弁護士会が北海道警察に抗議|取り調べ同席認めないのは違法

札幌弁護士会(佐藤昭彦会長、821人登録)は8月17日、地元の北海道警察に抗議を寄せ、刑事事件で容疑者の取り調べに弁護士の立ち会いを認めるよう申し入れた。同趣旨の申し入れは昨年12月にも行なっていたが、これを受けた道警が各警察署に通達を出し、立ち会いを認めないよう指示していたことがわかったため、弁護士会は同通達の違法性を指摘して撤回を求めた。

◇   ◇   ◇

札幌弁護士会(以下、札弁)は昨年11月、全国で初めて弁護士の取り調べ立ち会いを支援する制度を導入。立ち会いに取り組んだ弁護士に一定の費用を支給する取り組みを始めた。併せて立ち会い権の明文化を目指し、同12月には道警と札幌地方検察庁に取り調べへの弁護士同席を認めるよう申し入れを寄せている。札弁によると、ここ2年ほどの間に弁護士の立ち会いが認められたケースは全国で30件ほどあるものの、ほとんどの事件で「捜査への支障」などを理由に同席を拒否されているのが実情という。

申し入れを受けた道警が各警察署に対し「立ち会いは認めないこと」と指示する通達を発したのは、申し入れ直後の12月下旬のこと。今年に入ってから地元紙・北海道新聞が公文書開示請求で同通達を入手し、その内容を報道したことで、事実が明るみに出た。同記事を受けて筆者が入手した刑事部長通達によると、道警は弁護士の取り調べ同席を認めないのみならず「取調室近くにおける待機」も認めないこととしており、徹底して容疑者と弁護人とを遠ざけようとしていることがわかる。

この通達が弁護士などの間で問題とされたのは、公安委員会の規則や警察庁の指導などと矛盾しているため。国家公安委員会が定める「犯罪捜査規範」には、次のような条文がある。

取調べを行うに当たつて弁護人その他適当と認められる者を立ち会わせたときは、その供述調書に立会人の署名押印を求めなければならない》(同180条2項)

第三者の立ち会いを認めることを前提とした文言。それもそのはずで、そもそも日本には取り調べへの弁護士同席を禁じるルールが存在しないのだ。

さらに、中央の警察庁が昨年5月に各都道府県警などへ発した「指導連絡」には、こうある。

警察署に対して、弁護人等から立会いの申出等があった場合には、警察署独自で判断させることなく、警察本部への報告を求め、組織的に対応するよう徹底されたい》

一読してわかる通り、決して弁護士同席を一律に否定する内容ではない。

昨年暮れの道警通達はこれらの原則をおよそ顧みず、問答無用で弁護士立ち会いを拒むものだった。先の道新報道でこうした道警の姿勢を知るに及んだ弁護士会は、本年8月17日付の『抗議書兼要求書』で通達の違法性を指摘、強く撤回を迫ることになる。

取調室という密室において、法律の素人である被疑者が、強大な権限を有する取調べのプロたる警察官からの取調べを一人で受ける場面にあっては、得てして被疑者の黙秘権を中心とした供述の自由が確保されず、時に虚偽の自白を生み、ひいては冤罪事件発生の温床となる。このことは、我が国の刑事司法の歴史をみても公知の事実である

申し入れに併せ、札弁は同日付で会長声明を発表。取り調べへの立ち会いが法令上禁じられていないことを改めて指摘し、道警の通達は容疑者の権利を不当に制限する違法・違憲なものであると訴えた。

さらに申し入れ翌日の同18日には会員らを対象に研修会を開き、約90人の弁護士が立ち会い実践を促す講義に耳を傾けた。講師を務めた日弁連取調べ立ち会い実現委員会委員長の川上有弁護士(札幌)は、先の道警通達の影響で取調室の近くに待機する「準立ち会い」さえ認められなくなった事態を報告、こうした警察の姿勢を「許し難い」と批判した。

同弁護士はこれまで2回ほど立ち会いを認められた実績があるといい、弁護士の取り調べ同席は「被疑者の供述の自由を確保する手段の1つ」と説明、積極的に警察や検察と交渉を進めていくよう参加者らに呼びかけた。

同じく講師として登壇した大阪弁護士会の川﨑拓也弁護士は、かつて米国に留学した際の体験を引き「被疑者の長期拘束、検察官控訴、取り調べ立ち会い不可。この3つは日本司法の『三大びっくり』と呼ばれている」と報告、弁護士が容疑者の眼の前で立ち会いを強く求めるだけでも容疑者に心の余裕ができると訴えた。

札幌弁護士会は本年9月から11月までの3カ月間にわたって「取り調べ立ち会い推進運動」を実施。立ち会いや準立ち会いを実現した弁護士に費用を支給するほか、同席を申し入れた結果の報告を広く募り、捜査機関との積極的な交渉を促していくとしている。同会は先の抗議書で、立ち会い不可の理由や適法性について道警に質問を寄せているが、現時点で道警からの回答は届いていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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