注目された衆・参五つの補欠選挙は自民党の4勝1敗で幕を閉じた。岸田文雄にとっては「中間評価」とされる選挙で合格点を得た格好だ。
しかし、衆議院和歌山1区では自民党の門博文元衆院議員が日本維新の会公認候補の林ゆみ氏に完敗。次の総選挙をにらみ、責任論が絡んだ公認争いに発展しそうで、自民党本部や官邸を巻き込んだ「嵐」が予想される状況となっている。
■候補者選びで失敗
投・開票票日の先月23日、門氏の陣営は慌てふためいていた。当日の出口調査で、門氏35に対して林氏が52と大きく差が付けられていたためだ。期日前投票でも林氏が優勢と言われていたため、「とにかく『投票に行ってくれ』と電話をかけまくなりました。(事務所に)集まれない人は『携帯電話からやってくれ』と頼みました」と門氏陣営幹部。必死の努力にもかかわらず、結果は大差で維新に敗れた。
これまで報じてきたように、和歌山1区は鶴保庸介元沖縄及び北方対策担当相を参議院から鞍替えさせることで、ほぼ決まっていた。鶴保氏自身も昨年12月、自身の政治資金パーティーで「鞍替え」への意欲を語っていたほどだ。だが、かねてから衆議院に転身を狙う世耕弘成参院幹事長が、「透明度を高めろ」と強硬に主張して横やりを入れたことで、補選の公認が門氏に決まったという経緯がある。
事前の情勢調査で「鶴保氏なら圧勝」という数字が出ていたのは確かで、奈良県で初の国会議員を誕生させた維新の馬場伸幸代表でさえも、「鶴保氏であれば、大阪・関西万博推進本部の役員であり候補者を出さないことも検討していた」と語っている。自民党の失策が維新の勝利を招いた格好だ。
■張りぼて体制
保守王国・和歌山での維新勝利は、今後、自民党にとって「内紛」の火種になりかねない。今回の補選では、県連会長の二階氏のもとで門氏を推した世耕氏が選対本部長を務めた。だが、門氏の陣営では選挙戦が進むにつて愚痴が増え、暗い雰囲気だったという。門陣営のある幹部はこう振り返る。
「門の事務所は和歌山市の繫華街に位置しており、駐車場もあり立ち寄りやすかった。しかし、情勢調査などで門が危ないとの声が広まると来るのは仕事が欲しそうな業者ばかり。二階先生や、世耕さんら大物議員がついているというのに、その秘書たちもわずかな時間しかこない。業界、各種団体をしめつけて、推薦状ばかりが集めても勝てないですよ」
事務所の壁には、岸田首相はじめ閣僚や党幹部の「祈 必勝」と書いた為書きや業界・団体の推薦状がすきまなくびっしりと張り付けられていたが、効果を発揮することはなかった。張りぼて体制だったということだ。
■選挙中から責任のなすり付け合い
選挙戦最終日、爆弾事件で心配されていた岸田首相が再度、和歌山1区入り。演説会場は2,500人もの聴衆で埋め尽くされた。しかし門氏の事務所は冷めていたという。
「責任は選対本部長の世耕さんにあるだろう、いや県連会長の二階先生じゃないのか、ともう負けた時にどう動こうかというひそひそ話が市議や県議の間で交わされていました。『推薦状ばかり集める選挙では勝てない』と市議らが言うと、世耕さんの後援者は『選挙はまだ終わっていない。選対本部長のおかげでこれだけ推薦状が集まった。選挙は、県連会長が最高責任者だ』などと、ぶ然とした表情で事務所から帰っていきました。投開票の前から責任のなすり付け合い合いだったんです」(自民党の地方議員)
世耕氏が陣頭指揮に立った門陣営の大失策は他にもある。4月12日、萩生田光一政調会長がテコ入れにやってきた際のこと。街頭演説の会場には数十人の市民がいた。その時、門陣営のスタッフが配ったビラに記されていたのは《岸田文雄総理大臣 きたる!!》。党本部からも、県連からも公表されていない岸田首相の日程を、勝手にPRしていたのだ。
実物を入手したが(*下の画像)、よく見ると選挙期間中であるにもかかわらず「証紙」が貼られていない。おまけに、期日前投票の呼び掛けやQRコード、さらには門陣営だけの資料であることを示す《内部資料》という文字まである。明らかに公職選挙法が禁じる違反行為だった。「世耕さんや、二階先生はいったい、どんなかじ取りをしているのか」と陣営スタッフから批判があがるのは当然だろう。
■小池都知事応援も効果なく
4月22日、岸田首相の来県直前、なんと東京都の小池百合子知事が急きょ門氏の応援に駆け付け、1,500人を超す市民が集まった。仕掛け人は二階氏で一緒に選挙カーにあがったのは鶴保氏。そこに世耕氏の姿はなかった。
「劣勢を挽回するため、二階先生が最後の大勝負に出た。それを世耕氏は嫌って行かなかった」(自民党の県議)維新に敗れたことで、県連会長の二階氏と選対本部長の世耕氏の動向が注目される事態。
世耕氏が、改正公職選挙法によって「10増10減」となる次の総選挙で衆議院転出を狙っていることは周知の事実。和歌山は小選挙区が3から2になることが決まっているが、維新が議席を奪った現在の和歌山1区が中心となる“新和歌山1区”の候補者は未定。二階氏の地盤である新和歌山2区も先行き不透明だ。ある自民党の大臣経験者は、ため息交じりに次のように話している。
「これまでなら、二階さんが『新和歌山2区から出る』と言えば、だれも文句が言えなかっただろう。しかし、補選の敗北を受けて、世耕さんは当然新和歌山2区に手を挙げてくる。鶴保さんだって、本来は自分が出馬できたはず補選だっただけに黙っていないはずだ。補選では表むき冷戦休止となった二階さんと世耕さんだが、この結果では、一気に爆発しかねない。二階さんは選挙の責任は選対本部長にあると周囲に語っているようだが、和歌山の内紛が党本部に及ばないようにしてほしいものだ」