自民党が、戦前の予想をくつがえし、絶対安定多数となる261議席を獲得して衆院選に勝利した。
しかし、解散前の276議席から減ったのは確かで、日本維新の会が躍進した大阪の小選挙区は全敗という衝撃的な結果。甘利明幹事長や石原伸晃元幹事長、若宮健嗣万博担当相といった大物が敗れた結果に、「数はクリアして安堵という感じですが、相次いだ大物の落選で微妙なムードが漂っている、次(の総選挙)も勝てるという保証はない」(自民党幹部)などと懸念を示す声も上がっている。
■福岡、熊本で元大臣落選
九州でも、福岡5区で当選8回の元環境相・原田義昭氏が立憲民主党の堤かなめ氏に約1万5千票もの差をつけられて落選。公示直前まで栗原渉元県議会議長との公認争いが続き、党本部の裁定で「公認は原田、支部長は栗原」と決まったものの、自民党の支持層をまとめきることはできなかった。
ある地元県議が、苦々しげにこう話す。
「県議、市議の多くが栗原さんについていた。終盤になって原田氏側から『自民党として協力を』とお願いがあったが、反応はなかった。党本部の裁定で、次の衆院選では栗原さんが公認。原田氏が勝っていたら、『また、続ける』と言い出しかねなかった。正直、負けてくれてほっとしている面はある。7つの地域支部のうち5つの支部が押し、医師会や農政連の推薦も決まっていた栗原さんを、恫喝して降ろしたのは党本部。敗戦の責任は、党本部にありますよ。もっとも、責任者の幹事長が小選挙区で落選して辞任しているのだから、話になりませんが……」
福岡10区では、立民の城井崇氏が元地方創生担当相で当選8回の山本幸三氏に小選挙区で初勝利。その差4,000票ほどいう接戦で、当選確実が打たれたのは深夜だった。
「城井氏は前回の比例復活当選から、毎週地元に戻り山本氏の支援団体などにも足を運び、切り崩しを図っていた。選挙前に立民が共産党と話しをつけたことで野党共闘となって、山本さんは苦しくなっていた。勢いに乗る若い城井氏には勝てなかったということでしょう。世代交代。自民党としては、山本さんの次の候補を考えなければならない」(地元の市議)
2014年、2017年と、福岡県内にある11の小選挙区はすべて自民党が勝利していた。だが、今回は5区と10区が立民、9区は野党系無所属の緒方林太郎氏が、当選8回の自民党・三原朝彦氏を下しており、野党側は3つの小選挙区で議席を奪ったことになる。ここでも、三原氏に代わる候補の発掘が急がれることになりそうだ。
熊本2区でも大物が落選している。議席を失ったのは、元自治相で当選16回を誇る野田毅氏。無所属の新人、西野太亮氏に5万票もの差をつけられ惨敗を喫した。野田氏を長く応援してきた自民党の県議が、残念そうに本音を語る。
「もう80歳という高齢だが、野田氏先生の姿勢は20年以上前から変わらず、『バッジをつけたまま死ぬ』って感じのことまで言っていた。正直、ドン引きでした。引き際がわからなかったのでしょうね。次の総選挙は、若い候補で戦わなければ勝てない」
■踏みとどまった新・旧大臣
一方、情勢調査などで危機が報じられていた長崎4区の北村誠吾元地方創生相は立民の末次誠一氏を400票差で下した。北村氏は、大臣交代時に「47都道府県回って相当ホラ吹いてきた」という発言が炎上。選挙前には、問題ばかりの北村氏を嫌った党県連が瀬川光之県議の公認を求めるなど大混乱していた。地元の事情通が、次のように振り返る。
「ほら吹き発言に加え、公認争いで陣営はなかなかまとまらなかった。それでも市議選並みのどぶ板に北村氏が徹したことで、なんとか勝てた。それと大臣時代はカツラだった北村氏。『頭を丸めて戦います』とカツラをやめたことが、なぜか最後には好感を呼び、辛くも逃げ切った。だが、もう次はない。誰が次の候補者になるのか、水面下で激しい争いが始まっています」
沖縄4区でも、立民新人の金城徹氏に詰め寄られた現職の西銘恒三郎沖縄・北方相が、最後はかわして小選挙区での当選を決めている。
■世襲でも勝てない時代に
四国も混乱した。「カミソリ後藤田」といわれた後藤田正晴元官房長官を大叔父に持つ徳島1区の後藤田正純氏や、香川1区から出馬した政治家3世の平井卓也初代デジタル大臣は小選挙区で敗北。二人の世襲政治家が、比例復活でかろうじてバッジを拾った形だ。
前出の自民党幹部は、危機感を隠さない。
「大臣経験者である原田義昭さんや山本幸三さん、野田毅さんが負け、麻生副総理もこれまでような圧倒的な勝利とはいかなかった。絶対的な強さを誇ってきた小沢一郎さんや中村喜四郎さんも小選挙区では落選。世代交代の波がきていると思うね。世襲にも厳しい目が向けられるようになった。いわゆる地盤・看板・鞄があるからと、安易に後を継がせる時代ではない。これからは、質のいい候補者の発掘に務めなければ自民党だって危ない」
自民党幹部の言葉通り、投票締め切りと同時に当確が出たが、福岡8区で14回目の当選を目指した麻生太郎副総裁が獲得したのは約10万5千票。これに対し、共産党とれいわ新選組の2人の候補者が得た票は7万票。野党共闘で一本化していれば、その差はさらに縮まっていたとみられる。