大阪維新・まやかしの都構想

大阪維新の会が命運をかける「都構想」の住民投票が2日後に迫った。告示後に注目を集めたことで「賛成」が伸びるかと思いきや、大方の予想を裏切る形で「反対」が増加。報道機関の情勢調査では逆転するケースも出ている。

都構想の是非を問う住民投票は、2015年に次いで二度目。前回は根強い人気を誇る橋下徹大阪市長が陣頭指揮に立ちながら僅差で敗れており、今回構想実現に至らなければ、維新をリードしてきた松井一郎大阪市長や吉村洋文大阪府知事の進退問題にも火がつく可能性がある。

公明党も巻き込んで必死の運動を続ける維新だが、ハッキリ言って「都構想」の必要性は全く見当たらず、主張のうさん臭さが漂うばかりだ。

■デメリットはたったの二つ?

「大阪都構想」とは、大阪市をなくし、現在24ある区を4つの特別区にまとめるというもの。大阪維新の会は、都構想実現を目ざす理由を『大阪府と市の二重行政を解消して、未来に向かって効率的な行政運営を行うとともに、大きすぎる市役所を再編してより身近な自治体をつくり、住民の声が届く制度に変えていく必要があるから』だとしている。

下は、大阪維新の特設サイトにある「Q&A」の画面。都構想のメリットとデメリットが示されている。

メリットは次の5つだ。

・二重行政がなくなり、物事を決めるスピードが速くなります
・経費削減により、住民のために使えるお金が増えます。
・大阪を発展させる事業計画がスピーディに進みます。
・民間からの投資が活発になり、大阪が発展します。
・住民に、より近い視点で行政サービスが提供されるようになります。

これに対し、デメリットはたったの二つ。住所表記が変更され年賀状の宛先変更や法人様は法人内システムの変更が必要になるということと、あたらに設置される特別区の新システムや庁舎の維持等に初期で241憶円、維持に年間30億円のコストがかかるというもの。そのデメリットにしても、大阪府が特別区に200億円の財政措置を行うので問題ないという姿勢だ。

一番のメリットは、維新が都構想を実現する理由として挙げてきた「二重行政の解消」らしいが、そもそも大阪府と大阪市が同じことを別々にやるという「二重行政」など、本気で解消しようとすれば難しいことでも何でもない。首長どうしが、無駄のない行政を遂行するため、力を合わせれば済むことなのだ。現に、いまの大阪は府知事も市長も大阪維新の所属。それでも「二重行政」があると言い張るのなら、松井市長と吉村知事は能無しということになる。

知事と市長は、そろって「ポピドンヨードが新型コロナに効く」と発表して恥をかいたが、それほど仲の良いお二人が「二重行政」を見逃しているとは思えない。わざわざ大阪市を廃止してまで、形だけの「都」を作る必要はあるまい。

“形だけ”というのは、住民投票で「賛成」が多数を占め都構想が実現しても、「大阪都」という名称に替わるわけではないからだ。大阪府を大阪都にするには、地方自治法や大都市法など関係法の改正か特別法を作るしかなく、特別法なら再度住民投票で民意を問う必要が出てくる。維新はこれまで以上に高いハードルを越えねばならないわけだが、松井氏や吉村氏の人気が下降したり、友好関係にある菅義偉政権が倒れでもすれば、目論見はあっさり崩れ去ることになる。

メリットとされる「経費削減」も「スピーディな事業計画」も「民間投資の活発化」も「住民により近い視点での行政サービス」も、都構想とは関係なく進めるべき課題であり、府・市のままでも十分に実現可能なものだろう。大阪維新の主張から、バラ色の未来を想像することはできない。

■議員数不足の「区議会」

最大の問題は、大阪維新の都構想が、地方自治にとって一番大切な「住民自治」や「議会制民主主義」を否定していることだ。

大阪市が廃止されたあと、新たに設置されるのは「淀川区」「北区」「中央区」「天王寺区」の4つの特別区。区長は選挙で選ばれ、それぞれに区議会が設置されることになる。現在は「大阪市議会」一つだが、都構想が実現すれば議会が4つに増える。当然、余計な経費がかかるはずだが、維新は現在の大阪市議会の定数を4つの特別区の議会に振り分けるだけでコスト増にはならないという見解を示す。

しかし、新設される特別区の人口と振り分けられる議員数をまとめると、維新の主張がとんでもない暴論であることが分かる。

議員数が10~20人台といえば、人口10~15万人程度の自治体でのこと。維新の計画にある4つの特別区は一番少ない淀川区でも約60万人、北区は約78万人だ。これだけの規模の自治体の予算を審議したり、方針を決めていくためには多くの議論が必要となるはずだが、維新が主張する議員数では到底そこが担保されない。

お隣の堺市の人口は約83万人。議会の定数は48だ。議員一人が17,000人を受け持つ計算だが、新設の淀川区だと33,388人、北区は33,739人となる。財政面のことを考えれば議員の数は抑えるべきだが、最低限は必要。大阪維新の計画通りなら、常任委員会の設置はできても、一人がいくつもの委員を掛け持ちせざるを得なくなり、十分な議論をすることはできなくなる。もちろん、細かな区民の声をすくい上げることなど不可能。議会制民主主義の原則を軽視した維新の都構想は、非常に危うい内容なのである。

 

この記事をSNSでシェアする

関連記事

注目したい記事

  1. 10月9日、石破茂首相が衆議院を解散し、総選挙の火ぶたが切られた。公示は15日、27日に投開票が行わ…
  2. ハンターへの内部告発を「情報漏洩」だと指弾し、告発によってもたらされた文書=「告訴・告発事件処理簿一…
  3. 兵庫県議会から全会一致で不信任決議を可決され、失職を余儀なくされた斎藤元彦前知事が、失職表明と同時に…
  4. 10月1日、石破茂氏が第102代内閣道理大臣に就任した。国会での首班指名前日、石破氏はまだ首相の座に…
  5. 次々に不正を疑わせる事実が明らかとなり2度目の百条委員会設置となった福岡県田川市の「一般廃棄物(ごみ…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る