田川市、大任町の選挙結果が示す暴力支配の限界|揺らぐ永原体制

先月23日、福岡県田川市の市長選挙で3選を目指した現職の二場公人氏が敗れ、「開かれた市政」への転換を訴えた村上卓哉元市議が初当選を果たした。

同じ日、お隣の大任町議会議員選挙では、永原譲二町長の暴力支配にたった一人で立ち向かってきた次谷隆澄副議長がトップ当選。同様の志を持つ新人も5位で当選しており、永原町政の追認機関と化していた町議会に風穴を開けた格好となった。暴力団の影を背景に田川市・郡で続いてきた永原氏の支配体制が大きく揺らいでいる。

■二場氏の“兄”の異常な町政運営

度々報じてきた通り、永原氏は筑豊を代表する暴力団「太州会」の企業舎弟から町長にまで上り詰めた人物。落選した二場氏は、永原氏の義理の弟にあたる。

暴力とカネの力で田川市・郡を支配してきた永原氏にとって、田川市長選挙と大任町議選の結果は受け入れがたいもの。市長選投開票日の夜、二場氏の選挙事務所にいて弟の落選を知った永原氏は、怒声と共に周辺の椅子やらテーブルに当たり散らしたという。「負けたのはあんたのせいだ」――ある二場陣営の関係者がそうつぶやいた。

たしかに、二場氏の落選は、永原氏の異常な町政運営と周辺自治体を巻き込んだ「言論封殺」への反発が大きな要因だ。

異常な町政運営の象徴となったのが、「違法な入札結果非公表」。永原氏は、町発注工事の入札結果を非公表にし、国から「違法」と指摘されても方針を変えようとしなかった。「ヤクザが1,000円のそうめんを1万円で業者に売りつけた」「町民を守るために入札結果非公表を続ける」などという何の正当性もない主張を繰り返してきたが、彼が本当に守りたかったのは自分の身。ダミー業者を使った公共事業費のピンハネがバレるのを恐れたからに他ならない。

ハンターが大任町に対し入札結果の開示請求を行ったのは令和3年6月14日。町が同年6月25日付けで非開示にすることを決定したため、7月1日付けで「非開示処分は公共工事の入札情報を公表するよう義務付けた『公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律』の規定に反する」として取り消しを求める審査請求書を提出していた。

やる気がないのは確かなようで、町が『弁明書』を送ってきたのは10か月も経った令和4年4月初旬。ハンターは同年4月26日付で「反論書」を送ったが、それから1年以上経過した現在も、審査結果は出ていない。

役場側に何度も催促してきたが、「来月審査会が開かれます」、「諮問に対する答申の方向性が決まったので、まとめに入った」、「答申の方向性が決まったので文書化を行っている」などと明らかな引き延ばしで時間稼ぎするばかりだ。

永原氏も担当課も、「令和3年6月までは入札結果を役場の玄関口にある掲示板に貼り出していた」と説明してきたが、そもそも公表済みの入札結果は情報公開の対象文書ではないはず。開示する・しない、で争う必要などあるまい。要は、「見せたくない。出したくない」ということなのだ。

■兄弟の隠蔽体質が招いた「脅迫」

入札結果のことばかりに注目が集まってきたが、永原町政が隠蔽してきたのは、下請けを含む公共事業の施工業者がわかる施工体系図、工事費の妥当性を確認するために必要な積算書など他の自治体なら当たり前のように開示される文書である。信じられないことに大任町の工事現場には、住民の確認が容易になるよう建築基準法が定めた施工体系図の掲示さえなかった。永原氏の息がかかった下請け業者を隠すためだ。

業者隠し、事業の実態隠しは、田川市でも顕著になっていた。田川市長選挙で争点の一つとなったのが「情報公開」。不正があったとみられるゴミ収集業者選定に関する公文書の公開を頑なに拒む市側の姿勢は、誰の目から見ても異様だったようで、これが選挙の行方を左右した。

「田川郡東部環境衛生施設組合」(組合長:永原譲二大任町長。田川市、大任町、川崎町、添田町、赤村、糸田町、福智町、香春町で構成)が、情報公開に関する勉強会を開いた田川市議らに言いがかりをつけ、謝罪するよう「脅迫」した問題も二場氏と永原氏にはマイナスに作用した。ゴミ処理施設整備工事の実態を探られるかもしれないという焦りが、前代未聞の「脅迫」につながったとみるべきだろう。

一連の隠蔽工作を仕組んだのは誰か――おそらく、田川市や大任町の住民の多くが黒幕の存在に気付いている。

■永原シナリオに沿った福岡県警の不愉快な動き

取材を続けてきたハンターの記者が永原氏と言葉を交わしたのは、2021年の8月。場所は町長室。この時永原氏は、ハンターの記事のネタ元についてしつこく聞いてきた。回答を拒否すると、今度は大任町の町会議員と特定企業の実名を挙げて、「証拠がある」と胸を張った。

記者はいずれの存在も承知していなかったのだが、永原氏は町議とその企業に異常なこだわりを持っており、敵意をむき出しに批判したことを覚えている。

気に入らないのは、その後の展開である。永原氏は町議と、指定暴力団「太州会」のある幹部とが深い関係にあると思い込んでいるようで、報道機関の記者たちを町長室に呼び込んでは「あの二人は関係がある」「町議には入れ墨がある」などと吹聴していた。

2021年3月の大任町長選の折には、太州会幹部と町議が組んでカネを要求してきたとするでっち上げを警察に主張。二人を逮捕するよう求めたという。

驚くべきは福岡県警の姿勢で、国会議員かその使い走りの警察庁幹部の力だか知らないが、田川署内に二人の立件を促す指示が出ていたというから呆れるしかない。県警の暴走は続いており、永原氏が敵視してきた企業や町議に、何の関係もない暴力団組長の事件を結び付け捜査対象にするなど、人権を無視した捜査が行われている。警察を使って気に入らない相手を始末する手法は、断じて容認できない。この点については、いずれ詳細を明らかにする予定だ。

■暴力支配の終焉

今年3月、永原町長が敵視してきた太州会の幹部が、建設会社代表を脅したとして逮捕、起訴された。脅されたと訴えたのは永原氏の最側近で、公共工事のうまみを享受してきた人物。脅しがあったことを証言したのは、これまた複数の永原側近だった。ヤクザの行為というだけで可罰性が高くなる傾向にあるのは致し方ないにせよ、あまりに出来過ぎた話だ。

ヤクザの企業舎弟だったことを生かして相手を畏怖させる「支配力」、周辺自治体を共犯に仕立てた「脅迫」、警察をそそのかしての「圧力」――まさに「暴力支配」だろう。しかし、ヤクザも警察もバカではない。利用されていることが分かれば、永原氏から離れることになる。事実、「太州会は永原を見限った」という情報さえある。ヤクザも警察もあてにできないと知った時、永原氏が頼るのは地元選出の国会議員だけとなる。

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