「安倍やめろ」排除 北海道警が仰天の「適法」主張――法廷では新証拠の動画上映

昨年7月に札幌市で起きた首相演説ヤジ排除問題で、排除当事者が北海道警察を訴えた国家賠償請求訴訟の口頭弁論が4月3日、札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で開かれ、被告の道警が改めて排除を「適法だった」と主張、請求の棄却を求めた。「安倍やめろ」などとヤジを飛ばして排除された大杉雅栄さん(32)にとって2回目の口頭弁論、「増税反対」などと叫んで排除された絹田菜々さん(仮名・24)=追加提訴=にとっては初弁論となり、この日から2つの裁判が「併合審理」となった。

「私が当たり前に享受していた自由・人権は、権力がその気になれば一発でなくなるものなのだと痛感しました」―― 2月末に国賠訴訟を提起した絹田さんは憤りを抑えきれず、たびたび声を上ずらせながら意見陳述に臨んだ。警察官の違法行為を批判するくだりでは、被告席に並ぶ道警側の代理人たちに厳しい視線を向けた。

「街宣車の上にいる彼(筆者註・安倍晋三総理大臣)の意見の重さと、地面から発する私の意見の重さは同じです。見下ろしながら一方的に語られることに慣れるわけにはいきません」

この日の弁論では原告側代理人が新たな映像を証拠提出、絹田さんが警察官に拘束される瞬間を撮影した動画が法廷で再生され、傍聴人が喰い入るようにその場面を見据えた。

法廷では、証拠提出された新たな映像が再生された。

3月下旬までに書面で反論を寄せていた道警は、JR札幌駅前で大杉雅栄さんが放った「安倍やめろ」のヤジを「罵声」と表現、現場にいた多くの与党支持者たちとの間で暴行事件に発展する危険が差し迫っていたとし、排除行為の正当性を主張した(警察官職務執行法4条に基づく「避難」)。

また大通地区に移動した大杉さんが首相の乗る選挙カーにヤジを飛ばした際、現場の警察官らは大杉さんが「物を投げたり発射する」「光線を照射する」「爆発物を爆破させる」などの行為に及ぶ危険性を感じたといい、やはり排除行為を正当化している(警職法5条の「制止」)。

弁論後の記者会見では、大杉さんがこれに「ぼくはウルトラマンか?」と皮肉を放つことになった。

道警は排除を手掛けた警察官の身分を明かさず、準備書面に「警察官A」などの匿名表記を連ねているという。原告側は改めて警察官を特定するよう道警に強く求めたが、被告側代理人は「検討する」と答えるにとどめている。また道警は当時の警察官の行為を裏づける証拠を一切提出していないといい、原告側代理人が会見で次のように明かした際には参加者の間から失笑が漏れた。

「ヤフーニュースのコメントを証拠として出してきて、『道警の行為を応援している市民がたくさんいる』と主張しているんです」

代理人の1人で前札幌市長の上田文雄弁護士(札幌弁護士会)は「いかに言論の自由が大切か」と強く訴え、絹田菜々さんの陳述を引いて「おかしいことに『おかしい』と言える社会を保障するため、熱心に話してくれた。引き続き多くの皆さんに関心を持って欲しい」と呼びかけている。

この日は国賠の弁論に併せ、絹田さんが現場の警察官らを特別公務員暴行陵虐などで札幌地方検察庁に刑事告訴したほか、同じ趣旨の告訴で不起訴決定を受けていた大杉さんが札幌検察審査会に審査を申し立てた。国賠訴訟の次回弁論は6月15日午後、札幌地裁で開かれる。

弁論後の報告集会(4月3日夕、札幌市内)=左から齋藤耕弁護士、上田文雄弁護士、原告の大杉雅栄さん、同じく絹田奈々さん、小野寺信勝弁護士

(小笠原 淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

 

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