江差パワハラ死、3議員が追及|道の因果関係否定に撤回・再検討迫る

 北海道立江差高等看護学院で起きた在学生自殺問題で12月上旬、地元議会で野党会派の議員らが相継ぎ質問に立ち、北海道の遺族対応などに苦言を呈した。教員らによるパワーハラスメントと学生の自殺との相当因果関係を否定する方針については、3人の議員から「撤回」や「再検討」を迫る問いが繰り返されたが、道の担当課が明答を返すことはなかった。ほかの質問に対しても道側の説明は要領を得ず、担当者がたびたび答弁に詰まって議事を停滞させる場面が一度ならず見られた。
*下の写真は同議会ライブ中継の画像から

 ◇   ◇   ◇

 議会質問があったのは、12月7日午後の道議会予算特別委員会。最初に質問に立った中川浩利議員(民主、岩見沢市)は10月下旬に道の代理人から遺族へ送られた『回答書』の内容に触れ、第三者調査で認められた相当因果関係を曖昧にしている点などを「たいへん失礼な内容」と指摘した。その上で「今からでもこれを撤回し、遺族と協議を進めていくべき」と質すと、道の担当課は撤回の考えの有無は一切答えず「(回答書は)第三者調査書の全体をふまえて検討したもの」とのみ答弁。これに議員が「第三者調査を認めるのであれば回答書の内容と合わない」と指摘すると、道は「協議中の案件でもあり、答弁は差し控えたい」と事実上ノーコメントで応じた。

 中川議員は「少なくとも相当因果関係を認めるのであれば回答書は撤回すべきと、知事にしっかり具申していただきたい」と注文をつけ、自殺事案を含む一連のパワハラ被害について道に猛省を求めて質問を締め括った。

 これに続く赤根広介議員(結志会、登別市)の質問もまた、問題の回答書と第三者調査結果との整合性を質すものとなった。だが道はここでも明答を避け、議員が改めて「整合性はとれているのか」「齟齬はないのか」と追及。道がこれに「協議中のため答弁は差し控える」と応じたため、議員は「皆さんには説明責任がある」と諌言し、その上で「回答をまとめるまでにどのような庁内協議があり、知事からはどういう発言があったのか」と尋ねた。問いを受けた道は答えに詰まり、1分間あまりにわたって沈黙。ようやく手を挙げた担当課長は次のような“無答弁”を弄することとなる。

 「道の代理人弁護士などと検討を行ない、庁内の協議を経て提示額等を決定し、知事に了解を得たものでございます」

 ほぼすべての文言が、およそ答えになっていない。赤根議員が委員長に「訊いたのは庁内協議の『内容』についてだ」と伝えると、委員長は担当課に答弁のやり直しを求め、「それと、もう少し大きな声で」とつけ加えた。道が再び沈黙すること、約1分間。最終的にひねり出された答弁は「道の代理人弁護士などと検討を行ない、庁内関係課との協議をした上で知事の了解を…」と、先ほどとまったく同じ文言となった。

 半ば呆れた様子で「私が訊いているのは協議の内容」と念を押し、「しっかりとお答えを」と迫る議員。やはり1分間の空白を挿み、そこでようやく辛うじて噛み合う答えが示されることになった。

 「道の法的責任や賠償の範囲などを協議していたところでございます。また知事からは『丁寧かつ誠意をもって対応するように』というような指示でございます」

 赤根議員はこれに「『丁寧』『誠意』と? 私にはとうていそうは感じられない」と呆れ、「皆さんのほうからご遺族に寄り添っていかないと、協議が進むわけがない」と指摘、その上で先の中川議員と同じく相当因果関係を否定する方針の撤回を求め「少なくとも道としてしっかりと撤回し、ご遺族に謝罪し、協議を進めていくしかない」と迫った。だがやはり、道から明答が返ることはなく、質問者の赤根議員は「そういう姿勢である以上、とうてい歩み寄りは見られないと思う」と苦言を呈さざるを得なくなった。

 最後に質問の手を挙げた真下紀子議員(共産、旭川市)は、亡くなった学生への弔意を示した後、「道はどういう議論を経て賠償の方針を決定したのか」と切り出した。道の担当課は先の2議員への答弁と同様「第三者調査結果をふまえて検討した」と答えたが、真下議員が「道の責任が問われるという認識はあったか」と重ねると、答えに窮して約2分間の沈黙を続けることに。結果的に示された答弁は、次のようなものとなった。

 「管理監督責任を有する道にも問題があるとされたところであり、学院の設置者として調査結果を重く受け止め、ご遺族に謝罪をさせていただいたところでございます」

 真下議員が「謝罪うんぬんではなく、責任を認めたのかと訊いている」と指摘すると、これを受けた道はまたしても答弁に詰まり、議事が停滞。空白が1分に近づいたところで議員が「後でもう一度訊くので」と猶予を与えて別の質問に移る一幕があった。

 10月の時点で道が提示した賠償額について「今後の交渉で変わることもあると理解してよいか」と真下議員。道は「確定したものではない」と答え、10月の対応が飽くまで賠償交渉のスタート地点だったことを認めた。また当初のハラスメント調査で学生の自殺事案が調査対象とならず結果的に被害認定に時間がかかったことについて問われると、道は次のように弁明した。

