派閥のパーティー券キックバック事件で東京地検特捜部の家宅捜索や幹部への事情聴取を受けた安倍派。「最悪の構図になりつつある。会長を決めなかったツケがここにきて噴出している」と安倍派の衆議院議員は打ち明ける。

臨時国会会期中は、会計責任者、秘書らが特捜部から呼ばれて取り調べを受け、年末にかけては議員ら本人への聴取。年明け7日には、同派の池田佳隆衆議院議員と政策秘書が政治資金規正法上の虚偽記載容疑で逮捕された。同派への捜査が集中する事態に、「安部派は崩壊する」(安倍派の衆院議員)と見立てが現実味を帯び始めた。

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池田佳隆容疑者は昨年、パーティー券売り上げのキックバック分を政治資金収支報告書に記載していなかったとして3,200万円分を訂正。しかし、逮捕容疑となった裏金の額は約4,800万円だった。特捜部は、同派に所族する他の議員二人についても立件する構えだ。

“逮捕などない”と甘く考えていたのだろう。鈴木淳司前総務大臣は、所属する安倍派から5年間で60万円のキックバックを「不記載だった」(同議員)と認めた際、記者から見解を問われ「この(政治の)世界で文化と言えば変だが、そういう認識があった」と答えて大炎上している。

安倍派は、過去5年間に開いた派閥のパーティーの収支報告で、多くのキックバック分の「支出」と「収入」のどちらも記載しておらず、極めて悪質。報告書を訂正した議員が出た時点で、形式的には、政治資金規正法違反となることが確定していた。

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一昨年12月、総理大臣補佐官などを務めた薗浦健太郎氏が政治資金規正法違反で略式起訴され議員バッジを失ったが、その際の立件額は4,900万円。しかし、今回は派閥全体としての不記載が事件となっており、問題はより深刻だ。

報道ベースで安倍派の不記載は5億円超~6億円だが、前出の安倍派議員は顔を曇らせる。
「会計責任者などのレベルでは5億円だと聞いている。しかし特捜部が精査していくとかなり積み上がるんじゃないか。10億円に届かないことを祈るばかりだ」

高額の政治資金の不記載・虚偽記載といえば2011年、小沢一郎氏の資金管理団体が起こした「陸山会事件」があげられよう。秘書が4億円分を不記載にしていたことで逮捕、有罪になっている。

一般的には政治資金規正法違反は形式犯で、立件されても略式起訴と公民権停止が普通。だが、東京地検特捜部出身の弁護士は昨年、こう予想していた。
「陸山会事件や薗浦氏の事件は議員個人の責任が問われたケースです。しかし今回は派閥による組織的な事件であり、そこが決定的に違う。(裏金の額が)安倍派で5億、あるいは6億円となれば、まず会計責任者はアウト。共謀関係が立証できれば会長、もしくは事務総長が逮捕、公判請求となる可能性がある」

過去5年間で安倍派の会長だったのは、細田博之元衆議院議長と安倍晋三元首相の二人。どちらもすでに鬼籍に入っている。特捜部がターゲットにするのは事務総長経験者となる。その経験者を2018年から見ていくと、下村博文元政調会長、松野博一前官房長官、西村康稔前経産相、現在の高木毅国対委員長の4人だ。前出の安倍派院議員がこう振り返る。
「今年春の派閥のパーティーでは、議員個人が売ったパー券でも、購入した人に銀行振り込みをさせろという連絡がきた。2022年には、『キックバックはしない』と急に言われ、一部の議員からブーイングが出ていた」

その話が事実とすれば立件対象となる派閥の政治資金パーティーは、2018年から2021年にかけて行われた4回。事務総長の内訳は、下村氏が2回、松野氏、西村氏がそれぞれ1回となる。パーティー収入を確認したところ、下村時代の2回はコロナ禍前で2018年は約2億円、2019年は約1億5千万円。松野氏の2020年と西村氏の2021年は、いずれも約1億円となっている。しかし、これは政治資金収支報告書に記載された分で、闇はもっと深いとある捜査関係者が語る。
「キックバック以外にも、ノルマ分しか派閥に入れず、超えた分をポケットに入れた議員がいる。また、パー券の現金支払い分を派閥で計上しなかった例や、自分は目立つのが嫌だとパー券の売り先を若い議員に紹介し、キックバックだけを受け取るなど様々なごまかしのパターンがあったようだ。政治資金収支報告書に記載する帳簿と、本当の収支を記した帳簿を分けていたこともわかっている。つまり二重帳簿。会計責任者は幹部に二つを見せた上で、了承を取り付けていた」

別の安倍派議員が、会計処理の一連の流れについてこう話す。
「会計責任者が二重帳簿を作り、キックバック一覧表などを資料として添付する。それを事務総長に持参してチェックを受ける。OKならば会長に報告という流れだったそうです。ただ、細田氏、安倍元首相は細かく見ずに『ご苦労さん』というだけで、会計に関する話はほとんどなかったと聞いています」

やはり、事務総長と会計責任者の共謀があったかどうかが最大のポイントになりそうだ。

注目を集めている安倍派の会計責任者は、政治経験などない元NTT帯広支店長のA氏。世耕弘成前参院幹事長がそのA氏を引っ張ってきたのは2018年だった(既報)。

「特捜部は、すでにA氏から全面的な自供を得ているようです。ポイントとなる事務総長の決裁、了承もあると話しているはず。陸山会事件で小沢氏は特捜部の捜査では不起訴でした。つまり、秘書らが親分を守ったということ。A氏は政治経験がないので、自分で罪をかぶることはまずないとみていいでしょう。特捜部が狙うのは2020年、2021年のパーティーではないですかね。A氏は当初、罪の意識はなかったはず。しかし、経験を重ねるにつれ不記載が事件になることを認識していたと思われます。この間、薗浦氏の略式起訴もあった。そうなると、会計責任者VS松野・西村氏という図式で激しく対立する可能性もあります」(前出の特捜部出身弁護士)

安倍派と二階派などを含む「自民党」としての対応には、検事総長候補でもあったヤメ検の名取俊也弁護士(元盛岡地検検事正)が中心なって動いているというが、先行きは不透明だ。

西村前経産相の関係者が、肩を落として次のように話す。
「裏金疑惑の真っ最中にハンターでカレンダー疑惑、週刊文春では女性大臣秘書官疑惑が報じられた。西村さんは毎日、深刻そうな顔で弁護士のところに通っているようです。自分の不祥事が報じられるたびに『またウソが出ているじゃないか』と激怒して、自らSNSに反論を投稿しているそうですよ。彼は秘書に当たり散らすことで有名。年末に事情聴取に呼ばれた後も、ピリピリしていたようです」

派閥を率いる「5人衆」に加え座長まで事情聴取を受け、ついには現職議員の逮捕。崩壊する安倍派に生き残る道があるのだろうか。

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