新型コロナ対策の政治的背景 ―政界の重鎮・山崎拓元自民党副総裁インタビュー(上)― 

新型コロナウイルスが猛威を振るう中、安倍晋三首相は、集会の自粛、学校閉鎖、中韓を含む諸外国からの入国制限といった対応策を打ち出したが、感染拡大は止まらない。東京五輪・パラリンピックは延期に追い込まれ、7日には「緊急事態宣言」を発する事態となった。 

この先、日本の政治は、経済は、社会はどうなるのか――。国家の舵取りを経験してきた山崎拓元自民党副総裁に話を聞いた。

 

■習近平の訪日問題がコロナ対策を遅らせた

――お忙しい中、ありがとうございます。どうしてもここから入らざるを得ないのですが、新型コロナウィルスの感染拡大が、各方面に様々な影響を及ぼしています。政治への影響、経済への影響、さらには社会全体への影響――。どう見ておられますか?

政治への影響という観点から言えば、政治日程が大きく変わったこと。これが一番でしょう。

まず、習近平国家主席の訪日日程が延期になりました。これが非常に大きな影響を及ぼしたと思います。

訪日がいつになるのか、秋にもということではあるのですが、オリンピックが1年延期になった中、つまりコロナの完全収束がない状況の中で、震源地と言われている中国の国家主席の訪日日程は、かなり延びると見るべきでしょう。

外交面においてこれといった実績がない安倍総理は、習主席を国賓として迎え、第5の政治文書を発出してレガシーにしたいという思惑があった。新型コロナの問題で、その政治日程が大きく変わったという気がしますね。

 

――習近平さんの訪日は、安倍さんにとっては大きなイベントだったということですね。

 そうです。もちろんです。今まで江沢民も来てるし、その後胡錦濤も来ていますからね。その都度、政治文書を出しているんです。次が第5の政治文書ということになります。

最初は日中国交正常化の時。これは田中角栄内閣の1972年に最初の政治文書「日中共同声明」ができて国交回復を果たし、その後、78年に日中平和友好条約を結んだ時にも共同宣言を出した。

つまり中国との政治文書は今まで4回出しているんですが、その度に平和共存、相互不可侵等の平和5原則を確認している。いわゆる日中間の武力衝突は絶対にしない、ということが入っていたわけです。

だけど、最近は尖閣に中国の公船が習近平政権になって特に激しく来るようになって、南沙問題を含めて、軍事的な緊張関係がむしろ大きくなっている。なので、それに歯止めをかけるべく、両国の首脳同士の改めての約束というものを今回取り付けたいという野心があった。まぁ、政治家としては当然の野心ですけれども……。

ところが、新型コロナウィルスがパンデミックの状況になった。震源地は中国だというわけですね。国内には、もともと国賓として招くことについての反対意見が、安倍総理の支持基盤の中にも、例えば日本会議などからあがっていた。それを安倍総理は押し切って、習近平の4月訪日を強行しようとしていた。

マスコミの中でも産経新聞は、元々安倍総理を支持しているところなんですが、反対の論調を押し出した。安倍総理は、それをむしろ抑える形で、あくまでも実施しようとしておった。それで、新型コロナ対策が遅れた面があるんですよ。中韓からの来日旅行者を封じ込める決定が非常に遅れた。時期を逸したということです。

習近平国賓来日の問題はペンディング化していた。それがやっと2月末に中国から楊潔篪(よう けっち)国務委員が来て、日本政府と話し合った結果、やり直そうかということになった。

つまり延期ですけれども、そこでやっと中国全土からの訪日を封じることに踏み切った。対応が遅れた一つの原因は、そこにある。

■国際的な不況に

――新型コロナの対応遅れと習近平さんの来日というのは全部リンクしていたということですね。よく分かりました。政府の対応が後手に回ったせいもあり、影響を受けた企業の倒産件数が増え始めています。今後の見通しは――。

