三反園前鹿児島県知事が自民党公認をもらえない理由

今年7月の鹿児島県知事選挙で2期目を目指して落選した三反園訓前鹿児島県知事。選挙後は衆議院鹿児島2区内の各自治体で朝立ちや戸別訪問を繰り返し、総選挙に出馬する意向を示していたが、ここに来て周辺に漏らしたとされるのが「二階派に入りますから」という発言。剛腕幹事長の力を借りて自民党公認を取り付けたいところだろうが、厳しい政界のこと。浪人中の人間の思惑通りには動かない。三反園氏が公認をもらえない、その訳とは……。

■「二階派に入ります」

三反園氏は落選後、鹿児島県内の各市町村で朝立ちを実行。マイクを握って主張を展開するわけではなく、ただ“手を振る”というスタイルで注目を集めてきた。

県民には意図が伝わらず、「三反園さんは何をやっているのだろうか?」、「鹿児島市長選に出るのか、総選挙狙いかのどちらかではないのか」などと訝る声が上がる状況だったが、9月頃から活動を衆議院鹿児島2区内に集中。同区内に政治活動用の看板を増やした他、戸別訪問まで行うようになっていた。
(*鹿児島第2区は、鹿児島市内の谷山・喜入の各支所管内、枕崎市、奄美市、指宿市、南さつま市、南九州市、大島郡で構成。下の図参照)

三反園氏の狙いが鹿児島2区からの出馬であることは誰の目にも明らか。そうした中、今月になって県内の政界関係者や報道機関の記者の耳に入ってきたのは、「二階派に入ります」という本人が語ったとされる一言だった。話はまたたく間に永田町まで広がり、今月11日に三反園氏が二階俊博幹事長を訪ねたことで、「2区の自民党公認を狙っているのでは?」(自民党の地方議員)と憶測を呼ぶ状況になっている。

二階幹事長は、三反園氏がテレビ朝日のコメンテーターだった時代から良好な関係を保ってきたとされる大物政治家。知事選の終盤戦では、三反園氏支援のためわざわざ鹿児島に入り、建設業界や創価学会に票の積み増しを頼んだほどだった。

菅政権の生みの親といわれる二階氏が三反園氏のバックについて、鹿児島2区の自民党公認を奪うのではないか――。ざわつく県政界にあって、前知事を嫌う自民党関係者は、怒りを露わにこう話す。
「絶対に阻止する。三反園は、一番強いはずの首長2期目で、自民・公明の推薦をもらいながら自らの失態で再選を逃がした。自公の票がなければ、惨敗だったろう。国対委員長として政権を支えておられる森山(県連)会長に恥をかかせておいて、なにが自民党公認か。冗談じゃない」

たしかに、世の中はそれほど甘くない。三反園前知事がどれだけ二階幹事長と親しかろうと、自民党公認を得るのは難しい。自民現職を押しのけて無理やり三反園氏を公認すれば、二階幹事長自身が大きな矛盾を抱え込むことになるからだ。

■山口3区

10月4日、山口県内で開かれた河村建夫元官房長官陣営の決起集会の壇上に、二階幹事長や林幹雄幹事長代理、武田良太総務大臣など二階派の面々数十人がズラリと並んだ。――。

二階派の会長代行を務める河村氏は山口3区選出。参議院から山口3区への鞍替えを示唆した林芳正元文部科学相を牽制するためのデモンストレーションだった。
(*山口3区は、山口市の一部、宇部市、萩市、山陽小野田市、美祢市、阿武郡で構成)

「『売られた喧嘩』という言葉がある…(略)…政治行動のすべてをなげうって我々はその挑戦に受けて立つ」ケンカ腰でまくし立てた二階氏の言葉を補うように、林幹事長代理は「(林氏が出馬を強行すれば)除名もあり得る」と踏み込んだ。

自民党の公認は“現職優先”が不文律。林氏が公認候補の足を引っ張るようなマネをすれば、党を除名するぞという警告だった。この幹事長派閥の動きが、他の選挙区に大きな影響を及ぼすことになる。

■福岡5区

政令市福岡の周辺都市である春日市や大野城市、那珂川市、筑紫野市、朝倉市、太宰府市、朝倉郡、福岡市南区の一部などで構成される衆院福岡5区の現職は、麻生派の原田義昭元環境大臣。そこに、福岡県議会の栗原渉元議長が「自民公認」を求めて手を挙げた。

栗原県議は農水相や総務庁長官を歴任した太田誠一氏の元秘書。原田氏が所属する派閥「志公会」のトップは麻生太郎副総理で、太田氏との関係は決して良くはない。

麻生氏としては、なんとしても自派閥の原田を守りたいところだろう。しかし、栗原氏は自民党県議団の推薦を得るなど着々と地歩を固めており、業界団体の一部からは待望論が出るほど。県連と党本部の調整は難航しそうだ。

地元の評判がいま一つの原田氏にとって、救いの神となっているのが二階派。幹事長派閥が山口3区で「現職優先」を断言したことで、「福岡5区も現職優先」と主張し始めている。

田川市など福岡県の東部に地盤を持ち、麻生氏とは犬猿の仲である武田総務相でさえ「現職優先は福岡5区も同じ。山口3区と違う対応はできない」と話している。では、鹿児島2区はどうなのか――。

■鹿児島2区

鹿児島2区の自民現職は金子万寿夫衆院議員である。金子氏は町議、議員秘書を経て県議6期、この間県議会議長や全国都道府県議会議長会会長も務めたベテラン政治家だ。現在、衆議院議員として当選3回。出身地の奄美を中心に堅固な地盤を誇る。

三反園氏が2区で公認を得るためには、その金子氏に引退か比例区転出かの決断をしてもらうしかない。しかし、金子氏が「公認は、現職の俺だ!」と言い張れば、いかに剛腕の二階幹事長といえども三反園公認をゴリ押しすることはできない。ゴリ押しすれば、山口3区や福岡5区の現職が、公認の大義名分である「現職優先」を主張できなくなるからだ。もちろん、二階氏自身も自己矛盾で評価を下げることになる。金子氏としては「鹿児島2区も、山口3区や福岡5区と同じ。現職優先!」で通せば済む。

何としても三反園公認への道をひらきたい連中がいるらしく、ここに来て鹿児島県政界で囁かれ出したのが「金子代議士は4,000万円もらい、比例区に回ることになる」という噂。出所不明のこの話は、今月に入って広がり、金子氏の耳にも届いているという。

関係者によれば、この噂話を聞いた金子氏が発したのは「現職優先。公認は私」。短い言葉が、三反園氏とフェイクニュースを流している連中への怒りの強さを物語っている。

 

 

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