自民党安倍派のパーティー券裏金事件で、松野博一官房長官の更迭が確定。松野氏はパーティー券をノルマ以上に販売してキックバックを受け取りながら、政治資金収支報告書に記載をしていなかった。2018年から22年までの5年間で、1,000万円を超すキックバック分が裏金となっていた模様だ。
松野氏とともに安倍派=清和政策研究会(清和会)の「5人衆」と呼ばれる高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長、萩生田光一政調会長、西村康稔経産相も、キックバック分を裏で処理をしていた疑いが持たれており、岸田文雄首相は、今年9月の内閣改造と党役員人事で起用した「5人衆」を含む同派の議員すべてを要職から外す方針だという。福田武夫元首相が創設した名門派閥・清和会は、崩壊の危機。長きに渡った「安倍政治」も、ようやく終わりを迎えようとしている。
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「キックバックは、すべての派閥でやっているが、政治資金収支報告書への記載の有無が一番のポイント。安倍派はそれがまったくないそうだ。安倍派で5人衆が派閥内で幹部となっているのは、安倍晋三元首相の覚えがめでたかったことが第一。次に派閥のパーティー券をノルマ以上に売ったことが評価されたということだ。キックバック分を裏金にして、それを原資に子分をつくった。派閥内でも、それぞれが“子分”を作っていくことができた。資金の裏がすべてばれてしまい、5人衆全員がそろってアウトになった」(安倍派の中堅議員)
政権寄り」とされる読売新聞でさえ、12月9日の朝刊で《松野氏が「更迭」》という大見出しを振り、高木氏や世耕氏のキックバック疑惑も1面トップに据えた。ある自民党の大臣経験者が苦々しげにこう話す。
「安倍派5人衆をはじめ、キックバックをもらって政治資金収支報告書に記載していない閣僚や党役員のすべてを、交代させるしか手はない。岸田さんを助けためではなく、自民党を救うためだ。12月中にいったん内閣総辞職を実行し、党役員人事まで刷新しないと政権も党ももたない」
東京地検特捜部は、地方の検察庁から応援をとり捜査を拡大。12月4日には、安倍派に所属する池田佳隆衆議院議員の秘書に出頭を求めた。翌5日には大野泰正参議院議員、6日は堀井学衆議院議員の秘書や関係者が特捜部で事情聴取を受けている。
特捜部は、すでに各派閥の会計責任者やスタッフから話を聞いており、政治資金を管理するの銀行口座の資料などを提出させたという。
「もう派閥の事務方の捜査はひと通り終わって構図は掴んだ。キックバックが多い議員の秘書や関係者への聴取を続けながら、13日の臨時国会終了後から議員に集中して聴取することになる。当然、松野官房長官をはじめ、5人衆と呼ばれる人たちからも必要なら事情を聞くことになるだろう。派閥はどこも会長が頂点に君臨するが、実務は事務総長への報告、了承があって進むものとわかってきた」(捜査関係者)
安倍派の現在の事務総長は高木氏。直近では西村氏、松野氏、下村博文元文科相という順番だ。問題のキックバックについて、遡って違法かどうかを問えるのは、時効(虚偽記載・不記載は5年)の関係から5年前の2018年分から。同派が総務省に提出した政治資金収支報告書に記載されている会計責任者はM氏だが、安倍派に来るまではNTT帯広支店の支店長という、政治とは関係がなさそうな世界にいた。前出の安倍派中堅議員が天を仰ぐ。
「NTTといえば、出身の世耕氏の後押しだと聞いている。派閥内では萩生田氏とも良好で会計責任者として仕切っていた。ただ、M氏が明るいのは一般の企業会計。政治団体の会計はそれとは大きく違う。税理士や公認会計士に相談していれば、うまくいくというものではない。特捜部に呼ばれたM氏は、銀行通帳だけではなくて会計資料一式を持参し、パーティー券の販売先、担当者、枚数、金額、現金が振り込みかどうかなどがすぐにわかるようにつけていた帳簿まで見せたとされる。特捜部は、裏金の確信を得ることができたということだ。M氏は、『キックバック分を裏金にしていたのはかなり以前からで、誰の指示でもなく、慣習、引継ぎだった』と抗弁しているが、派閥側からからすれば、事実上の自供。自爆したとしか言いようがない」
特捜部が手掛けた「政治とカネ」の事件で大掛かりだったのは、2019年の参院選における河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反。2,900万円に上るカネを100人もの関係者にばらまいて、受け取ったとされる被買収側の広島県議、市議、首長までバッジを失った。今回は、ターゲットが国会議員、しかも最大派閥の安倍派となる。
元特捜部の弁護士は、古巣の思惑をこう解説する。
「河井事件でも、特捜部はもらった金額で一定の線引きをして捜査をしていた。今回も安倍派の議員で、キックバックが高額な議員から調べをするはず。だが、派閥の意思決定は事務総長に任されているので、会計責任者と議員は政治資金収支報告書に不記載なら当然、やられる。そこに、了承をしていた事務総長を共犯関係として立件することを、目標にやっているはずだ。安倍派の当選3回、4回の議員をやったところでトカゲのしっぽ切りで国民の不満はおさまらない。大物政治家だけが優遇されているように思われてしまう。キックバック分を政治資金収支報告書に記載せず懐に入れたとすれば、明らかに脱税。特捜部は国税当局に資料提供して捜査すべきだ。岸田政権はインボイスに防衛増税と、課税強化策ばかり打ち出した。国民からすると、政治家だけが聖域だなんて、ばかげた話はないでしょう」
現在、安倍派の5人衆をはじめ派閥幹部は連日、情報交換の日々だと安倍派のベテラン秘書が声を潜める。
「うちは頻繁に弁護士と連絡を取り合っている。特捜部から呼び出しがあった時に議員や秘書がどう対応すべきか、資料は出すべきか、など打ち合わせをしている。ただ、他の議員らの捜査の関係もあって、方針も日々、変わっているようだ。しかし、キックバック分を記載していないのが事実なら、そこは認めるしかない。5人衆はもっと厳しい状況だそうで、『弁護士と打ち合わせするが、自ら動かない方が得策』と沈黙を決め込んでいると聞いている」
7年8か月続いた安倍政権。アベノミクスに象徴される、いわゆる「安倍政治」は、その後の菅政権と合わせると8年8か月になる。この間、官邸の守護神と呼ばれた元東京高検検事長、黒川弘務氏がスキャンダルを「穏便に処理」してきたことは、誰の目にも明らかだった。甘利明氏のUR疑惑、安倍元首相のモリカケ疑惑、桜を見る会事件などで苦汁を飲まされた挙句、検察人事にまで手を突っ込まれた検察が、逆襲に転じた格好となっている。安倍政治が、終わる。