ものすごく影響がでていることは、日々実感しますよ。例えば、私は毎週東京と福岡往復していますけれども、飛行機の便数が半分に減りました。お客さんの乗り手がないから、便数を半分に減らしている。それでも席が埋まらない。今までは、常に満席でしたがね。

あるゆる面で、人の動きが止められている。そういう状況なのでホテルも、飲み屋さんもガラガラ。人の動き、モノの動きが止まっているわけです。これが長引くということになれば、日本経済に大きな打撃が起こると思います。

また、パンデミックですから、国際的な不況になる。日本はいわゆる貿易立国であることは衆知のことですが、輸出も減る。一方、国内的には各種の集会を事実上禁止して、多くの人が街に出てこれないような状況になってきている。経済活動は、益々委縮することになるでしょう。

 

■補佐官政治に問題あり

――そういった中で安倍総理が2月29日に1回目の新型コロナ対応の会見を開き、記者団の質疑応答を受けなかったということで、かなり厳しい批判を浴びました。だから、国民に会見の意図がよく伝わらない。さらに、3月14日の会見もある程度の時間を取ったんですけれども、めんどうな質問には答えようとしなかった。安倍さんは経済対策を含めていろいろ話されたんですけれども、この一連の対応についてはどう思われますか?

安倍総理の対応の中で、特に批判が大きかったのは学校閉鎖ですね。小中高の学校の閉鎖を、春休みまでやると――。いきなり根回しなしに発表した。例えば文科大臣とか、官房長官とか、あるいは党側にも、根回しなしに突然打ち出しました。

もちろん、コロナ問題に対応の遅れがあるという国民の批判に対して、「そんなことないよ」と、「俺は決断と実行力の持ち主だ」ということを演出するため、学校閉鎖ということを突然打ち出した。まあ、一種の奇襲ですよね。

この案を今井尚哉首相補佐官が進言したということは、官邸の記者たちも含め多くの関係者がそう言うんで間違いない。ですから、今井補佐官一人に対してあまりにも依存し過ぎる政治的判断に関しては、問題があると思います。彼は経済産業省出身ですから、教育の分野に責任を持ったことがない。しかし、日本は教育立国であるし、義務教育でもあるんですから、当然教育を所管している文科省とは協議の上にやらないといけない。

親は子供を学校に預けているわけで、唐突な学校閉鎖が家庭や社会にもたらす大きな混乱もある。子供たちの教育はカリキュラムに基づいて行われているので、それがカバー出来なという弊害もある。

いきなり大英断だったと称してやったんだけれど、思慮深い判断であったかどうか。

一応新学期は始めることになりましたが、これは当然のことなんでね。感染防止のそれなりの対処措置を取って始めろ、という指示を出したということでしょう。ただ、新学期がこれからどうなるかは判然としませんが……。

 

――今井補佐官の話が出ました。そこでお尋ねしますが、官邸を仕切っているのは菅義偉官房長官だと言われてきました。ところが、ここに来て菅さんと総理の間にかなり隙間風が吹いており、今井補佐官の力が強くなったと伝えられています。本当の所はどうなんでしょうか?

僕は現場にいないので、責任ある見方はできませんが、もっぱらそういうふうに言われています。

菅さんの人事に関わる「菅人事」と言われるところで問題が噴出しています。河井克之(前法相)・案里夫婦の問題もあるし、菅原(一秀前経産相)さんの問題もあるし、(IR疑惑の)秋元さんもそうですが、菅人脈が問題を起こしていることは事実なので、いま菅さんは政治的に弱い立場になっている。問題児を抱え過ぎたことは事実ですね。

さらに、菅さんが可愛がっていた和泉洋人首相補佐官と大坪寛子厚労省官房審議官の不倫問題で、週刊誌にやられました。その和泉と今井の仲が悪い。犬猿の仲。その関係もある。それが連動して、安倍総理の菅さん敬遠につながっているという分析がされているが、たぶんそれは事実かもしれません。

(つづく)

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