コメ農家議員秘書が語る厳しい現状|「増産」を阻む壁

 農相が小泉進次郎氏から鈴木憲和氏に代わったとたん、増産から減産へと急転換したコメ対策。ほくそ笑んでいるのは農林省で、コメの価格高騰に悩む国民は猫の目農政」に振り回されている。では、コメ農家はこの状況をどう見ているのか?永田町で勤務しながら、週末ごとに実家でコメ作りを手伝う現役の議員秘書が厳しい現状について語った。

 ◆   ◆   ◆

 私は米作地帯で生まれ育ち、大学卒業後は国会議員の公設秘書になりました。これまでも現在も、時間があれば田舎に帰り、コメ作りを手伝っています。コメ作りの実態が国民に伝わることは少なく、「減産」だの「増産」だのと簡単に口にする軽薄な農相たちの姿勢には辟易してきました。いい機会ですので、現状についてお話しさせてもらいます。

 農機具メーカーの広告を見ると、クボタの田植え機の価格は次の通りです。

・NW10S 10条植:メーカー希望小売価格(税込)5,962,000円 ~ 7,084,000円
・NW50S 5条植:メーカー希望小売価格(税込)3,597,000円 ~ 4,169,000円

 三菱のトラクターは、

・GFAシリーズGFA11・13・15・18 10.5馬力~18馬力:メーカー希望小売価格(税込)1,111,000円 ~ 2,206,600円
・GOEシリーズGOE25 25馬力:メーカー希望小売価格(税込)3,441,900円 ~ 5,177,700円

 各社の価格を表にすると平均値はこうなります。

・トラクター:200万円~300万円
・田植え機:100万円~300万円
・コンバイン:200万円~500万円
・乾燥機 :100万円~200万円
・籾すり機: 50万円~100万円
・散布機・噴霧器:数万円~20万円以上

 これだけの農機具をそろえてコメを生産しようとしても、担い手不足に加え高齢化が進み、増産しようにも作業者が足りないというのが現状なんです。高価な農機具のローン返済のためにコメ作りを続けているようなものです。これが今のコメ農家に突きつけられた現実でしょう。

 ◆   ◆   ◆

 「令和の米騒動」を受け、石破茂前首相は今年8月に「増産にかじを切る」と表明しました。しかし、10月に発足した高市早苗政権は「需要に応じた生産」を掲げ大きく軌道修正しています。鈴木農相は「価格はマーケットで決まるもの」と述べ、政府は価格形成に関与しないという方針ですが、彼はコメの価格をコントロールしてきた農林省出身の官僚政治家。あちこちから「どの口が言う」との批判が聞こえてきます。

 一方で、石破内閣の下で小泉前農相がやった備蓄米放出の効果は限定的で、「単に倉庫からコメを出しただけ」の効果しか生んでいないとの評価もあるようです。

 近年の日本のコメ政策において、最も深刻な課題は「供給能力の低下」だと思います。表面的には作況や在庫量の変動が議論されますが、その背景には、JA組織の構造問題、小規模農家の多さ、高齢化の進行、地域過疎化という四つの要因が絡み合い、稲作基盤そのものが縮小しているという現実があります。

 これらの課題を分析し、今後の供給能力を展望すると、現状維持すら困難となる可能性が高いことが分かります。増産には大きな壁が存在するのです。理由を4点、述べます。

 第一に、JAの組織構造が、地域の農家を支える重要な存在である一方で、農地の大規模集約や農業法人の発展を阻む要因にもなっている点。JAは「地域の小規模農家を平等に扱う」という性格上、特定の担い手に農地を集中させることに慎重になりがちです。結果として、地域全体で農地が細分化されたまま放置され、効率的な経営を目指す農業法人やプロ農家が望む形で土地をまとめられないという事態になります。こうした構造は、農地面積の減少以上に「使える農地の減少」を生み、供給能力を実質的に押し下げているんです。JAの票田に頼ってきた自民党が、改革できるとは考えにくいですね。

 第二が、日本の水田構造そのものが小規模農家中心で成り立っている点。1経営体あたりの平均経営面積は依然として小さく、多くの農家が2~3ha以下の規模で稲作を続けています。このクラスの農家にとって、機械更新や人手確保は極めて重い負担であり、結果として離農が進みます。

 離農後の農地がスムーズに担い手へ集約されればまだよいのですが、現実には所有者不明土地や耕作放棄地化し、地域の稲作能力そのものが削られます。こうした分散型・零細型構造が改善されない限り、大規模経営による効率的な供給システムを確立することは難しいと感じます。

 高齢化の影響は想像以上に大きいというのが第三の点。農家人口の平均年齢は70歳を超え、多くの地域で「次の担い手」がいなくなっています。高齢農家が担う水田は、地域の用水管理や農地の防災機能を支える基礎でもあり、彼らが同時に引退すると、単に作付けが減るだけでなく、地域の水利システムや農道管理が崩れ、周辺の圃場まで耕作困難にとなる「連鎖的供給力低下」が起こるでしょう。これは地域単位の崩壊であり、一度進むと短期間で回復することはほぼ不可能となります。

 第四は、過疎化が稲作供給能力の基盤を揺るがしているという現状。集落人口が減少すると、農業のオペレーションを支える人材(用水管理、共同作業、水路整備など)が不足します。稲作は1人の経営者だけで完結する産業ではなく、地域共同体に依存した産業であるため、集落維持機能の弱体化は、直接的に供給能力の低下につながるのです。過疎化地域では、農業法人が参入しても地域運営機能が追いつかず、結果として大規模化が進まないケースが増えます。

 これら四つの要因を総合すると、日本のコメ供給能力が今後10〜20年で大きく下落する可能性が高まります。現在の生産量は約700~750万トンですが、担い手不足と耕作放棄地の増加により、2035年には6割程度(約450万トン)まで低下するというシナリオが現実味を帯びます。これは食料安全保障上、極めて重大なリスクではないでしょうか。

 では供給能力を維持・向上させる道はあるのか。鍵となるのは、(1)農地集約の加速 (2)農地バンクの実効性強化 (3)地域共同体の維持コストを公的に支える仕組み (4)JAの機能改革の4点です。特に、所有者不明土地や細分化農地を行政主体で迅速に集約し、大規模法人へ中長期で貸し付ける制度改正は不可欠。また、地域の水利管理を公的インフラとして位置づけ、農家だけに維持負担を押し付けない仕組みが必要です。

 総じて言えば、日本の稲作供給能力は、農家数や面積以上に「地域基盤の維持能力」次第で決まるということになります。そしてその基盤が急速に脆弱化している現状では、抜本的改革を前提としなければ供給力は確実に低下すると言わざるを得ません。国土保全・食料安全保障の観点からも、稲作を単なる農業生産ではなく、地域インフラ維持の柱として再定義し、政策再構築を進めることが求められているのではないでしょうか。単純に「増産」だの「減産」だのと打ち出す大臣たちは、農家の実態やコメ作りが持つ意味を理解していないのです。

(コメ農家の議員秘書)

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