公務員の立場にありながら入札を偽装し、考えつく限りの文書偽造に走った「兵庫県立淡路医療センター」の職員たち。組織ぐるみで犯行に及んだのは、主に同病院の「経理課」だった。事件発覚後に兵庫県に対して行った2度目の情報公開請求で入手した未公表文書から新たな「偽造公文書」の存在が明らかになるなど、幼稚で粗い手口が浮き彫りとなった。
■どうみても「パソコン購入ありき」
ノートパソコン30台の不正調達や文書偽造が発覚した3月、ハンターは兵庫県に対し、改めて本件に関するすべての文書を開示するよう求めた。隠された文書があることが分かっていたからだ。この結果、開示された文書は24枚。これまでの経緯から考えて記載内容に疑義が生じるものがあるのは言うまでもないが、新たな「偽造公文書」が複数枚あることも分かった。
まず、淡路医療センターの不正について調査している兵庫県が公表した資料に基づき、ハンターが作成した時系列の表を再掲しておきたい。
不正の発端となった“パソコンの調達”を依頼したのは淡路医療センター総務課。同課が経理課に向けて発出したとされる「請求伝票」が残されていた(*下、参照。以下、文書中の赤い書き込みはハンター編集部)。
ただし、作成日が本当に「令和2年12月18日」であったのかどうかは疑わしい。記入された日付のうち、「18日」の「8」はどう見ても「2」を書き変えたもの。不正調達、入札偽装、虚偽公文書作成と犯罪行為を続ける中、慌てて隠蔽工作を進めていた証左とみるべきだろう。
怪しいのは文書の作成日付だけではない。パソコンの「購入理由」の欄には、「オンライン会議の推奨のため」とある。これまでの県の説明では《看護部全体で参加するオンライン会議で使用するパソコンなど30台のパソコンの調達が必要となったため総務課は、オンライン会議が開催される1月15日頃までに納品となるよう経理課に依頼》――つまり、コロナ禍を受けての緊急調達だったとされていたが、この請求伝票からはそうした「緊急性」は伝わってこない。
調達期限についても「1月15日」という日付は請求伝票のどこにも記されておらず、関係者の誰かが、苦し紛れに虚偽の説明を行っているとしか思えない。そもそも、調達依頼の段階で特定の機種を指定するのは不自然。「パソコン購入ありき」だった可能性が、否定できないということだ。
■次々に破綻する医療センターの主張
県が公表した経過説明の記述は、淡路医療センター職員から聞き取った内容に基づくものだ。中間報告的なものであることは、県も認めている。それにしても、記載内容に疑問が多いことは報じてきた通りで、今回の文書開示で別の「嘘」や誰も信じないであろう「言い訳」も明らかになった。
県の公表した経過説明(下、参照)の中にある、「(2)事務手続きについて」のR3.1.18の、赤いアンダーラインで示した記述だ。『総額が記載された納品書』とある。
納品書の金額を見て経理課長が160万円以上とされる入札が必要な案件だと気付いたが、納品済みだったため、事後ではあったが入札を偽装した――これがセンター経理課の主張だ。しかし、今回の分も含めて、開示された文書の中には該当する納品書はない。
この点について県に確認したところ、経過説明にある「納品書」が実は「最終見積書」の間違いで、淡路医療センターの職員は、その最終見積書を「廃棄した」と説明しているのだという。子供にも笑われそうな、お粗末極まりない話になった。
■まだあった偽造公文書
次は、今回開示された新たな「虚偽公文書」である。下は、淡路医療委センターが入札を偽装するにあたって指名した5社のうち、入札に応じた2社の「入札書」(*3社は辞退)。左が、淡路医療センターの職員から「落札業者が決まっているので、予定価格以上で応札して下さい。でなければ、今後は貴社から何も購入しません」と脅された業者が泣く泣く郵送した入札書で、右が不正調達と入札偽装を承知の上でセンターの隠蔽工作に手を貸したパソコン専門業者の入札書である。
一見して分かるように、不正に絡んだパソコン専門業者の入札書(右の画像)に記された数字はすべて印字されたもの。一方、センターから脅されて茶番劇に付き合わされた業者の入札書は手書きになっている。
手書きになったのには理由がある。淡路医療センターから送付された入札書や辞退届などはすべてPDFに納められたもの。業者側は、手書きするしかなかった。特に日付については、入札について通知した淡路医療センターの職員が、送信したメールの中で「日付は空欄でお願いします」と指示していた。(下が問題のメール。赤いアンダーラインと黒塗りはハンター編集部)
ちなみに、今回開示された別の3社の「入札辞退書」も、日付はすべて手書き。一連の書類に日付を書き入れたのは淡路医療センターの職員で、筆跡はすべて同一人物のものだった。
では、不正に絡んだパソコン専門業者の入札書に記された数字を印字したのは誰か――。もちろん、淡路医療センターの職員だ。県の調査で、担当職員が当該入札書を作成し、社判だけ捺せばいいいような形にしてパソコン業者にわたしていたことが分かっている。つまり、上掲右側のパソコン業者の入札書も「偽造」されたものなのである。
入札をでっち上げるにあたって、その「決裁書」も偽造されていた。下が現物のコピーだ。
正確さは担保されていないものの、県が公表した記録によれば、淡路医療センターの総務課が経理課に対してパソコン調達を依頼したのは令和2年12月18日。しかし、上の入札実施の決裁書では起案・決済が12月7日となっている。県の説明によれば、嘘の入札実施日を「令和2年12月18日」としていたことから、(辻褄合わせのために)遡って「12月7日」付けの決裁文書を作成していたのだという。つまり、この決裁書も偽造公文書。淡路医療センターの内部では、犯罪行為が常態化していたことになる。
入札関係のメールに随意契約の決裁、さらには業者の入札書や入札決済――。公文書偽造がどこまで広がるのか分からないが、別の調達で同様のことが行われていた可能性を疑うべきだろう。
県は近日中に調査結果をまとめ、処分の内容も含めて公表すると話している。