2010年9月に京都市左京区にある不動産会社の経営者宅から1億円を強奪、経営者の妻からさらに2,500万円を脅し取るなどして、強盗致傷や強要未遂容疑に問われている男の裁判員裁判が京都地裁で行われている。その男は、なんと元議員秘書。「上倉崇敬」という名前を聞いただけで、震えが来る政界関係者は少なくないという。
■「陳情処理」で荒稼ぎ
18年11月に京都市の事件で逮捕された時、上倉被告が元国会議員秘書だったことが報じられ、大騒ぎになった。上倉被告が自民党の二之湯智、山東昭子両参院議員と佐藤ゆかり衆院議員の秘書だったと法廷で明かしたからだ。二之湯氏と佐藤氏のもとでは、公設秘書を務めていた。
法廷で上倉被告は、「国会議員秘書として多額のお金を持っていたので、犯人ではない」などと、議員秘書という立場や肩書を理由に否認、被告人質問で語った内容は、驚くべきものだった。議員秘書時代の上倉被告は、「口利き」で多額の収入を得ていたというのだ。その金額は「数百万円、数千万円ということもあった」というのだから、開いた口が塞がらない。
2,000万円をもらったという「口利き」の実態は、次のようなものだった。
2013年、京都府向日市のX病院が、保険医療機関の指定取り消しを受けたことが公表された。原因は診療報酬の不正請求だった。上倉被告はX病院から「厚生労働省に圧力をかけて、処分を軽減し、処分決定までの時間を引き延ばしてほしい」と“陳情”を受けたのだという。そして、どうしたか――。
・「厚生労働省に圧力をかけました。その際、自民党の幹事長、官房長官経験者の議員秘書、参議院のドンと言われた議員の秘書らろ一緒にやりました。秘書とは京都の祇園、銀座で何度も飲みに行きX病院に経費として、何百万円かを払ってもらいました」(同被告)
・「圧力のおかげで、5億円と言われた不正請求の金額は大幅に減りました。処分決定まで半年ほど時間稼ぎができたため、陳情処理は成功。X病院の事務局長から2,000万円の報酬を後日、受け取りました」(同被告)
上倉被告の証言をもとにX病院について過去の報道を調べると、確かに診療報酬の不正請求保険医療機関の指定を取り消されていた。
■裏金でクラブ経営も
陳情処理で儲けたカネを入れる財布の他、別の財布も持っていたようだ。
・「国会議員秘書がばれてはいけないので、ダミー会社を設立し、祇園でKというクラブを経営していました」(同被告)
羽振りが良かったその当時、とんでもないことが起こったという。
2010年11月、京都府警は、指定暴力団六代目山口組ナンバー2の高山清司若頭を恐喝容疑で逮捕(その後実刑確定)。Kというクラブは、この事件と関連があったという。
・「クラブのママが、別でやっていた店に高山若頭が来ていて親しかった。ママは恐喝の現場に居合わせたと京都府警は疑っていた。現役の国会議員秘書が経営しているクラブと暴力団との関係がバレたら、マスコミが大騒ぎします。あわてました」(同被告)
確認してみたところ、件のクラブママは2011年3月に、高山若頭とは関係がない事件で逮捕されていた。元議員秘書の周囲には、物騒な人ばかり集まっていたということだろう。
上倉被告は2015年5月に島根県松江市の住宅に押し入り、住民にけがを負わせた強盗致傷の罪ですでに実刑判決が確定している身。前述の裁判は、別件でのものだ。検察側は、上倉被告が犯人であるとして、懲役20年を求刑している。
危険な男と関わり合いのあった政治家や議員秘書は、背筋が寒いことだろう。
(山本吉文)