背任事件で揺れる日大と安倍元総理の接点

東京地検特捜部は今月8日、日本大学の本部や大学の関連会社「日本大学事業部」(世田谷区)、田中英寿理事長の自宅などを背任の容疑で家宅捜索。9日には、大阪を基盤とする医療法人グループの関係先にも捜査の手をのばした。

東京都板橋区の日本大学医学部付属板橋病院の建設工事を巡って、大学側に2億円の損害を与えた疑いだ。

このニュースを見て、自民党のベテラン代議士がつぶやいた――「安倍さん、総裁選で一生懸命だが、大丈夫なのか?」

■医療法人「錦秀会」CEOと安倍元総理

永田町関係者が注目したのは、特捜部が家宅捜索した医療法人グループの関係先企業。同社は、医療法人「錦秀会」が設立した会社だからだ。

錦秀会を率いているのは籔本雅巳氏。この名前を聞いて反応する自民党関係者は少なくない。

錦秀会は徳洲会に次ぐ全国第2位の医療グループ。CEOである籔本氏の名前は医療界だけでなく政界にも轟いている。

2017年、森友学園への国有地払下げ問題を巡って安倍首相(当時)に疑惑が浮上。同時に、国家戦略特区を利用した加計学園の獣医学部新設にも便宜供与の疑いがかけられる騒ぎとなった。

加計学園の加計孝太郎理事長は安倍氏と昵懇の仲。山梨県の別荘で、安倍側近の萩生田光一衆院議員を交えてバーベキューを楽しむ写真が度々報じられている。

安倍氏は、首相在任中から休暇になると山梨県の別荘でゴルフに興じてきたが、「首相動静」に度々出てくるゴルフ仲間の一人が籔本氏だ。

例えば2017年5月4日の日程。

▽6時43分 宿泊先の山梨県鳴沢村の別荘発。48分 同県富士河口湖町のゴルフ場「富士桜カントリー倶楽部」。増岡聡一郎鉄鋼ビルディング専務、籔本雅巳錦秀会グループCEOらとゴルフ
▽14時24分 別荘。
▽17時33分 昭恵夫人、萩生田官房副長官、長谷川首相補佐官、秘書官らとバーベキュー

次は、2020年1月4日の日程。

▽7時33分 東京・富ケ谷の私邸発。

▽8時24分 千葉県袖ケ浦市のゴルフ場「カメリアヒルズカントリークラブ」。籔本雅巳錦秀会グループ最高経営責任者(CEO)、松崎勲森永商事社長らとゴルフ

前出の自民党ベテラン代議士が、こう話す。
「安倍氏と籔本氏の仲の良さは有名ですよ。お盆、ゴールデンウイーク、正月とゴルフをするときには、たいてい籔本氏が大阪からやってきますから。安倍氏にとって、友人でありスポンサーであり、加計氏と同じように欠かせない人物だと思いますね」

■相撲を通じた縁

特捜部が踏み込んだ錦秀会の関連企業(以下、X社)の商業登記を見ると、代表者は籔本氏の親族と思われる人物。所在地も、錦秀会本部の目と鼻の先に位置する。錦秀会のホームページにも『2010年(平成22)9月  株式会社Xを設立する』という記載があった(現在は削除)。X社とは別に特捜部が家宅捜索した東京の会社も、錦秀会の関連企業だとされる。

特捜部が狙っているのは、日大の田中英寿理事長や、その側近の理事で日大事業部の取締役でもある井ノ口忠男氏とみられている。井ノ口氏は2018年、日大アメフト部の危険タックル事件で、当事者に「口封じ」したのではと問題になった人物だ。

「設計会社への支払いの際に、井ノ口氏がX社などを介在させて2億円あまりを抜き、裏金化させたのではないか。裏金が欲しい日大幹部と大学病院に深く食い込みたかった錦秀会の利害が一致した」というのが、特捜部の見立てだろう。

もともと籔本氏と日大には、「相撲」を通じた縁がある。日大相撲部出身である田中氏の後輩にあたるのが大相撲の人気力士遠藤。籔本氏は、遠藤の後援会長だったこともある。今年4月には、日大の大学院で学ぶ大栄翔と相撲部OBの剣翔に大阪の校友会が化粧まわしを贈呈したが、田中氏や井ノ口氏と一緒に藪本氏が贈呈式に出席していた。

安倍氏と日大に強い影響力を持つとみられる籔本氏。だが、足元の錦秀会は揺らいでいる。

2020年3月、籔本氏が理事長を務める兵庫錦秀会の「神出病院」で、入院患者への暴行、虐待、性的行為の強要などが行われていたことが発覚。この事件で看護師ら6人が兵庫県警に逮捕された。神戸地裁はうち3人に実刑判決を言い渡している。そして、今回の東京地検特捜部のガサ入れ――。錦秀会に詳しい関係者は次のように話す。
「昭和の時代だったが、籔本氏の父で創立者の秀雄氏は、6億円という当時最高額の脱税などで逮捕され有罪判決を受けた。苦い経験をした錦秀会はトラブルに強い。そうした錦秀会の知恵があったからこそ、日大は病院の工事で2億円が抜けたんじゃないのか。東京地検特捜部は、そうみているはずだ。ただ、籔本氏はバックに安倍元総理がいるからなのか、平然としているそうだ」

モリ・カケで国民の信頼を失い、桜を見る会で刑事告発されるなど、疑惑にまみれた安倍氏。その友人の関係先にも、新たな事件で検察の捜査の手がのびた。麻生太郎副総理や二階俊博幹事長に力の衰えが見える中、キングメーカーを自認する安倍氏に、次なるスキャンダルが噴き出す可能性もある。

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