「なんでわいらにはクッキーをくれないんや。カネ出せば特別なクッキーがもらえるのかな?」と話すのは、和歌山県のある地方議員Aさん。ターゲットになっているのは、前参院幹事長で安倍派5人衆の一人、世耕弘成参議院議員だ。
■高級鉄板焼きと1年待ちの「クッキー缶」
裏金事件で派閥から約1,500万円をキックバックされていたことが分かった世耕氏は、自身の政治団体「紀成会」の政治資金収支報告書を訂正すると言いながら、やっと提出されたのは2月29日。2020年に360万円、2021年に476万円の収入があったとして報告書を訂正した。
そこを鋭く追及したのが、共産党機関紙の赤旗。3月10日・17日号で、世耕氏が、毎年「紀成会」に多額の寄附を続けている木材関連会社(和歌山市)を経営するM氏と会食し、食事代金は支払わずクッキーを贈っていたと報道した。
M氏は、「紀成会」の政治資金収支報告書が確認可能な2013年から2022年にかけて、708万円を献金していた世耕氏の“スポンサー”の一人だ。M氏のブログを見ると、2023年11月30日に《彼が未来に見据えるものは》という見出しでこう書かれている。
《先日、世耕弘成参議院議員と夕食を共にしました。場所は帝国ホテルの鉄板焼『嘉門』。5人で座れる個室カウンターに二人きり。居心地が良いのやら悪いのやらとおそらくお互いに思いながら、まずはハイボールで乾杯です》――高級鉄板焼店で食事をともにしたというのだが、支払いがM氏なら、M氏からの寄附ということになる。
《私は世耕さんからもらった『村上開新堂』のクッキー缶を片手に銀座のクラブに立ち寄りました。「一緒に食べよか。」私のことばに、ホステスのみんなからは今まで聞いたことのないような歓声が。不思議がる私に彼女たちは「このクッキー缶、予約で1年待ちはざらなんですよ。」と教えてくれたのでした。クッキー缶のおかげで今夜はヒーロー。世耕先生、ありがとう》――クッキー缶一つとはいえ、場合によっては立派な買収行為だろう。世耕氏もM氏も脇が甘い。(*下はM氏のブログの画像)
「紀成会」の2021年分政治資金収支報告書では、収入に加えて支出も訂正があった。「贈答品代」として「村上開新堂」への支出6件、126,000円を新たに計上。2022年の政治資金収支報告書でも同様に12件、252,000円の訂正があった。世耕氏は村上開進堂の菓子を送るのが好きらしい。
村上開進堂のホームページによると、《村上開新堂は明治7年創業の洋菓子専門店です。歴代の当主が様々な創意や工夫を重ね140年、手作りにこだわり、常にお客様が喜んで頂ける菓子作りに取り組んでおります》とあり、洋菓子の老舗であることがわかる。
世耕氏がプレゼントしたクッキー缶は、8,000円相当とみられるが、M氏のブログにある通り、村上開新堂のクッキー缶は「予約1年待ち」というほど人気があるという。SNS上にも《一見さんお断り、会員のみに販売。予約して10か月でようやく手に入れました》、《幻のクッキー、手土産の最高峰》といった書き込みが多数ある。ネットでは8,000円相当のクッキー缶が1万5千円以上で転売されているケースもあった。
木材関連会社の法人登記を確認すると、M氏は和歌山県内在住。世耕氏の選挙区は和歌山県全体なので、前述のように同氏からM氏へのクッキー缶は選挙区内の寄附となり、公職選挙法にも問われかねない。
《彼が3選出馬する際、和歌山木材協同組合理事長として推薦状をお渡ししてからのお付き合い》――M氏のブログにはそう書いてあり、推薦状の見返りとしてプレミアのつくクッキー缶を渡したことも考えられる。
クッキー缶が私的な会食費の返礼なら、政治活動とは関係ない。私的な支出を政治資金から拠出していることも問題だろう。それにしても、世耕氏が大人気のクッキー缶を大量購入できるのは何故なのか?
■過激露出のダンスショーと口移しチップ、企画したのは世耕氏の元秘書
3月8日、世耕氏は赤旗の報道に対して国会内でこう答えた。「こちら側から(会食費の)応分の負担をお願いしたが、固辞をされたものですから、せめても一部の負担と、(クッキー缶)をお渡しをした。いわゆる公選法が禁じる寄附には当たらないというふうに思っております」――だが、帝国ホテルの高級鉄板焼店での会食が1人8,000円で収まるわけがないのは誰の目にも明らか。同じ日、世耕氏にはさらなる“ケチ”がついた。
産経新聞が《自民党青年局近畿ブロック会議後の会合で過激ダンスショー 口移しでチップ渡す姿も 費用は党が支出》と報道。会合や「過激ダンスショー」を運営、企画したのは、世耕氏の元秘書である川畑哲哉県議だった。(*参照⇒川畑氏のHP)
会合に参加していた自民党の青年局長、藤原崇衆議院議員と青年局長代理の中曽根康隆衆議院議員の2人は、報道当日に辞任を発表。前出の地方議員は苦々しげにこう語る。
「M氏のようなカネをたんまりくれるタニマチとは帝国ホテルで会食し、お礼にクッキー缶。世耕は、わいらのような地方議員は相手にしない。ようはカネ次第で対応が変わるちゅうこと。1年待ちのクッキー缶が、世耕のような偉い人は1年間に何十も買えて、タニマチにばらまく。世耕の元秘書の側近は、自民党のカネで裸に近い女性を呼んで大騒ぎ。世耕とはそういう人なんだと改めて思い知らされた」
裏金事件で追及を受ける世耕氏は、参議院で開催予定の政治倫理審査会へ出席する意向だという。ある自民党の参議院議員
「岸田総理は今後、裏金議員に対して何らかの処分をする予定だ。党役員などに復帰するためには、説明責任が求められるはずで、世耕さんも政倫審に出て話さないと“今後はない”というところまで追い込まれている。ここで、鉄板焼きクッキー缶疑惑で公選法違反に問われかねない事態になるとますます先がなくなる。政倫審で弁明しても、疑惑は晴れないだろう。これまで参院幹事長として肩で風切り、安倍派が解散した後、派内の参議院議員を束ねて世耕派を結成といわんばかりの勢いだった。しかし、クッキー缶疑惑で一気にトーンダウン。党内ではクッキー世耕と笑いのネタだ」
その世耕氏は2010年、X(旧ツイッター)に《各国会議員のツイートを読んでいると面白いですね。それぞれ公選法に引っかからないように工夫しながら書いています。中には完全にアウトじゃないかと思われるものもあります》と投稿していた(*下の画像参照)。他人のことを心配しながらも「アウト」となるのは、世耕氏自身のことだろう。