鹿児島県教育界への警鐘(4)|福岡市との違いが示す「いじめ重大事態」隠蔽の背景

鹿児島市内の公立小・中学校に通っていた3人の子供たちが、いじめ防止対策推進法が規定した「重大事態」にあたるいじめを受け、転校や通学校区の変更を余儀なくされていた。しかし、残されていたのは「いじめは解消」という虚偽の記録。いじめ被害にあった子供たちや保護者を切り捨てて保身を図っていたのは、学校と教育委員会だった。何故こうした事態が起きたのか、改めて背景をさぐった。

◇  ◇  ◇

ハンターは今年3月、鹿児島市教育委員会に対し、2018年度(平成30年度)から2020年度(令和2年度)までの3年間に、市内の小・中学校から提出された「いじめの事故報告書」と、それぞれの事案に対する市教委の対応が分かる文書を開示請求した。市内の小中学校で起きた「いじめ」の内容と件数を確認するための作業だったが、市教委は当初、「校長の公印が捺してある事故報告書はない」などと詭弁を弄し、不開示を決定する。姑息な隠蔽だったことは確かで、その後の追及によって公立の小・中学校が市教委に提出する「いじめの実態調査」というA3版の報告文書が存在することが明らかとなる。(*下が「いじめの実態調査」)

 市教委がこの報告文書の存在を隠そうとした理由は一つ。いじめの重大事態が何件もあったことを、知られたくなかったからだ。事実、この文書の存在を確認したいじめ被害者の保護者は、個々に「個人情報開示請求」に踏み切り、記録文書の嘘やでっち上げが次々と暴かれることになる。その結果が、今年になっていきなり表面化した3件もの「重大事態」である。

あわてた市教委は、第三者委員会を設置してそれぞれのいじめの検証をスタートさせたが、初動で「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」を無視した対応に終始していたため、真相究明が実現するか否かは不透明な状況だ。

■福岡市―いじめ認知で「事故報告書」

いじめが起きた場合、初動で学校側が間違った対応をとると、収まるはずのいじめがエスカレートし、小さトラブルから「重大事態」にまで発展するケースが少なくない。鹿児島市の場合、いずれの重大事態も、いじめが起きたことを市教委への口頭報告で済ませ、記録文書の作成が後回しになっていたことが分かっている。学校側と市教委の関係に緊張観はまったく感じられず、まさに“なあなあ”という言葉があてはまる現状だ。

じつは、鹿児島市教委に限らず、同県の教育界全体のいじめ対応は、まるでなっていない。そもそも県教委に、過去3年間に県内の公立小・中学校で起きたいじめの重大事態が、1件も報告されていないということ自体が論外。あり得ないことだ。県のある教育関係者は「市町村レベルで(重大事態の認定が)止まっている」と断言する。いじめの隠蔽が報道されたとたん、鹿児島市で3件もの重大事態が認定されたことこそ、その証左だ。他都市と比較すれば、鹿児島県教育界の怠慢は一層明確になる。

福岡市教育委員会への情報公開請求を通じて確認したところ、2018年度(平成30年度)から2020年度(令和2年度)までの3年間に、市内の公立小・中学校で起きた「いじめの重大事態」は疑いも含めて6件。鹿児島県全体で、5年も6年も重大事態が1件も発生しなかったという話が、いかに現実味のないものか分かる。では、いじめの実態を隠蔽し続けてきた鹿児島市と福岡市の違いはどこにあるのか――?ハンターは、鹿児島市教委への最初の情報公開請求でこだわった「いじめの事故報告書」(*下の画像参照)の取り扱いにあるとみている。

 福岡市教委への情報公開請求で入手した、市内の公立小・中学校で起きたいじめについての事故報告は、2018年度(平成30年度)から2020年度(令和2年度)までの3年間で95件。1件ごとに、いじめが認知された時点からの出来事が、時系列に沿って詳しく記されている。福岡市では従来から、いじめを「事故」として扱っており、この点が鹿児島と大きく違うところだ。いじめと真剣に向き合う福岡市、形だけの処理で済まそうとする鹿児島市――どちらがまともか、考えるまでもない。

しかも福岡市では、いじめが確認された場合、時間を置かずに市教委に「事故報告」が提出される決まりとなっており、後になって被害者側と学校側が事実関係を巡って争うことがないように工夫されている。事故報告をみれば、学校側の対応がハッキリわかるということだ。

一方、初動の記録や「事故報告書」の作成が義務付けられていない鹿児島では、平気でいじめ対応の真相が捻じ曲げられる。下の文書は、令和元年に鹿児島市立伊敷中学校で起きたいじめに関し、市教委が第三者委員会などに提出するため作成した“後付け”の資料。①令和元年11月12日に、加害生徒の保護者は、担任にいじめについて相談した。その際、加害生徒への個別指導を行わないよう要望した』。『担任は、学級への全体指導を行った。(指導状況を被害生徒の保護者へ報告した)という記述や、校長は保護者に電話をした。保護者からは、教師からの声掛けがプレッシャーとなっているとのことであったという記述が、捏造であったことが分かっている。

■福岡では明確な「被害者」と「加害者」

福岡と鹿児島の最大の違いは、福岡市の事故報告書で明らかなように、「被害者」と「加害者」が明確に区別されていることだろう。これは初動の段階でいじめの実態をしっかりと掴まなければできない。そこに“曖昧さ”はなく、「悪いことは悪い」という最も大切なことを教えようとする教育関係者の覚悟がみてとれる。これに対し、鹿児島市教委に残された記録文書から見えてくるのは、実態をごまかしたり、平気で虚偽を書き連ねる“歪んだ教育者”の姿である。

歪んだ教育者たちが何をやっているのか――。さらに詳しく個々の事例を検証してみたい。

(つづく)

 

 

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