 「その時点ではご遺族から調査を求める申し出はなかったものの、学生の一部から本事案に関する言及があったことをふまえ、委員の間で協議を重ねた上で確認作業を行ないましたが、自死に繋がるハラスメントの確認には到らなかったことから、調査書にも掲載しない取り扱いとなったところでございます。その後、令和4年5月に遺族側代理人から改めて第三者による調査を求める要望があり、6月に新たな委員による調査委員会を設置し、遺族側から提供のあった情報などをもとに聴き取り調査等を実施し、4件のハラスメントを認定する結果が報告されたものでございます」

 真下議員は「当初申し出がなかった事案でも後で認められたものがある」と、自殺事案の調査に時間がかかったことに改めて疑問を呈した。さらに認定されたハラスメント4件について説明を求め、道が調査書に添ってこれに回答すると、「その1つをとっても自死に到るパワハラだったといえる」と指摘、また友人や教員らによる「ロープを手にしていた」「ロッカーが片づいていた」などの証言から被害学生が事前に自殺の準備をしていたことに周囲が気づいていた事実を確認し、にもかかわらず「道はパワハラの指摘を何度も受けていたのに放置した」と、再び道の責任を追及した。だが担当課は「監督責任を有する道にも問題があり、学院の設置者として調査結果を重く受け止め…」と、ここでも明答を避ける態度に終始。質問者が溜め息まじりに「責任があったとは考えないのか」と三たび同じ問いを重ねてもなお、答えは変わらなかった。納得できない議員が4度目の質問を発したところで、手詰まりの道は長い沈黙に突入、そのまま無言を貫き続け、ついに意味のある答弁を返さなかった。

 やり取りの白眉となったのが、被害学生が亡くなった当時の道の対応を確認する問答。答弁者の沈黙やそれを諌める委員長の発言も含めて、以下に再現する。

議員:自死した学生を発見した看護師である教員は、一番先に学院に連絡してるんです。救急要請じゃないんです。次が警察です。発見した看護職員は、救急要請していますか?
道:……(約40秒間沈黙)

委員長:答弁調整、時間かかりますか。休憩させますよ。大丈夫ですか?
道:……。学生宅を訪問した教員は、警察への通報とともに、ただちに救命のためさまざまな対応を試みたものの、その場の状況から蘇生措置は困難であったところでございます。

議員:その場で蘇生は難しかったんですよ。だから救急要請しなきゃならなかったんですよ。だけど、しなかったんです。警察が救急要請してるんです。レスキュー隊が来て、ロープを切らなかったら、学生を降ろせなかったわけでしょう! ……(声が詰まり)ちょっと、休憩を。
委員長:暫時休憩します。

議員:……すみません(水を飲み、深呼吸)。大丈夫です、すいません。
委員長:休憩前に戻り、会議を再開致します。

 これに続き真下議員は、前2議員が道の認識の「撤回」を求めたのと同じ趣旨で、賠償交渉の「再検討」を求めることになる。道の答弁を含めて、下に採録しておく。

議員:調査書では、ハラスメントを認定した教員B、C、Dの3人について『当時の指導態度を真に反省し、自死に到らしめた責任を重く受け止めているとは見受けられず、当時のハラスメント体質が垣間見える場面が少なくなかった』と意見されています。また教員全体の『学生を育てるよりもふるい落とすような教育方針と態度』は、ハラスメントが容認される非常に重要な要素と指摘しております。調査時機を逸し、長きにわたって是正措置を講じなかった道の重い責任に鑑みて、調査書の自死との関係を認めた上で賠償交渉の進め方を再検討すべきではないかと考えますが、見解を伺います。
道:道の法的責任や賠償の範囲などにつきましては現在、道と遺族側双方の代理人弁護士を通じて協議を行なっているところでございます。引き続き、道の代理人弁護士の見解なども伺いながら適切に対応して参ります」

議員:それでは、顧問弁護士に道議会での議論というのは伝えられているんでしょうか?
道:道では代理人弁護士に対し、道議会において議論があることをお伝えしているところでございます。

議員:詳細に伝えていただきたいと思います。それで、10月20日に起案された庁議決定書があります。この交渉状況について報告を受けることになっていますけど、顧問弁護士からどのような報告を受け、それで何回、何回だけでいいです、再協議を行なったのか、ご説明願います。
道:……(約30秒間沈黙)。複数回、実施をしているところでございます。

 真下議員はこのほか、第三者調査で認められたハラスメントの自殺への「帰責性」について質問したが、道は変わり映えせず「重く受け止めている」と答えるのみだった。

 11月上旬に遺族側から道へ示された疑義(自殺とハラスメントの相当因果関係の確認など)について、道からの回答は12月上旬時点で届いていない。遺族代理人の植松直弁護士(函館弁護士会)は、今後の交渉について「パワハラと自死との因果関係を認めない前提なら、示談は困難。道には時間をかけてでもきちんとした判断を示してもらいたい」と話している。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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