7月14日の東京地裁、刑務官に付き添われて法廷に現れたのは、東京地検特捜部に業務上横領で逮捕・起訴されたコンサルティング会社「トライベイキャピタル」の元社長・三浦清志被告。この日の初公判では「私は無罪です」として容疑を否認し、争う姿勢を見せた。実はこの裁判、永田町では別の意味で注目の的になっている。
■横領事件の三浦被告と大樹総研
清志被告の妻は、国際政治評論家の三浦瑠麗氏。夫の裁判以上に瑠麗氏の近況が話題になるほど格差がある二人なのだが、事件前、メディアで活躍していた瑠麗氏のもとには多くの自民党議員が足を運んでいたという。当然、清志被告とも接点があったはずで、裁判の行方を気にしているのはそういった連中だ。
検察側は冒頭陳述で、三浦被告が出資者に断ることなく、預かっていた約7億円を無断で資金移動して債務返済などに充てた上、出資者に虚偽の説明をしていたなどと犯行状況を明かしたが、同被告は否認する姿勢を崩していない。裁判が長引けば、政治家に関する話が飛び出すかもしれないという危機感を持つ政治家は少なくない。
刑事事件で被告が否認する場合、被告人質問などを通じた検察側の立証が厳しくなる傾向にある。質問時間も長くなり、直接、事件とはかかわりないことに質疑が及んでしまうこともある。「被告人質問などで政治家との関係などを聞かれて変なことにならないのか」(自民党のベテラン議員)という危惧があるのだ。
その背景には、「政界フィクサー」と異名をとる大樹総研の総帥・矢島義也氏の存在がある。大樹総研の元幹部によれば、「矢島さんは関係のあった三浦被告のことを非常に気にしている。自分のことをいろいろしゃべられてしまうと、やっかいなことになるとこぼしている」のだという。
■落選中、大樹の特別研究員だった木原副長官
特捜部の家宅捜索を2度も受けている矢島氏。6月に国会が閉幕し、次に来る特捜部の政治案件として囁かれているのが「大樹総研」だ。菅義偉前首相や二階俊博元幹事長ら「大物」との交友で知られる矢島氏だけに、動きがあれば話は大きくなる。低迷する内閣支持率にも悪影響を与えかねない。
岸田文雄首相は、解散総選挙を秋以降に先延ばしするという決断を下した。8月末から9月にかけては、内閣改造、党役員人事に着手する見通しだ。最大の目玉が、週刊文春で「愛人とディズニーランド」「妻と殺人事件の深い関係」が報じられている木原誠二官房副長官の処遇。ある自民党幹部が、こう話す。
「内閣改造のセールスポイントは、岸田首相の最側近である木原の入閣になるはずだった。マイナ保険証問題で揺れる河野太郎のあとのデジタル担当相か高市早苗がやっている経済安全保障担当相など、有力ポストでの初入閣は確実だとみられていた。しかし、週刊文春の相次ぐ報道ですっかりスキャンダラスなイメージが定着してしまっている。岸田総理としては右腕ともいわれる木原を近くに置いておきたいが、スキャンダルがあちこちに飛び火して拡大してしまうと防ぎようがない。どうやら腰が引け始めた」
そこへ、三浦被告の初公判、矢島氏と特捜部の動向が複雑に絡みあう。木原氏が、矢島氏と極めて親しい関係にあることは有名だ。矢島氏は、2016年5月に帝国ホテルで挙式をあげた。その時の席次表には、菅氏、二階氏、加藤勝信厚労相、遠藤利明総務会長、野田佳彦元首相らにまじって外務副大臣だった木原氏の名前もある。(*下の画像参照)
木原氏のホームページのプロフィールには「09年~12年、落選中の3年間、民間企業で営業マンとして経済の現場で働きながら、地元政治活動を継続」とある。木原氏は、自民党から民主党に政権交代した2009年の総選挙で敗れ議員バッジを失った。この間の木原氏の面倒を見ていたのが大樹総研なのだ。
大樹総研関係者によれば「落選中、木原氏は大樹総研の特別研究員という肩書で面倒を見てもらっていました。おそらく2、3年はその肩書を使っていたはずです。合計で500万円ほどがが大樹総研から木原さんに流れていたと聞いています。特別研究員といっても具体的な仕事はなく、大樹総研の広報誌にたまに原稿を書く程度だったのではないでしょうか。矢島さんは木原さんがお気に入りだったようで、銀座で一緒に豪遊していたこともあります」
文春砲に大樹総研――木原氏には、いま以上に厳しい道が待ち受けているのかもしれない。ただし、文春砲には「徹底抗戦」の模様で、司法記者クラブあてに『(木原氏が)捜査の公正を害し、政治的を圧力を加えたかのような印象付ける、事実無根の記事が掲載された』『刑事告訴も含めて厳正な対応を行う』と訴えている。
特捜部が本格的に矢島氏への捜査に乗り出した時、木原氏もその視野に入ってくる可能性がある。前出の自民党幹部は、次のように見通す。
「大樹総研のビジネスは、矢島氏が親しくしている自民党の有力政治家やその周辺を使って役所に無理な案件を処理させ、クライアントからごっそりとコンサルタント料をせしめるというもの。そこに何らかの形で木原さんが関わっていた可能性だって捨てきれない。そうなる前に岸田総理が木原を切ってしまうこともある。ただ、岸田政権を動かしてきた木原は司令塔のような存在。特捜部の出方によっては、政権運営が迷走しかねない。自民党が大きなダメージを受けるのも必至。総理も木原をそばに置くべきか、あるいは一度切り捨てるか、悩むところだろうね」
今年下半期の永田町は、「大樹総研」がキーワードになるのかもしれない。