情報公開に後ろ向きの役所は少なくないが、これほど分かりやすく、しかも悪質な「隠蔽」の例はほとんど記憶にない。
鹿児島市教育委員会が、他の自治体では何の問題もなく開示される「いじめに関する報告書」の開示請求に対し、請求したハンターの記者が求めていない条件を勝手に付け足して「不存在」をでっち上げ、事実上の開示拒否に走った。
■請求内容を改竄した市教委
ハンターが開示請求したのは、平成30年度から令和2年度までの3年間に、市内の小・中学校から提出された「いじめ」の報告書と、それぞれの事案に対する市教委の対応が分かる文書。市内の小中学校で起きた「いじめ」の内容と件数を確認するための作業だった。
これに対して市教委は先月31日、記者に連絡を寄こし請求内容を確認。その中で、「校長の公印が捺してある正式なものですよね」と申し向けてきたため、記者は“はいはい、いわゆるいじめの報告書ですよ”と答えていた。この際、「いじめの報告書、あるんですよね」との記者の確認に対し、市教委の担当は「あります」と明言している。
丁寧な対応だとばかり思っていた記者が、腰を抜かしそうになったのは今月8日のこと。市教委から発送されてきた6日付けの文書は、「公文書不開示決定通知書」だった(下、参照)。
文書不開示の理由は、「校長が押印し、市に提出された当該事故報告書は、存在しないため」。電話連絡で市教委が「あります」と答えたいじめの報告書が、1週間で無くなった形だ。
そもそも、開示請求には「校長の公印」などという文言はどこにも入れておらず、開示請求直後に内容確認の連絡をしてきた市教委側が、記者とのやり取りの中で一方的に持ち出してきたもの。しかも、親切に文書の形式まで教えてくれた格好の話しぶりだったことから、「校長の公印」という一語が請求文書の特定に悪用されるなどとは、これっぽっちも考えていなかった。これは明らかな『不存在のでっち上げ』、請求内容の改竄である。“いんねん”をつけられたハンターとしては、絶対に容認できる話ではない。市教委に猛抗議した。
それまでの経緯について何度もやり取りし、決定を取り消すように申し入れたが、市教委は「校長の公印」に加え「事故報告書」の「事故」という文言が入った文書はないなどと、詐欺師ばりの言い訳で自分たちの主張を崩そうとしない。記者は、3月末の段階で、わざわざ「いわゆるいじめの報告書」と説明していることを言い聞かせても、決定の散り消しに応じようともしない。結局、開示請求書を出し直さなければ、調査が前に進まないという状況になった。
当初の請求は3月24日で、そこから既に3週間ほど経っている。文書不存在という、本来なら1日で結論が出ていた話を2週間も引っ張った上、わざとゴタゴタを起こして何日も放置し、さらに時間を無駄にさせる――。再請求でさらにまた何週間かかけるというのだから、開いた口が塞がらない。
情報公開制度や教育行政を信用している市民なら、おそらく文書不存在を受け入れたことだろう。鹿児島市教委の隠蔽の手口は巧妙で、他の自治体のケースを知らなければ、おそらく簡単に騙されていたはずだ。だが、いじめの報告書は市教委の中に確かに存在している。なければ、鹿児島市の教育現場は、いじめを放置してきたことになる。そんなバカな話はあるまい。
何を隠しているのか分からないが、開示請求を不当に拒もうとしたのは事実。時間の無駄を避けるため、12日付けで再度開示請求を行ったが、こうなると本当にまともな情報開示が行われるとは思えない。
■実はあった「児童生徒事故報告書」
ちなみに、福岡市の場合は「福岡市小・中学校管理規定」が定められており、《児童生徒の傷害若しくは死亡又は集団的疾病等の事故が発生した場合は、校長は、直ちにその概況を教育委員会に連絡し、後日文書をもつて次の事項を報告しなければならない》と規定。事故発生の場所、学年及び児童生徒の氏名又はその数、事故の内容、事故に対する応急処置を、文書で報告するよう義務付けている。下は、過去に福岡市内の学校が提出した報告書の一例である。「いじめ」は、きちんと「事故」として扱われている。
一方、鹿児島市にも同様の「鹿児島市立学校管理規則」があり、《児童について重要と認められる事故(交通事故を除く。)が発生したときは、児童生徒事故報告書(様式第27の1)をもつてすみやかに教育長に報告しなければならない》(59条)と定めていた。「様式第27の1」というのが下。「児童生徒事故報告書」となっている。
福岡市の教育委員会は、「いじめ」を学校内の重大な事故ととらえ、各校から詳細な報告書を提出させている。鹿児島市教委が「事故報告書はない」という主張を改めないということは、つまり「いじめは事故ではない」という考え方に立っているからに他ならない。その結果、教育現場で何が起きているのか――。市教委は、覚悟を決めて事にあたることだ。