姿勢だ。

前回の配信記事で述べた通り、福岡市では、いじめが認知された時点で学校が「事故報告書」を作成し、日を置かず市教委に提出するよう決められている。一方、鹿児島市では電話連絡で事を済ませたり、騒ぎが大きくなってから報告に及んだりと、デタラメな対応。両都市のいじめとの向き合い方には大きな違いがある。過去3年間以上、鹿児島市教委にはもちろん、県の教育委員会にも上がってきていないという「いじめの事故報告書」について、再検証した。

◇  ◇  ◇

いわゆる「学校管理規則」は、全国の都道府県・市町村で制定されており、鹿児島市には「鹿児島市立学校管理規則」がある。その中で、児童について重要と認められる事故(交通事故を除く)が発生したときは、児童生徒事故報告書(様式第27の1)をもつてすみやかに教育長に報告しなければならない》(59条)と定めており、「様式第27の1」というのが下の用紙だ。

 報じてきたように、福岡市ではいじめを「事故」とみなして報告書を作成するが、鹿児島市では立派な報告書の様式を定めながら、ほとんど活用されていなかったことが分かっている。ハンターが確認した平成29年から令和2年までの4年間で、鹿児島市教委に提出されたいじめの事故報告は0件。鹿児島市立学校管理規則が規定する『児童について重要と認められる事故』は、発生していないことになっていた。ところが……。

■いじめ認知から10か月後の「事故報告」

下は、今年6月25日に鹿児島市内にある公立中学校から市教委に提出された「児童生徒事故報告」。いじめが発生したのは「令和2年9月3日」、市教委への第一報は「12月2日」。この中学の校長は、いじめを超えた「暴行」を認知しながら、市教委への報告を3カ月間も怠っていたことになる。この日の記述から分かるように、学校側が市教委に連絡したのは、被害生徒の保護者が検査結果を持って「警察」に相談したからだ。なあなあで済ませるはずの事案が、刑事事件になりそうだと知って、あわてて取り繕った格好である。

 さらにお粗末なのは、この事故報告書の作成時期が、いじめの認知から10カ月も経った後だったこと。令和2年9月に発生したいじめなのに、報告書の日付は「令和3年6月25日」なのだ。ここ数年、1件もなかった事故報告書が提出されたわけだが、どうやらこれは、学校がいじめと向き合わなかった証しでしかない。

実は、この報告書に記されたいじめこそ、本シリーズの被害者家族インタビューで、いじめの実態や学校・市教委への思いを訴えた「Cさん」のお子さんの事案。いじめと言うより、下記のように暴行傷害として立件されるべき酷い行為だったことが明らかとなっている。
・首を吊り上げた形で絞める。
・お姫様抱っこして3階の教室から落とそうとする。
・両手で頭を押させて扉に打ち付ける。
・高所恐怖症を知った上での肩車。
・死ね、殺すぞ、きもい、消えろ、臭いといった言葉の暴力――これが日常的に繰り返されていたにもかかわらず、学校も市教委も毅然とした対応を示していなかった。その結果、Cさんの子供は、県外の学校への緊急避難的な転校を余儀なくされている。

10カ月も経って事故報告書が提出されたのは、今年5月に伊敷中学校でいじめの重大事態が隠蔽されていたことを知ったCさんが、市教委に対し個人情報開示請求を行って真相究明に乗り出したからに他ならない。上掲の報告書は、あわてた学校と市教委が、「学校管理規則を守った」という形だけ整えようとした証拠でもある。

事故の[種別]は「いじめ(暴力行為)」、[程度]には「頸部痛、眼底出血、PTSD」とあり、刑事事件にすべき事案であったことがうかがえる。この事案が、なぜ「重大事態」にもならず、報道されるまで表面化しなかったのか?

次に示した横長の文書は、「いじめの実態報告」に記載されたCさんの子供の事案。何度も指摘してきた《いじめの現在の状況》についての記入欄には、
・ア いじめが解消しているもの
・イ 一定の解消が図られたが、継続支援中
・ウ 解消に向けて取組中
・エ 他校への転学、退学等
のなかの「ア(いじめが解消しているもの)」が記入されていた。

 暴行が止まず緊急避難的に県外の学校に通うことになったというのに、「いじめが解消」――。報じてきたすべての「重大事態」と同じように、学校と市教委がグルになって事実上の隠蔽が行われ、いじめの被害あった子供と保護者に、二重三重の苦痛を与えていた。

早い段階での「事故報告」を義務付けている福岡市で、いじめの重大事態が隠蔽されていない事実と突き合せれば、鹿児島教育界の腐敗の度合いがわかろうというものだ。鹿児島市教委はもちろん、県内すべての教育委員会の仕事の内容やいじめの実態、さらには教育マフィアによる庇い合いを調査し、「子供のための教育行政」を実現するよう、関係者が話し合いを始めるべきだ。ハッキリ言うが、これは「政治」の責任である。

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