大阪IR・事業者優遇「協定書」の全文公開

大阪市此花区の埋立地、夢洲(ゆめしま)を予定地とするIR(カジノを含む統合型リゾート施設)構想。3月末に大阪府議会と大阪市議会で可決されたことで地元同意の手続きが完了し、区域整備計画の認定に向けた動きに移った。

2025年に開催予定の大阪・関西万博の後――2029年――の開業が見込まれているが、本サイトでも報じたように(参照記事⇒「危ういIR構想が招く大阪維新の地盤沈下」)、夢洲の地盤問題やそれにかかわる大阪市の費用負担など難題が山積しており、先行きが不安視されている。

■「協定書」の問題点

懸念を増幅させているのが、カジノ運営事業会社となるオリックスとアメリカのMGMリゾーツ・インターナショナルが設立した「大阪IR株式会社」との関係。それを網羅しているのが『大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書』で、今年2月15日に交わされている同協定書の全文を入手した。

協定書(←クリックでPDFファイルが開きます)

協定書はA4サイズで本文21ページ、別紙の資料などを含めると43ページにも及ぶ膨大なものだ。大阪市のホームページを見ると、なぜか【基本協定の概要】として、たったの2ページしか公開されていない(参考PDF)。大阪市役所の内部からも、次のような声が上がる。
「中身が全部知られ、精査されるとまずいからじゃないか。維新はいつも『出せる資料は出せ』と言っている。それなのに、肝心な協定書を概要でしかオープンにできないというのは、大きな問題があるからだとしか思えない」

IRや統合型リゾートと呼称にこだわり、カジノ、博打という言葉を出さないように腐心している大阪市。しかし、収支計算の総額は5,200億円で、うち「ゲーミング」と称するカジノからのものが8割に相当する4,200億円とされている。実質的には、カジノが中核なのだ。

日本は賭博禁止。当然、国内の企業は、カジノの運営ノウハウを持っていない。海外で手広くカジノを手掛ける企業の手を借りなければ、不可能な計画だった。当初、運営には複数の企業が進出を希望していたが、世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受け断念。最終的に手を挙げたのは、大阪IR社だけだった。

2021年10月11日の大阪府議会では、冨田忠泰議員が「特定の事業者だけを優遇しているとも取られかねない」と指摘。2020年3月6日の大阪市議会では、多賀谷俊史市議が「いろんな要素があって非常に複雑で、IR事業がよく分からない。今カジノを、IRを万博までにどういうふうにするのかということ、突っ走ってきてるんです。ありとあらゆる優遇策を取ってやっている」と懸念を表明している。2人の議員はともに、IRに賛成していた自民党所属であることも根深さがうかがえる。

問題の協定書については、「カジノをやるには、大阪IR社をつなぎとめるしかない。指摘のように運営側の意向を大幅に取り込んだ協定書と言われても仕方ない」と大阪市の幹部も認める。

それを象徴するのが、協定書の第19条にある(本基本協定の解除)という項目だ。つまり、事業者の撤退に関する取り決めである。どのような場合に、大阪IR社が撤退することができるのか――?

例えば協定書の19条に規定された次の二つのケース。「市会による債務負担行為の議決が行われなかった場合」や「設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれらに限ない。)が生じた場合は、撤退可能となるのだ。

 IR用地は大阪市が大阪IR社に事業用定期借地権契約を結び、貸し出すことになっているが、市はすでに用地の液状化、地中障害物、土壌汚染の土地課題について780億円をかけて改良することを決めている。その支出が市議会で可決されなければ、解除できるというわけだ。

これまで、日本各地で埋立地の定期借地が実施されてきたが、土地課題の解決は事業者が行うのが一般的。それを大阪IR社は大阪市に求め、780億円が認められないなら撤退できると定めた。おまけに、カジノに投資した大阪IR社が土地問題で十分な利益があげられない場合も同様だという。大阪市が大阪IR社の「稼ぎ」を事実上保証する内容であり、協定書で行政が、民間企業の商売に「絶対に儲かる」とお墨付きを約束しているのだから呆れるしかない。

また同条には「新型コロナウイルス感染症が終息し、かつ、国内外の観光需要が新型コロナウイルス感染症による影響を受ける前の水準まで回復していることが合理的に見込まれること」として“コロナ条項”も含まれている。

 コロナ前の観光需要、水準とはいったいなにを指すのか?誰が、その回復、合理性を判断できるのか?協定書には、その答えとなる具体的な数値などは、一切記されていない。大阪IR社が、“コロナせいで稼げない”とゴネれば、容易に撤退できる「逃げ道」が与えられている。

大阪市議会で、区域整備計画が可決される直前の3月16日、都市経済委員会に大阪IR社の社長を務めるオリックスの高橋豊典氏とMGMのエドワード・バウワーズ氏が参考人招致された。高橋氏は撤退の可能性について「低いのかな。あるかないかというと、あるかもしれません」と答弁した。

「高橋氏の回答で大阪市の幹部は凍り付かんばかりに驚いたと聞いている。IRを推進する部署の職員の中には『IRが市民のためになるのか疑問だ。担当を外してほしい』と吐露する者までいます」と、ある大阪市議は内幕を明かす。

協定書で大阪IR社に手玉にとられる大阪市と大阪府。大阪IR社ありきの協定書で、はしごを外されるとその負担は、府民、市民、国民にまわされかねない。

 

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